これからの指針について
葵を見たカイトは驚きを隠せず
「姫とは…別人だな…」
カイトにとっては、レイラ姫は可憐なイメージなのである。
だが、目の前にいるのは、どう見ても市政にいそうな少年。
顔がレイラ姫なだけで、他は違うのだと改めて思い知らされる。
「さ、カイトさんも着替えてください。私が向こうを向いてますから。終わりましたら、声を掛けていただければ、鎧などは収納魔法でお預かりします」
そう言って、カイトに背を向ける。
カイトは、言われた通り着替えをする。
頑丈な鎧から、軽装鎧に。
「終わった」
カイトが言うと葵は振り返り
「では、鎧等は一旦預からせていただきますね」
「ああ」
カイトは、葵に鎧を預ける。
葵は、収納魔法を展開して、それを収納した後
「では、まずは…」
そう言って、地図を出す。
2人の目の前に展開された地図。
先程から位置は変わっていないが…
「まずは、これからの行動を決めましょう。ここからだと、北の解印石が近いと思われます。位置からすると…ですけど」
葵が言うと、カイトは顎に手をやり
「そうだな、北のが近い。だが、この地域カイズザイス地方と言うが、極寒の気候で有名だ。今の装備では、凍死してしまうのは目に見えているな」
カイトの意見に、葵は頷いた。
それは、レイラ姫としての知識とも一致している。
カイズザイス地方-一年中、極寒の気候であり、この地方に住む者は少ない方だ。
だが、そこに目的のモノがあるのならば、行くしか無い。
「確か点の近くには、国がありましたね?」
「ああ、ヒルデガース王国。カイズザイス地方で唯一の国家だ。まぁ極寒の気候のせいなのか、閉鎖的気味な国でもある」
一度友好の意味で訪問した経験があるカイトは、続けて
「街に結界を張り、その中では少しだが人が住めるように気候が調整されている。だが、その結界石の少なさから、発展している街は少ない。結界石も力が小さいのだろうな、かじろうて、人が住める気候になるくらいで、慣れぬ者が訪れたとしてもすぐに音をあげてしまう寒さだ」
そう言って、ヒルデガース王国がある辺りを指さす。
「ヒルデガース王国の首都エルダ。ここには、ビルガ帝国も寒さ故に手は出せまい」
カイトの言葉に葵は、首を横に振り
「それはないでしょう…フィアント公国の首都フォニスを落としたというのは、シンフォニアを制したと同じ意味です。シンフォニアを盾に協力などを要請する可能性は高いでしょう」
そう言ってから
「ですが、物流は首都に集まってきます。アイテムは必要ですから、エルダに寄らない訳にはいかないでしょうね」
「そうだな…では…」
「まずは、北の防壁となっているグルゴ山脈を超える…その前に、どこかの街に寄らないとなりません。アイテムや食料は、ほぼありませんし。それに偽名を決めときましょう。レイラ・クェントとカイト・バルテノスの名は、指名手配されているでしょうし、国を守れなかった民の不満は、私達に集まっているでしょうから」
といってから、木の枝を拾い
「幸い私には、アオイ・シイナという名前があります」
そう言ってから、この国の文字で名を地面に書く。
カイトは、
「よくそこまで状況を読めるな…」
と、感心している。
「レイラ姫、戦略等の教育は施されているみたいですよ。フィアント公国にケンカ売ってくる輩はいないけど、もしもの時の為にと」
そう言ってから、木の枝をカイトに渡す。
「姫が…?ああ、王族としての教育の一環として、そのような勉学をした事があると聞いた事はあるな。姫は、自分は争いに向いてないから…と言っておられたが、このような事で役に立つとはな」
その表情は、少し悲しげだ。
葵は、胸の奥が何かチクリと痛んだ。
(…そうね、レイラ姫ならば争いには向いてないでしょうね。て、私も争い事は好きじゃ無いんだけど)
考えると、少しモヤッとした。
カイトは、フームと考えて
「それでは、私はデュランと名乗ろう。平民ならば、ほとんどが家名はないから家名は必要ないだろう」
そう言って、《デュラン》と地面に書く。
葵は、それを見てから
「では、これから私はあなたをデュランと呼びます。あなたは私をアオイと呼んでください」
「わかった。では、アオイ、まずは近くの街を目指そう」
そう言ってから着ているマントを翻して、その方角に向かおうとするカイトだったが
「待ってください」
葵が、それを止める。
「どうした?」
カイトが不思議そうに振り返ると
「まずは、この世界での剣の捌き方について教えてください。剣を扱った事があるとはいえ、こちらの世界での戦い方は知りません。幸い、あなたは公国での強い騎士。戦い方を教えてもらうのに適任でしょう」
そう言ってから、収納魔法の魔法陣を展開して木刀を2本出す。
これも、ベイト・ディインダからの贈り物だ。
(何から何まで、至れり尽くせりね)
葵は、ベイト・ディインダの洞察力や未来を予測する力に対して、素直に驚愕した。
(さすが、公国一…いえ、世界で一番の魔導師だけある)
そう思いながら、木刀の1本をカイトに差し出す。