ベイトの森の小屋を出た後で…
小屋を出た後、部下の兵の数名を小屋に配置した。
そしてビルガの兵を率いて引き上げるリスターに
「あっさりとお引きになるのね?もっと賢者レクスドールに迫ると思っていたわ」
意外そうに言ってみる。
リスターは、キートン王子の信頼を受けているし、忠誠心も厚い。
意地でもレイラ姫の行方については、知りたいはずだし、セイトがレイラ姫を匿っているのは明白だ。
それなのに、あっさりと引いた。
不思議でならない。
「ふん…そなたに答える義務はないが答えてやろう。仮に姫を匿っていたとしても、あの態度からして、あそこには姫はいない。もう逃がした後だろう。逃がした先を吐かせる事も考えたが、ここで賢者レクスドールに手を出す事はできん。ならば、監視をつけて姫が接触出来んように、仮に接触してきたならば、ここで捕まえるだけだ。逃亡協力罪で賢者レクスドールを確保できるよい理由にもなる」
リスターの答えに
「ふーん」
ヴィヴィアンが納得したように言うと
「そんな事より、姫達の位置は把握出来るか?」
高圧的なリスターの態度に、別にひるんでいない様子のヴィヴィアンは
「ここでは探知魔法は、あまり期待しない方がいいわ。ベイトの森は、許された者以外の魔法を阻害する結界が張られているわ。それでも私の探知魔法でも捜索範囲は限られますからね。範囲をまず絞らないと魔法を使っても探せないと思うけど」
お手上げのポーズをとって答える。
「まぁ姫の魔法の波動は分かっていますからね。攻撃魔法を使ってくれたら、あっさりと見つかると思うけど、まずはどっちの方向に逃げた…かしらね」
「どういう事だ?」
「私の探索魔法では範囲が決められているのよ。このルスレニクス全体に一気に探索をかけられる訳ではないわ。それが出来るのは《ベイト》の称号を持つ者級のみ。まずは、この森の周囲をしらみつぶしに探索魔法をかけながら、引っかけられたらラッキーってところかしら」
ヴィヴィアンの答えにリスターは
「そなた…本当に出来ないのか?」
疑いの目を向ける。
リスター自身、ヴィヴィアンは信用に値しない人物だ。
フィアント公国の報告で、ヴィヴィアンは忠義心の厚い人物であるし、レイラ姫の親友とも報告を受けていた。
その国と姫を、あっさりと裏切るとは、ありえない。
何か裏があるのでは…と疑うのは当然だろう。
ヴィヴィアン自身も、それは理解出来ているようだ。
「ま、疑われるのは仕方ないけどぉ。出来ないモノは出来ないんだから仕方ないでしょ?それに姫を見つければ、一生遊んでも生活できる生活が手に入りますからね。全力で姫の捜索はさせていただきますよ。それより報酬等は確約していただけるのかしら?」
笑みを浮かべるヴィヴィアンに、リスターは、内心舌打ちを打ちながら
「それは、心配はない。わが主君キートン・ゲオルク殿下は約束を違えない」
不愉快さを隠さず答える。
ヴィヴィアンは、笑みを浮かべたまま
「ならいいけど。とりあえず森から出たら、探索魔法をかけるわ。まだそんなに遠くには逃げていないはずだし。でも、姫が生きているとしたら奇跡としか思えないわね。あの毒矢は即死級の毒が塗ってあったのだから」
そう言うと、リスターは眉を顰め
「確かに…姫が生きているのは、にわかに信じられないが、シンフォニアならば奇跡を起こす事など造作もないのだろう?」
ヴィヴィアンに問うが
「私は、即死した者を蘇生したという例は聞いた事ありませんから、何とも言えませんわ。ただシンフォニアが奇跡を起こしたというのならば、シンフォニアにも姫を生かす理由があるのでしょうね」
と答えてから
「姫が毒矢で射られた瞬間にシンフォニアが光を発した…と報告は受けていますから、奇跡を起こし姫が生きて逃亡を図っているのは確実でしょうね」
そう言ってから足を止める。
「どうした?何か感じたか?」
リスターが問うと
「何でもないわ。そんな事より、裏切った私が言うのはなんですけど、先ほどの無礼者は、どうされます?賢者レクスドールに対して無礼を働いたのだから、何かしらの刑罰には処した方がいいですわよ。シンフォニアがキートン王子を認め、賢者レクスドールを配下に置いた時に、しこりになりそうだし。それに賢者レクスドールに手を出せばシンフォニアが許すはずはないですからね。シンフォニアに敬意を表する意味で刑罰に処した方がよろしいかと」
釘を刺すかのそう言うと、リスターは少し考えて
「そうだな。殿下に進言はしてみよう。だが、殿下は我が軍の兵も大切に思われておる。簡単に納得するとは限らないぞ」
と、釘を刺し返す。
「…ですわね」
そう答えてから
(さっき、魔法が使われた形跡があった。こんな場所で魔法が使えるのは賢者のみ。ならば、何かしらの魔法を使った事になる…姫達は、まだあそこにいた…という事かしらね。まぁこの場合使われたのは転移魔法だろうけど)
魔法使用の形跡を、ヴィヴィアンはあえて報告はしなかった。
それは、ヴィヴィアン自身の思惑によって黙殺されたのである。