討伐依頼を受けます
受付嬢は、重そうなクリスタルの石板を出し
「これで判別します。虚偽の行為が認められたら、すぐに衛兵に突き出されるので、嘘はいけませんよ」
そう言ってウインクをする。
葵は、背中に変な汗が流れてきた。
(ヤバい…これでは登録が出来ない)
不安げな表情を見て
「何か犯罪歴でもあるんですか?」
疑いの目を向ける受付嬢。
「いえ…田舎から出てきたばかりなんで、こういうのは怖くて」
と、出まかせを言う。
受付嬢は、ニコリと笑い
「これは、シンフォニアの加護によってできているクリスタルですから。何も心配いりませんよ」
と、言う。
(…ハッキリ言ってマズい。今から登録しようとしているのは虚偽の申告。でも、シンフォニアの加護があるというなら)
葵は、そのクリスタルに両手を触れた。
文字が躍り出る。
だが、名前は
《アオイ・シイナ》になっているし、魔力値やレベル等も実際とは違う。
(よかった…シンフォニアの加護があるというから賭けてみたけど)
「犯罪歴などはありませんね。へぇ辺境の村から、わざわざ来たんですね。では登録に移らせていただきます」
受付嬢は、事務的に作業を進める。
クリスタルに新規の白いカードを翳すと黒い文字が出てくる。
名前とランクのみだ。
「カードは大切に扱ってくださいね。無くすと再発行料金は高いですから。あと、これはランクをあげていけば分かる事ですが、倒した魔物が大物であれば《スレイヤー》などの称号が与えられます。それでは、そちらの方も新規登録ですか?」
とカイトに聞いてくる。
「…ああ、新規登録だ」
と答える。
その表情は硬い。
葵と同じ不安を抱えているのだろう。
「では、クリスタルに触れてください」
受付嬢は、笑顔で事務的に言う。
少し戸惑いながらクリスタルに触れると、こちらもどうやら虚偽の情報が浮き出てきた。
「へぇ、剣がそこそこ、お出来になるんですね。これならば、弱い魔物を相手に出来るでしょう」
受付嬢は、そう言ってから新規カードをクリスタルに翳した。
とりあえず、登録を済ませると
「では、あちらの依頼ボードから依頼書をこちらに持ってきてください。そうしたら、依頼承諾の処理をさせていただきます。あと、依頼が完了しましたら証明として、採取でしたら採取した物を、魔物なら指定された部位を提出させてもらいます。それで依頼達成になります」
笑顔のまま言われ、葵は
「ありがとう」
と頭を下げお礼を言ってから
「じゃあ、デュラン、行こうか」
カイトを促す。
「ああ」
短く返事したカイトは、葵と共に依頼ボードの前に立つ。
「まずは、小物の魔物を狩ろうか。それなら今のアオイにも狩れるだろう」
カイトがFランクにある魔物イーゲンドック討伐の紙を指さす。
葵には分からないが、それがどんな魔物であるかカイトは知っているのだろう。
「イーゲンドック討伐5匹ですか…わかりました」
と答えて、紙を剥がす。
声は低くしてある。
剥がした紙を受付嬢に持っていくと
「今のあなたのレベルでは、この依頼は…」
と、戸惑っているようだったが
「デュランとパーティを組むので」
と言うと
「まぁ、それなら…」
そう言ってから、二人のカードと依頼書を重ねて認証印らしきものを翳す。
「これで依頼登録されました。討伐証明になるのは、イーゲンドックの牙です。一匹2本ありますので10本持ってきてください。では、お気をつけて」
笑顔の受付嬢に見送られ、二人は開館を後にした。
「…とりあえず、登録が出来てよかったですね。シンフォニアの加護に感謝しないと」
安堵したように小さい声で葵が言うと
「そうだな」
カイトは、そっけなく答えた。
安堵しているのは自分も一緒だが、これから姫の体を危険に晒す事には、まだ多少なりの抵抗はあるのである。
とりあえず、さっきの門の所に行く。
今度は別の門番になる。
葵をじーっと見てから
「身分証は?」
と身分証の提示を求めてきた。
葵は、身分証とギルドカードを出す。
「ギルドに登録されているなら、虚偽はないな」
そう門番は言い
「ま、せいぜい気をつけるんだな。この森は魔物だらけだ。お前のような弱っちい奴はすぐにやられちまうから、危ないと思ったら逃げろ」
今度の門番はビルガ帝国の兵ではないようだ。
だが、後ろにはビルガ兵が立ってはいた。
監視をしているのだろう。
「ありがとう」
礼だけ言って門を出る。
当然、カイトも身分証などの提示を求められて見せていた。
森に入りしばらくすると
「イーゲンドックは、この森ではウロウロしている。動きは速いから気をつけろ。それと、私が3匹狩るから、お前は2匹狩れ」
と、カイトが指示を出す。
「分かった」
葵が答えると
「探索の魔法は使わないのか?」
カイトが問うと
「魔法は、ヴィヴィアンに感知される可能性があるから、使わない方向でいきます」
そう答えて、剣を抜いた。




