行動を開始する前に…
カイトは、戸惑いながらも木刀を受け取った。
「アオイ、剣が必要な時は私が戦う。君が戦う必要は…」
そう言うと、葵は首を横に振り
「いいえ、己と誰かを守れるようにならないといけない。それは、レイラ姫も望んでいる。あなたを守る力が欲しいと彼女は願っている。私も守られてばかりの方は性に合わない。だから、剣を教えてください」
真っ直ぐ彼を見据える。
カイトは、木刀をグッと握りしめ
「では、まず、君の実力を見せてもらう」
そう言って構える。
「はい」
答えて、いつのも剣道の構えを取る。
「両手での構えか…それでは盾が使えない。戦う時には不利になるぞ」
カイトが厳しい声で言うと
「今は、私の実力を見てもらう時です。それから、私の実力に合わせて、こちらでの戦い方を教えてください」
「分かった。じゃあ始めよう」
と、木刀を手に前に出る。
葵も、前に出た。
ぶつかる剣と剣。
何回か打ち合いながら
(やはり、この人は強い…それに隙がない。お父さんやお母さん以上の実力者だわ。それに、レイラ姫の体は剣には向いてないから、体は思うように動かない)
苦戦を強いられながら葵は、そう思っていた。
その一方で
(…一通りの動きは出来ているな。だが、隙が多すぎる。これでは、全く役に立たないのと同じだ。だが、筋はいい。シンフォニアが選んだだけ…はあるな)
カイトは、考えを巡らせ
「よし、ここまでにしよう。まずは、結論からだ。今の君では、足手まといにしかならない」
と、厳しい口調で酷評する。
「ですね」
葵も、それは納得出来ている。
「だが、筋はある。鍛錬次第では、よい剣の使い手にもなれるかもしれない。私の鍛錬はキツいかもしれないが、それでもよいか?」
カイトの問いに
「もちろん。私は、私の願い…私が背負った願いの為に強くならないといけない。だから、鍛錬をしてください」
そう葵は答えた。
(もしかしたら、魔法剣士を産む事になるやもしれないな)
カイトは、公国でただ一人しかいない魔法剣士の事を頭に浮かべる。
魔法と剣術、どちらにも秀でた騎士を《魔法剣士》と呼んでいる。
一時代に一人位しか誕生しないレアな騎士だ。
カイト自身は会った事がないし名前も知らないが、その存在がいる事は知っている。
公国の隠密部隊と言われている組織に属している、とも噂されている。
性別も何もかも秘匿されているその人物は、いくつも武功を立てフィアント公国に貢献している…と先輩騎士から話を聞かされた事があった。
(レイラ姫は、魔導師として《ベイト》の称号を戴く程の実力者。それに高い剣術が加われば、相当な戦士になる)
カイトは、葵の可能性について笑みを零す。
(これは、どんでもない戦士を作る事になるやもしれないな)
少し面白くなってきたようだ。
カイトが、そんな事を考えている事など露とも知らぬ葵は
(動きがついて行けてない。まずは、全体的に筋トレしないと。足腰を中心に腕力も付けないとならないわ)
反省点と改善点を頭に浮かべ
(でも、まず最初に…)
と、収納魔法を展開してから麻紐を数本出して髪を段階的に結ぶ。
そして、ナイフを取り出した。
「な、何を?」
カイトが、手を出そうとすると
《ザクッ!》
と、レイラ姫の長い髪を一気に肩の上まで切り取った。
「な…な…」
驚くカイトを尻目に
(やっぱり、短い髪の方がいいわ)
正直、長い髪が邪魔だったのでスッキリした。
切った髪を収納魔法で収納する。
そして、散切りになっている髪をキレイに整えていく。
「何をするんだ!?」
思わず叫んでしまうカイトに
「だって、長い髪のままだと私がレイラ姫だと知られる可能性がありますから」
しれっと答えるレイラ。
「…だが」
「髪は伸びます。レイラ姫だって許してくれるでしょう。今は、何よりも見つからないようにするのが先決です」
本当は、長い髪が嫌だったなんて言えないので、もっともらしい言い訳をつける。
「これなら少年に見えるでしょう。これで数段隠密性は上がると思いますが?」
「しかし…」
「切ったしまった物は仕方ありませんし、元には戻せません。長い髪は残しておくとビルガ帝国側に髪を切った事が知られるので、収納しておきますが、短い髪は…」
そう言って手を翳す。
フワッと散切りした後に切った髪が宙に浮かび指を鳴らすと
《ボッ!》
と、炎と共に消えていった。
「これで髪を切った証拠は残りません。とりあえず、移動しましょう。追手が来てないとは限りませんから。一カ所に留まるのは危険です」
と言い、木刀を収納魔法で収納する。
「カ…デュランさんの分も収納します。木刀を」
手を差し出す。
カイトは、髪を切った事には納得してないようだが、一カ所に留まる危険性については理解出来ているので、葵に木刀を渡した。
「ここからだと、ボイテイの街が近い。まずは、そこで補給をしようか」
と提案をする。
木刀を受け取り収納した葵は頷いて
「分かりました。移動しましょう」
提案を受け入れて、出発する事にした。
だが、2人は気付いていなかった。
2人の様子を見ていた人物がいた事を。
気配を隠して、潜んでいた事を。