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夢の中の異邦国  作者: 如月まりあ
ミヒデ村
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記憶の中の彼女は清廉潔白だった

「そうなのですか?」


葵が驚いていると


「…あぁ、そうか。姫は演習中の事はあまり知らないのだな。自分が話さなかったし、姫も聞いては来なかった。話したくない…とでも思われていたんだろう」


そう言ってクスリと笑う。


確かに、葵が持つレイラ姫の記憶では、カイトの言っていた通り演習中の事は、カイトが話すまで待っていた節がある。


話したくない事もあるだろうと遠慮していたのだ。


それが彼女なりの優しさなのだろう。


「ヴィヴィアンは逆に、グイグイ聞いてきたがな。姫のいない所で」


カイトが言う。


「何故です?」


葵が首を傾げていると


「姫と違って、ヴィヴィアンは戦場に出る確率は高い。兵の動きや兵法など、事細かに聞いてきた。勉強熱心なヤツだった」


そこで押し黙る。


ヴィヴィアンの事を思い出したのだろう。


葵も記憶の中のヴィヴィアンに想いを馳せる。


確かに彼女は勉強熱心だった。


『将来は、フィアント公国の為に最強の魔導師になるわ。目指せ!ベイトの称号よ!』


これが彼女の口癖だった。


それが今はどうだ?


フィアント公国を裏切り、葵達を捕まえてビルガ帝国に渡そうとしている。


そうなればカイトの命が無くなる。


それが分かっていて、葵達を捕まえようとしている。


彼女に何があったのかは分からない。


でも、敵に回った事だけは確かなのだ。


それも一番危険な存在として。


ビルガ帝国は、魔法に力は入れていない。


兵士の戦闘力を強化して今の軍事国家を作り上げた。


だから、数にモノを言わせて攻めてくるスタイルだ。


それならば、カイトの剣とレイラ姫の魔法でどうにかなる。


だが、ヴィヴィアンがいれば話は別だ。


魔導師としての実力はレイラ姫と同等。


当然だが、葵はヴィヴィアンを相手にしないとならない。


そうなれば、数でモノを言わせている兵士の相手はカイトがやらないとならない。


さすがに複数の兵士の相手は一人では無理がある。


あっという間に劣勢に追い込まれてしまうだろう。


つまりは、捕まってしまうという事だ。


その事態は避けたい。


カイトは殺され、葵はキートン王子とやらの婚姻を進められるだろう。


これも予想だが、解印石も手に入れる事は出来なくなるかもしれない、と感じている。


解印石は、あくまでレイラ・クェントが成長しないと手に入らないのだろう。


当然だが、他の誰かが手に入れる事は出来ない、と思われる。


これは葵達の予想であるが、レイラ姫を捕まえた後に軍を差し向けて解印石を取りに行くつもりなのだろう。


だが、おそらく解印石に辿り着けるのは葵のみ。


仮にレイラ姫である葵が解印石の場所に向かっても手に入れる事は出来ない。


成長していない者に手に入れる資格はない。


シンフォニアは慈悲深い存在であるが、一方で厳しい存在でもある。


ルスレニクスという世界の為に、あえて厳しい苦難を課す事もある。


現在、葵達の旅が多難なのも、レイラ・クェントの成長の為だ。


その行動の一つ一つが解印石を手に入れる為の資格を持てるか、試されている。


葵はそう思っていた。


何故だかは分からない。


ただ、そう思うのだ。


レイラ・クェントとしての能力なのかもしれない。


彼女はシンフォニアの巫女だと聞いた記憶がある。


だから、シンフォニアの意思が介在しているのが分かるのだろう。


(追手に見つからないように行動には慎重を重ねないとならない。そして、出来るだけ急いで移動しないとならない。でも、ミヒデ村のようにシンフォニアの慈悲が世界中には散らばっている。それを一つ一つ拾っていかないとならない。これもシンフォニアの試練の一つだ。もし、それを見落としたならその瞬間にシンフォニアの加護を失う…予想だけど、たぶんそうなのだろう)


グッと拳を握りしめて気を引き締める。


葵の様子に気付いたカイトが


「アオイ、どうした?」


と問いかけてくる。


葵は、首を横に振り


「いえ、大した事は…ない事はないですね。旅を続けていく上で、シンフォニアの加護を失わない為にも、この村のようにシンフォニアの慈悲を受けている所でそれに介在する事がシンフォニアの意思な場合もあります。それを見落とさないといけません。見落とした瞬間に私達が受けている恩恵…シンフォニアの加護が失われる可能性があります。あくまで私の予想ですが…」


そう言うとカイトは神妙な表情になり


「自分もそう思う。自分達の旅はシンフォニアの加護があって初めて成り立つ。それを失わない為にも気を付けないとならないな」


そう言った後、険しい表情になり


「加護を失い、ビルガ帝国に捕まれば自分の命はないだろう」


と言うカイトに葵はどう言葉をかければいいのか分からなかった。


ビルガ帝国にとって、レイラ姫は有用だがカイトは邪魔な存在だ。


一度、ビルガ帝国の追手に追いつかれた際は毒矢がカイトを狙っていた。


レイラ姫が庇って、その矢を受けた事によりカイトは助かり、瀕死の状態になったレイラ姫は葵と融合することで助かったに近い。


そう考えると、確実にビルガ帝国はカイトを始末しようとするだろう。


それもあり、ビルガ帝国に手に落ちる訳にもいかない。


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