ギルドに登録してみよう
「今は、抑えてください」
葵が小さな声で言うと、カイトはギュッと唇を噛んでから
「…仕方あるまい」
そう言って、握りしめていた拳をほどく。
「それより、ギルドに登録しませんか?」
葵の言葉に、カイトは驚きながら
「アオイ…そんな必要は…金貨なら」
「持ってはいますが、何もせずに使えば、疑われるでしょう?ギルドで報酬を得れば、買い物をやりやすいです」
「だが、時間が…」
「時間は早い方がいいとは限りません。焦りは最大の負けの要因にもなるでしょう。それに私自身も剣の鍛錬などをやらなくてはなりません。魔物相手ならば、遠慮なく練習できるでしょう?」
ギュッと、腰に下げた剣を握りしめる。
それをジッと見ていたカイトは
「冷静だな。もっと焦るかと思った」
素直に感想を述べる。
葵は苦笑してから
「私だって、急ぎたい気持ちはありますよ。ですが、今のままではシンフォニアは認めてくれないだろうし、封印は解けません。…強くならないと。心も体も、そして技を磨かないと」
と、言った。
カイトは、感心しながら
「お前は、強いな。あの方とは違う」
と言う。
《姫》という言葉を使わないのは、周囲に人がいるからであろう。
「強くありませんよ。強くありたいとは思いますし、努力はするべきだと思いますが」
首を横に振りながら言う。
そして、周りを見渡し
「とりあえず、ギルド登録しましょう…場所は…」
と、案内図がないか探す。
そこに
「何かお困りかね」
老婆らしき声がした。
視界を少し下げると、杖を突いた老婆がいた。
「おばあさん、ギルドの場所知らない?あとアイテムとかの店も」
葵は、先ほどと同じく低い声で老婆に尋ねる。
「おやおや、若いのにギルド登録とは感心だね。…ギルドは、この道をまっすぐ行った突き当たりを右に曲がった先さ。アイテムを売っているのは、そこから裏通りに入ったところだね」
感心しながらも答えると
「ありがとう」
葵が言い、お礼を渡そうとするが収納魔法を使えないので渡せるものがない。
「礼はいらんよ。この街を魔物の脅威から守ってくれるなら御の字さ」
そう言ってから、老婆は去って行く。
「助かったな」
「ええ…」
カイトの言葉に頷きながらも、タイミングのよさに少し戸惑っている。
(タイミング…よすぎじゃない?なんか)
少し考えたが、考えても仕方ないので
「ギルド登録に会館に行きましょう」
とカイトを促す。
二人は、ギルド会館へと歩き出した。
それを見守っていた視線には気付かないまま。
その人物は、建物の陰に隠れていた。
そこには先ほどの老婆と若い男がいた。
『ご苦労』
『…ギルド登録など危なくありませんか?』
先ほどの声とは違う若い声。
『あの方にはあの方の考えがあるのであろう。我々は、それに従うのみだ』
『ですが…』
『どうした?何か、不服でもあるか?』
『不服などではありません。ただ、我々が共に行けばあの方の負担を軽く出来るのでは?』
『…それでは、ダメなのだよ。己の力のみで道を開けるようにならないと』
黙っている相手に
『お前の心配する気持ちも分かる。私も同じだからな。だが、これはベイト・ディインダと賢者レクスドールの意思だ。それはシンフォニアの意思でもあるのだろう』
『…そうですね』
『外にいる者や中にいる者にも連絡はしておけ。いくら強くなる為の魔物退治とはいえ、危なくなったら手を貸さぬ訳にはいかないからな』
『了解しました。首領』
『では行け』
『はい』
話していた者の気配が消えると
『本当に、あの方々の考える事は、我々凡人には思いつかぬよ』
と、小さくつぶやいた
ギルド会館に到着した二人は、まずは受付に向かう。
「すまない。ギルド登録をしたいのだが…」
とカウンター越しに声をかけると
「新規の方ですか?」
受付嬢は、にこやかに言う。
「はい、辺境の村から出てきたばかりなので、よく分からない部分があるが…」
低い声に慣れてきた葵。
「では、説明させていただきます」
受付嬢は、笑顔のまま説明を始める。
ギルドの作りは、Fランクから始まる。
最初は、原料採取や弱い魔物退治から始める。
討伐数・依頼数に応じてランクは上がり、Sランクまで存在する。
ギルドはギルド協会に加盟していれば、どこのギルドでも利用出来る。
ただ、犯罪行為や違法行為があれば、追放されるし二度とギルドには登録出来ない。
「Sランクの冒険者は、稀にしか存在しません。この国ではまずはいませんね。それだけの実力のある方々は、王に仕えていますからね。いてもAクラスが数名ぐらいでしょうか」
そう言ってから
「何か質問は?」
と問いかける。
葵は、素直に
「犯罪行為や違法行為って分かるものなのか?」
そう聞くと、案内状はギルドカードを出して
「このギルドカードには、魔法が付与されております。犯罪や違法行為があれば、真っ白になるのですよ。あと、持ち主以外が持つと白くなります」
そう言って、カードを葵に渡す。
確かに白くなった。
このカードは、受付嬢の物なのだろう。
「私達ギルド協会職員のカードは、身分証のようなモノなので討伐や採取などは出来ません。その理由としては、ギルドカードに登録したら依頼を数か月受けないままでいると、登録が抹消されるからです。依頼失敗が続くと同じように登録が取り消しとなり、二度と登録されなくなります」
受付嬢の説明に、ふと
「では、再登録は出来ないと?それはどうやってわかるのか?」
疑問を口に出す。




