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夢の中の異邦国  作者: 如月まりあ
旅立ち
21/141

討伐依頼を受けます

受付嬢は、重そうなクリスタルの石板を出し


「これで判別します。虚偽の行為が認められたら、すぐに衛兵に突き出されるので、嘘はいけませんよ」


そう言ってウインクをする。


葵は、背中に変な汗が流れてきた。


(ヤバい…これでは登録が出来ない)


不安げな表情を見て


「何か犯罪歴でもあるんですか?」


疑いの目を向ける受付嬢。


「いえ…田舎から出てきたばかりなんで、こういうのは怖くて」


と、出まかせを言う。


受付嬢は、ニコリと笑い


「これは、シンフォニアの加護によってできているクリスタルですから。何も心配いりませんよ」


と、言う。


(…ハッキリ言ってマズい。今から登録しようとしているのは虚偽の申告。でも、シンフォニアの加護があるというなら)


葵は、そのクリスタルに両手を触れた。


文字が躍り出る。


だが、名前は


《アオイ・シイナ》になっているし、魔力値やレベル等も実際とは違う。


(よかった…シンフォニアの加護があるというから賭けてみたけど)


「犯罪歴などはありませんね。へぇ辺境の村から、わざわざ来たんですね。では登録に移らせていただきます」


受付嬢は、事務的に作業を進める。


クリスタルに新規の白いカードを翳すと黒い文字が出てくる。


名前とランクのみだ。


「カードは大切に扱ってくださいね。無くすと再発行料金は高いですから。あと、これはランクをあげていけば分かる事ですが、倒した魔物が大物であれば《スレイヤー》などの称号が与えられます。それでは、そちらの方も新規登録ですか?」


とカイトに聞いてくる。


「…ああ、新規登録だ」


と答える。


その表情は硬い。


葵と同じ不安を抱えているのだろう。


「では、クリスタルに触れてください」


受付嬢は、笑顔で事務的に言う。


少し戸惑いながらクリスタルに触れると、こちらもどうやら虚偽の情報が浮き出てきた。


「へぇ、剣がそこそこ、お出来になるんですね。これならば、弱い魔物を相手に出来るでしょう」


受付嬢は、そう言ってから新規カードをクリスタルに翳した。


とりあえず、登録を済ませると


「では、あちらの依頼ボードから依頼書をこちらに持ってきてください。そうしたら、依頼承諾の処理をさせていただきます。あと、依頼が完了しましたら証明として、採取でしたら採取した物を、魔物なら指定された部位を提出させてもらいます。それで依頼達成になります」


笑顔のまま言われ、葵は


「ありがとう」


と頭を下げお礼を言ってから


「じゃあ、デュラン、行こうか」


カイトを促す。


「ああ」


短く返事したカイトは、葵と共に依頼ボードの前に立つ。


「まずは、小物の魔物を狩ろうか。それなら今のアオイにも狩れるだろう」


カイトがFランクにある魔物イーゲンドック討伐の紙を指さす。


葵には分からないが、それがどんな魔物であるかカイトは知っているのだろう。


「イーゲンドック討伐5匹ですか…わかりました」


と答えて、紙を剥がす。


声は低くしてある。


剥がした紙を受付嬢に持っていくと


「今のあなたのレベルでは、この依頼は…」


と、戸惑っているようだったが


「デュランとパーティを組むので」


と言うと


「まぁ、それなら…」


そう言ってから、二人のカードと依頼書を重ねて認証印らしきものを翳す。


「これで依頼登録されました。討伐証明になるのは、イーゲンドックの牙です。一匹2本ありますので10本持ってきてください。では、お気をつけて」


笑顔の受付嬢に見送られ、二人は開館を後にした。


「…とりあえず、登録が出来てよかったですね。シンフォニアの加護に感謝しないと」


安堵したように小さい声で葵が言うと


「そうだな」


カイトは、そっけなく答えた。


安堵しているのは自分も一緒だが、これから姫の体を危険に晒す事には、まだ多少なりの抵抗はあるのである。


とりあえず、さっきの門の所に行く。


今度は別の門番になる。


葵をじーっと見てから


「身分証は?」


と身分証の提示を求めてきた。


葵は、身分証とギルドカードを出す。


「ギルドに登録されているなら、虚偽はないな」


そう門番は言い


「ま、せいぜい気をつけるんだな。この森は魔物だらけだ。お前のような弱っちい奴はすぐにやられちまうから、危ないと思ったら逃げろ」


今度の門番はビルガ帝国の兵ではないようだ。


だが、後ろにはビルガ兵が立ってはいた。


監視をしているのだろう。


「ありがとう」


礼だけ言って門を出る。


当然、カイトも身分証などの提示を求められて見せていた。


森に入りしばらくすると


「イーゲンドックは、この森ではウロウロしている。動きは速いから気をつけろ。それと、私が3匹狩るから、お前は2匹狩れ」


と、カイトが指示を出す。


「分かった」


葵が答えると


「探索の魔法は使わないのか?」


カイトが問うと


「魔法は、ヴィヴィアンに感知される可能性があるから、使わない方向でいきます」


そう答えて、剣を抜いた。


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