ミヒデ村で葵は考える
だから、ヴィヴィアンに見つかるのは避けたい。
野宿の場合は、ある程度残滓が拡散してくれるからいいのだが…
こういう場所では残滓が留まってしまう。
だから、使わない方が賢明と言える。
どう時間を潰そうか考える。
素振りは、カイトの睡眠の邪魔になるだろうから正直出来ない。
近くで素振りの音がしたら、自分だって落ち着いて眠れない。
さて、どうしたものか…と葵は考える。
(そういや、カイトさんはどうやって時間を潰したのだろう?)
ふと、カイトの方を見る。
寝息が聞こえているので眠ってはいるのだろう。
体感感覚で2時間くらいを、どう過ごしていたのか…
レイラ姫の記憶から、彼は真面目だから、もしかしたら葵の鍛錬とか戦闘のフォーメーションとか、そういうものを潤滑に回す方法を模索していたのかもしれない。
(あ、そういえば…)
葵は思い出す。
カイトから筋肉をつける運動を学んでいた事を。
(これくらいならいいよね?)
と、少し離れた場所に移動する。
まずは、軽くストレッチだ。
急に筋肉を動かしたら、翌日に響くのは葵も理解出来ている。
葵とて、元の世界ではスポーツマンだったのだから。
腕や足の筋肉をほぐしながら体を動かす。
身体があったまってきたら、カイトの言う運動を始める。
(スクワットに似ているな)
そう思いながら運動をする。
だが、それでも時間は余ってしまう。
あまり、体に負荷を掛けすぎると翌日に響く。
平和な日本と違い、ここは戦場だ。
筋肉痛なんてなったら、命取りになる。
それは葵も理解出来ている。
(次は、どうしようかしら…)
と、元の場所に戻る。
しばらく考えてから
(魔物や人に襲われた場合にシミュレーションでもしておきますか)
座ったままで頭の中で、戦闘を想定した戦い方について考えを巡らせる。
(今はまだカイトさん頼りの戦闘になる…私では太刀打ち出来ない魔物とかもいるわ。とりあえずカイトさんの後ろに下がり、自分の倒せるのを倒していくしかないか…)
自分の戦闘力は、まだまだ弱い。
魔法を使えばカイトと渡り合えるかもしれないが、改めて魔法は使えないのだから、剣一つで戦うしかない。
(魔法の波動を変える方法ってないのかしら?)
葵は純粋に疑問に思ったが
(いいえ、無理ね。個々で違う波動は、言うなれば指紋のようなモノ。おいそれほいほいと変えられるモノではないわ)
首を横に振る。
(では、どうやって戦闘を有利に持っていくか…私が戦闘で足手まといにならない為にはどうしたらいいのか…)
少し考えを巡らせる。
ふぅっと息をつく。
(やはり、剣の鍛錬によって戦闘力を上げる以外に方法はないか…)
答えはここにしか行きつかない。
(…今はバッカがいる。剣の腕は一流。まだ、どういう人物なのか、自分達にとってプラスになるのか、もしかしたら敵なのか、分からない部分がある。分からないまま旅を続けるのはリスクが高いわ。まずは、私達が指名手配されているレイラ・クェントとカイト・バルテノスだと気付かれないように行動を慎重にする)
葵は、バッカがパーティーにいる事のリスクとリターンを考える。
(バッカは、戦闘力は異様に高い。カイトさんと同じくらいの戦闘力を持っている。たぶん、私の見立てでは魔法も使えるんじゃないかしら。隠している…ようだけど、恐らく彼は使える。それを考えるとパーティーにいた方がいいと考えてしまうけど…行動を共にしていたら私達が指名手配されている2人だと気付かれる可能性が高くなる。それはリスクだわ)
考え悩みながら、考え続ける。
(盗賊一味の1人だと聞いてはいるけど、何か目的があって私達と行動を共にしようと考えている節が見え隠れする。何かの目的で私達と行動を共にしている。本人は私が魔物を引き寄せる体質だから、売ると高い魔物を狩れる可能性が増える…と言っているけど、これはおそらく取って付けたような理由だわ。本当の事ではないのは分かる。彼の本当の目的は何?)
考えを巡らせる。
答えは見えないが
(しばらくは、彼と共に旅をしないとならない。手配書は2人パーティーだとされているので、3人パーティーになると追手の目を欺く事は出来るかもしれない。そこはメリットだわ。でも、正体がバレたら、もしかしたらビルガ帝国の追手に私達を売り渡すかもしれない。その可能性はゼロではない。そこはデメリットか…)
葵は考える事を止めない。
(他にもメリットはある。戦闘が楽になる。フォーメーションを決めておけば、ある程度の魔物も狩れる可能性が高いわ。あとは、あの人の懐に入る早さね。カイトさんも私も人と関わる事を避けるようにしている。その上に交渉が下手だからいろんな情報を手に入れる事は難しいわ。だから、懐に入るのが上手い彼がいたら、情報を手に入れる事が出来る。でも、私が女だとバレるリスクもある。そこもデメリットか…)
葵は、メリットとデメリットについて考えを巡らせる。
(これ以上は、今は思いつかない。本当はあるんだろうけど…)
葵は、ふうっとため息をつく。
「どうした?」
不意にカイトの声がして
「ひぇっ!!」
と驚きの声を上げた。