ミヒデ村ー本来の彼
フリューは立ち上がった後
「イーナ姉さん、ありがとう」
そう言った後に
「みんなもすまない。俺の勝手な感情に付き合わせてしまって」
そう言って襲撃に加わった者達に頭を下げる。
「いいのか…?これで?」
1人がフリューに問いかける。
「…ああ、これでいい。俺はこれから、サラガとネーナの代わりにイラガとネーゼを守ろうと思う。俺を庇ったサラガと俺を大事に思ってくれていてネーナの代わりにな。イラガとネーゼからは憎まれていると思う。でも、俺はそうする事で自分のした事を贖罪していくつもりだ」
穏やかな表情で言うフリュー。
「だが、俺達もだが、村の中には、あの2人を認めないていう人間もいるぞ」
厳しい口調で言う言葉に、フリューは
「それは当たり前だ。見えない大きな力は、畏怖の存在になる。だが、ネーナはそれでも、2人が《シンフォニアの祝福》だと信じていた。恐れる事なく、大事に育ててきた。守ってきた。だから、俺はネーナを信じようと思う。だが、それを皆に強要するつもりはない。イラガとネーゼを否定するなら、それでもいいと思う。だが、俺はそんな連中からイラガとネーゼを守るつもりだ。それが俺のサラガとネーナ、それにイラガとネーゼに対する贖罪になるかは分からない。でも、そうしていこうと思う」
静かに告げた。
「お前がそう言うなら、俺達は何も言わない。お前がネーナの想いを信じると言うなら、俺達も一緒に信じてやるよ。な?」
男は、周囲にいる者達に同意を求める。
「まぁ、まだ割り切る事は出来ないが、フリューが信じると言うなら信じてやるよ」
男達は、そう言ってから頷き合う。
「ありがとう、みんな」
フリューはそう言って頭を下げる。
「お前達にも嫌な思いをさせた。すまない」
フリューは葵達にも頭を下げた。
葵とカイトは顔を見合わせてから
「別に構わない。俺達もフリューさんに理由や事情があって、こんな事になったと言うのが分かった。これから、イラガとネーゼを守っていくと言うのなら、俺達も安心だ。フリューさんの懸念通り、あの2人も最初はフリューさんの変化に戸惑うと思う。でも、これは俺の予想だが、ちゃんと受け入れてからやっていけると思う」
葵はそう言うと、カイトが大きく頷いた。
フリューは、安心したように少し笑みを浮かべて
「ありがとう」
とだけ言った。
その表情は、憑き物が落ちたようにスッキリとしている。
フリューという男の本質は、気の優しい男なのだろう。
それが、愛する人の結婚や出産、その後のその人の不遇をその目で見た事で、その本質が大きく歪んだのかもしれない。
(これって、もしかして…)
葵の脳裏に一つの可能性が浮かんだ。
(後で、カイトさんに話してみよう)
葵は、そう思い今、口に出すのを止める事にした。
葵が思ったのは、あくまで可能性の話なのだから。
「じゃあ、夜の更けて来ておる。自分の家に帰るとしようか」
長老の一言で、お開きの合図になる。
「今日は、すまなかった」
フリューを皆に頭を下げた。
「フリュー、みんな気にしてないよ」
イーナがそう言うと、フリューは首を横に振ってから
「イーナ姉さん、でも俺は謝らないといけないんだ」
と、言い
「長老にも手間をかけさせた」
そう言ってから頭を下げる。
長老は、フ…と笑い
「わしの事は気にするな。この村の…ミヒデ村の長老だからな。自分の役目を全うしただけの事。お前さんが気に病む必要はない」
とだけ告げた。
フリューは、苦笑しながら
「いつもだったら、もう寝ている時間だろ?こんな時間まで起きていていいのか?」
そう言ったフリューの問いに
「年寄り扱いするではない。わしはまだまだ若い」
ムッとしながらそう言った長老に
「いや、もう年寄りだろ」
誰かがツッコんだ。
そこで笑いが起こる。
(とりあえず、イラガとネーゼにとって、いい方向になったという事でいいのよね)
葵は、そう思っていると
「夜遅くに、本当にすまなかった」
フリューは、もう一度謝罪の言葉を口にして頭を下げた。
「何度も謝らなくてもいい。俺達は、これからのあの子達にとっていい方向になった、それだけでよかったと思っている」
葵はそう言って、カイトを見て
「デュランもそう思うよな?」
と、カイトに同意を求める。
カイトは頷いて
「あの子達もだが、フリューさん、あんたが溜め込んでいた事を吐き出して、本来のあんたに戻れてよかったと思う」
と、言った。
葵は、大いに同意だ。
「そうだな。フリューさんが本来の自分を取り戻せてよかったと思う」
と言うと
「そうか…ありがとう」
フリューはそう言ってから笑みを浮かべた。
長老が手を、パンっと叩き
「さ、解散じゃ」
と、言うと
「お前達も、ゆっくり休むと言い。夜中にすまなかったな」
そう言ってから、集会所を後にする。
ぞろぞろと他の者達も集会所を後にする。
残された葵達は顔を見合わせて
「いい形になってよかったですね」
葵が言うと
「そうだな」
カイトは同意してから
「さ、お前も休め」
と言った。