ベイトの森での攻防戦
「分かりました。そのシンフォニアの意思というのを手に入れましょう」
リスターの断言するかのような言葉に、セイトは少し驚いたが
「ほう…シンフォニアの意思を手に入れられる…というのかの?」
その問う。
リスターは、不敵に笑い
「我が主ならば、シンフォニアに認められるのは時間の問題でしょう。ベイト・ディインダの封印さえ解ければ」
と答えた。
セイトは、少し間をおいて
「それは、ベイト・ディインダが、キートン王子の邪魔をしているかに聞こえるが」
「違いませんか?我々がこのフィアント公国に入れているのは、シンフォニアが我々を認めている証。でないと、シンフォニアの守護に弾かれてしまいますよ。なのにベイト・ディインダの封印がシンフォニアに近づく事を許さない。それはベイト・ディインダが邪魔をしている事の証にはなりませぬか?」
リスターは、非常に痛い所をついている。
シンフォニアの守護が働かない=シンフォニアに認められている…とは限らないのだが、取り方によっては、そう捉えられても仕方ないのだ。
「なるほど、それも一つの考え方ですな」
セイトの言葉に、自分の主張が認めれた…と思ったリスターは
「では、賢者レクスドールよ。あなたに問おう。ベイト・ディインダの封印を解く方法を教えていただきたい。報酬は、あなたの言い値で構いません」
そうセイトに提案する。
実際に、孫娘のヴィヴィアンは、多額の報酬によってビルガ帝国に寝返った。
祖父であるセイトも、同じだと考えるのは当然になる。
セイトは、リスターを見据え
「私は、そんなものは知らん。ベイト・ディインダは、この世界で一番の魔導師。私など足元に及ばん程の…な。魔法の知識など、彼には及ぶはずもない」
と、両手でお手上げのポーズをとる。
「ほう…あくまで、知らぬととぼけるおつもりか?」
リスターのその眼光が鋭く光る。
セイトは、肩で一回息をして
「知らぬものは、知らぬ。そう言っているだけではないか。私が賢者と呼ばれているとはいえ、買いがぶりすぎですぞ」
そして続けて
「それに勘違いをしてもらっては困るのだが。シンフォニアは、ベイト・ディインダの封印をあえて受けている。いくら最高の魔導師でもシンフォニアを封印できるはずもなかろうて。バレンタ副官かな?君らビルガ帝国は、シンフォニアの対する知識が不足してないかね?」
リスターを再び鋭く見据えながらの言葉に
「確かに、我々はシンフォニアに対する知識が足りないようですな。ならば、その知識を我々にご享受していただけませんかな?賢者レクスドール」
リスターが手を差し出すが、その手を取らずに
「断ると言っておるだろう?私は、シンフォニアの意思にしか従わない」
そう言って切り捨てた。
リスターは、差し出した手を引き
「それでは、シンフォニアの意思があれば、我々に協力をしていただけるという訳ですな」
取りようによっては、そう取れる言い方をしているセイト。
セイトは、笑みを浮かべ
「そうじゃな。私は、シンフォニアの意思には従う。シンフォニアが、キートン王子を認め、それに仕えよというのであれば、従いましょう」
そう答えた。
「確約を得ました。まぁ、姫は見つかりませんでしたが、この収穫だけでもキートン王子は満足されるでしょう」
リスターは、ニヤリと笑い
「では、我々は撤収させていただきますが、姫がここに来ないとは限りません。ここに監視の兵を配置しても構いませんか?」
と、言うとセイトは
「構わんよ。だが…」
「だが?」
「この隠遁生活で一人に慣れてしまっておる。監視をするのは構わんが、私に存在を分からぬようにしてもらいたい。誰かがいるというのは、どうも落ち着かぬ」
セイトが肩を竦めながら言うと
「それは、もっともですな。では、隠密性の高い者を配置しましょう」
と言い、マントを翻して
「では、失礼する。ヴィヴィアン殿、あなたには探索魔法を使って姫を探し出してもらう」
チラリとヴィヴィアンを見る。
「はいはーい。報酬分は、働かせてもらいますわよ」
と、リスターの後に続こうとしたが
「ヴィヴィアン」
セイトに声をかけられて足を止めた。
振り向くヴィヴィアンに
「何故、フィアント公国を裏切った?」
問い詰めるような口調に
「こわ」
と、肩を竦めてから
「カイトにも聞かれたわ。私はね、強い者に従う事にしたのよ。あとは、報酬かしらね」
そう答えてから
「ごきげんよう…お祖父様」
と、リスターの後を追い出ていく。
ビルガ帝国の兵達が、引き上げた事が確認出来ると
「いるか?」
と、声をかける。
『いますよ』
誰かが答える。
「ベイト・ディインダに代わり命令する。姫をお守りせよ。姫の使命を全うさせる為の手助けを。カイトだけでは心細いからな」
『了解いたしました』
「奴らは、まだ気付いてないが、姫達の位置は大体把握しておる。転移魔法で飛ばすから、サポートを始めよ」
『……』
「どうした?」
セイトが、監視しているであろうビルドの兵に気付かれないようにしていたが、視線を声の方に流す。
『私には、にわかに信じられませんな。禁忌魔法など…それに姫に別人になっている事も』
声の主も戸惑いが隠せないようだ。
「すべてはシンフォニアの意思。我々には考えは及ばない」
セイトがそう言うと
『それにヴィヴィアン嬢の事も気になります。あの忠誠心の塊であった…』
「あれには、あれの考えがあるのであろう。さ、転移させるぞ」
『ヴィヴィアン嬢に気付かれませんか?』
「大丈夫じゃろ。ここはベイトの森じゃからな。森の守護で隠蔽できよう」
そう言って、手の平に魔方陣を出す。
『…では失礼いたします。賢者レクスドール』
声の主が消える。
(ヴィヴィアン…何を考えておる。姫、どうかご無事で)
セイトは祈らずにはいられなかった