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夢の中の異邦国  作者: 如月まりあ
ミヒデ村
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夢から醒めて…現実

葵はハッと目を開ける。


目の前では、カイトが心配そうに顔を覗き込んでいた。


「カイト…さん?」


葵が小さく呟く。


「どうした?恐ろしい夢でも見たのか?」


カイトが心配そうに言うと、葵は自分が泣いている事に気付く。


葵は起き上がり


「すみません…」


と一言だけ言う。


「何か、恐ろしい夢でもみていたのか…?」


カイトの問いに


「いいえ…大した夢ではありません。心配をおかけしてすみません」


そう言いながら涙を拭う。


(…大騒ぎする程の大した夢ではない。私の元の世界の夢なんて)


俯きながら、葵は


(やはり、これが現実なのね)


心に何か重しがかかったような感じがした。


「大した夢ではないって。泣いていたのにか?」


珍しくカイトが食いついてくる。


葵は、キュッと唇を結んだ後


「…元の世界の夢です。家族との食卓でした」


少し悲し気な声になる。


カイトは、バツの悪そうな表情になり


「それは、すまなかった」


と謝る。


葵は首を横に振って


「いいんです。心配してくださってありがとうございます」


そう言って、少し微笑んだ。


「そうか…?」


カイトがそう言ってから少しの沈黙が続く。


なんとなく気まずい。


「そういえば…」


おもむろにカイトが口を開く。


「葵の家族は、どうなんだ?」


と聞いてきた。


「え?」


葵が驚いていると


「どういう家族だったんだ?」


カイトの問いに、葵は少し考えてから


「厳しい人でしたね。だけど、理不尽な事で怒ることはないです。稽古以外の所では優しい人達です。弟もいましたが、剣を握る時以外は気の弱い子で、その落差が可愛くて、女の子たちには人気が高かったようですね」


葵が感じたまま話した。


カイトは、少しの間の置いて


「葵は礼儀作法がきちんとしているのは、そのご両親の教育の賜物という訳か」


というと


「そんな…でも、ありがとうございます」


葵は素直に頭を下げる。


「礼を言われる事ではない。ただ事実を言っただけだからな」


そう言ってくれるカイトに、心の中でもお礼を言ったが


(やはり、これは現実なのね…あれは…夢だった)


さっきの家族との時間が、幻だったと改めて突き付けられた気がした。


(お父さん…お母さん…雪夫…)


家族の事を思うと胸が締め付けられる。


(帰りたい…あの何でもない日々に)


グッと拳を握りしめる。


葵の様子がおかしい事に気付いたカイトが


「本当にどうした?」


心配そうに声をかける。


葵は首を横に振り


「はい、大丈夫です。もっと強くなってシンフォニアからの試練を乗り越えないと、と思っただけです」


葵は、そう言いながら決意を新たにする。


シンフォニアからの試練を乗り越えた先に何が待っているかは分からない。


元の世界に戻れる保証はない。


戻れるかも…というのはあくまで葵の願いだ。


それを叶えるのはシンフォニアである。


だが、それも奇跡なのだ。


葵が事故に遭ってから時間は相当経っている。


時間は平等に流れる。


だから、葵が元の身体に戻れるのは奇跡の御業なのだ。


だが、希望を失っている訳ではない。


葵とレイラ姫の魂を融合も奇跡の御業になる。


別の世界から魂を呼び寄せて融合したのだから。


まさしく奇跡の御業だ。


だから、時を遡る事も出来るかもしれない。


葵は、その可能性に賭けている。


だが、不安もある。


戻ったとて、元の生活に戻れるだろうか?


瀕死の重傷だ。


後遺症が残っていてもおかしくない。


もう二度と剣を握れないかもしれない。


それならば…と考えてしまう自分がいる。


それは、カイトの望んでいる事ではない。


浮かんだ事をすぐに否定する。


自分達の着地点を間違うな…と。


「アオイ、本当に大丈夫か?」


葵が相対する思考で戸惑っている事を知らないカイトが心配そうに声を掛ける。


葵はハッとしてから


「すみません。大丈夫です。ちょっと元の世界が恋しくなっただけです」


と笑顔を作る。


カイトは少し複雑そうな表情を浮かべて


「そうか…それはすまなかったな…」


悪い事を聞いたのだと思っているのが分かる。


葵は首を横に振り


「謝らないでください。この旅の終着点には元の世界に戻れるかもしれないのですから」


と言う。


(体が元のままだとは思えないけど…)


そんな思考があった事は伏せておく。


葵が元の世界に戻れたとて、元の生活に戻れるのは本当に奇跡だと思われる。


その事に今更ながら気付く葵は、いろいろと鈍感な気もするが…


だが、気にしても仕方ない。


このまま旅を続けるしか選択肢はない。


(考えたり、悩んだりするのは止めて旅に集中しよう。そうだ、ここで考え込んでも事態は変わらない。それなら旅に集中して、いざ帰れるとなった時に考えよう)


葵は思考を切り替えた。


葵の言う通り、今はその時期ではない。


その懸念を後回しにして旅を続ける他方法はない。


それに今はそれを考える時期ではないと…と葵は考えるのを止める。


そして


「カイトさんも疲れていませんか?休んだ方がよいのでは?」


とカイトに休むように勧めたが、彼は首を横に振り


「演習で何度も短い睡眠時間で回復する眠り方を習っているから、大丈夫だ」


と答える。


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