転移の後で…祖父と孫娘の最悪な再会
光が収まった。
セイトが目を開けた時には、2人の姿が消えていた。
(転移魔法か…このベイトの森で遠隔地から魔法を発動させるとは、さすが《ベイト》の称号を戴く魔導師だけはあるな)
そう思いながら、意識はもう小屋の近くまで来ている招かざれぬ客達の事に集中していた。
(ギリギリ間に合ったな。…それにしてもヴィヴィアン、何故?)
裏切りを働いた孫娘の事で心が痛む。
普段ふざけていても、国に対する忠誠心は厚い娘…と思っていた。
恐らく、ヴィヴィアンの裏切りで、城中は混乱しているだろう。
(…考えても仕方あるまい)
そう結論を急がず、今出来る事をやる。
さっと手を掲げると、葵が使っていたマグカップが流しで洗われ食器棚に収納され、ベッドはキレイに整えられた。
(2人の持ち物も一緒に転移されておるな。まぁ、ニュートなら当然の事か)
《コンコン》
とドアが鳴る。
「来たか…」
呟いてからドアに向かう。
その向こうには、ヴィヴィアンと共にビルガ帝国の兵が押し寄せているのが分かる。
ドアを開けて
「何か用があるのか?ヴィヴィアン」
と、久々にあう孫娘に笑顔で問うと
「分かっているハズよ、お祖父様。中にいる者達を素直に引き渡して欲しいの」
クスクスと笑いながら答えるヴィヴィアンに
「はて?ここには私一人しかおらぬがな」
すっとぼけるように言うと
「ええい!じじぃ!素直に二人を出さぬか!」
高圧的な態度で兵が言うと
「…ビルガ帝国の兵とは、礼儀が分かっておらぬようだな」
静かにセイトが言うと、その兵は激高して
「何を!言わせておけば!」
と銃を構える。
セイトが手を翳すと風が起り、兵が吹き飛ぶ。
「あらあら…ベイトの森の賢者に手を出そうなんて命知らずね」
面白そうに笑いながらヴィヴィアンが言うと
「こんの…」
飛ばされた兵が、立ち上がり再び銃を向ける。
「止めろ」
威圧感のある声がした。
それと同時に、兵が二つに割れ、重厚な甲冑に黒いマントの人物が歩み寄ってくる。
その人物は、セイトの前に立ち
「部下が失礼をしました。私は、ビルガ帝国総司令キートン・ゲオルク王子の配下、リスター・バレンタと申します。賢者レクスドールよ、中にいる者達を素直に我々に引き渡してもらいたいのだが」
威圧感そのままにリスターが言うが
「ここには、私以外おらぬよ」
しれっと答えるセイトに
「…ほう。では、中を検めさせていただいても?」
「構わんよ。物を乱暴に扱わぬならばな」
毅然とした態度のセイトをジッと見つめてから
「では、改めさせてもらう。おい!お前達、中を検めろ!」
数人の兵に命じる。
数人の兵は、小屋の中に入り、中を改めていく。
「おりません!バレンタ副官」
兵が報告すると
「ヴィヴィアン…この小屋に隠し部屋などは?」
リスターはヴィヴィアンを見て問う。
ヴィヴィアンは、うーんと考えるようにして
「ないわよ。こんなボロの小屋には。私が知る限りでは…だけど」
と答えてから
「まぁ、この陰湿爺様だからぁ、分からないけど」
セイトを見ながら言う。
「では…」
そう言って、リスターは剣を抜く。
「賢者レクスドールよ。問おう、隠し部屋はありませんかな?」
剣の切っ先をセイトの目の前で止める。
「あるわけない。こんなボロの小屋に、そんな余裕は無い。それに私のような隠遁生活を送る者にとっては、そのようなモノは必要ないしの」
剣に怯まないセイトに
「ほう…あくまでとぼけるおつもりか」
リスターは、剣を納めて
「では、賢者レクスドールよ。我々の配下に加わっていただけないか?こちらには孫娘のヴィヴィアンもいる。どうかな?」
その提案に
「断る」
一刀両断に切り捨てる。
「何故?」
リスターの問いに
「私が仕えるのは、シンフォニアとフィアント公国のみ。シンフォニアの意思がなければ、私は動く事はしない」
「そのシンフォニアは、我々の管理下にある…と言っても?」
「シンフォニアからの意思は無い」
「シンフォニアは、ベイト・ディインダが封印している。意思など…」
「では、ますます従えませんな。私は、シンフォニアの意思にしか従わない」
そこで、クスクスとヴィヴィアンが笑いながら
「この偏屈じじぃは、簡単には動きませんわよ。バレンタ殿」
面白そうに言う。
そこに、先ほどの兵が
「こんなじじぃ!我々の力でねじ伏せましょう!」
そう言ってから銃を振り下ろす。
《パンッ!》
と弾かれて、また彼は吹き飛んだ。
「こんの…」
次は、銃を構えて引き金を引く。
だが、銃弾はセイトに届かず寸前で止まり、ポトリと下に落ちる。
「バッカねぇ。ここを何処だと思っているの?賢者の森よぉ。森がその主である賢者レクスドールを守らない訳がないでしょう?バレンタ副官、これは知識不足ですわね」
そう言って、ふふふと笑う。
リスターは、ただその様子を見ていた訳では無い。
この老人を籠絡する策を考えていた。
「では、あくまでビルガ帝国には従えないと?」
と、聞き
「まぁ、そうじゃな」
セイトの答えに
「では、シンフォニアの意思があれば、我々に従っていただけるのですかな?」
リスターの問いに、少し間を置いて
「それがシンフォニアの意思ならばな」
そう答えた。