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夢の中の異邦国  作者: 如月まりあ
ミヒデ村
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ミヒデ村ー夫妻の馴れ初め

イーナは、少し照れながら


「イオは、幼馴染だからね、一緒にいる事が当たり前な所があったんだよ。お互いに、将来を誓い合う事はなかったし、でもねぇ…」


思い出すように言っていたが


「もうそれまでにしておけ」


恥ずかしいのだろう、イオが止めに入る。


「父ちゃんは、黙ってて!」


ゼオが言った後に


「お母さん、続けて!」


マーネがイーナをせかすように言う。


イーナは、思い出すように目を瞑って


「あの時は、そうだね。森に薬草を取りに行ったんだよ。サラガやネーナも一緒だったね…ちょうど、村の薬草が切れていたから、結構な時間森に潜っていたね。しかも、思ったより深く潜っていたみたいでね、魔物に遭遇したんだよ」


そう話を続けると


「え?魔物に遭遇したの?」


ルーナが不思議そうに聞く。


イーナは苦笑いを浮かべて


「当時の私達は、まだまだ子供でね。森の恐ろしさをきちんと理解出来てなかったんだよ。知らないうちに深い所まで潜っていたんだ」


「遭遇した魔物は、イオ達ならば対処出来たけど、戦闘力のない私とネーナが一緒だったからね。足手纏いの私達を庇いながら戦うのは難しい。結界柱を力の及ぶ範囲まで全力で逃げたんだよ」


そう言いながら、どこか寂しそうだ。


妹であるネーナ達の事を思い出しているのだろうか…


「その時に、イオが私の手を引いてくれてね。一生懸命に『もう少しだ!』とか声を掛けてくれて…」


頬を染めながら言うイーナと顔を真っ赤にしているイオを見て、子供達は


「それから意識するようになったの?」


マーネが身を乗り出すように興味津々と聞いてくる。


イーナが、フフフと笑い


「そうね。それまではイオを幼馴染にしか見てなかったんだけどね…どちらかと言うとネーゼとサラガを見守っていたのがあったから、自分達の事を考えた事なかったからね」


そう言いながら少し照れたように笑う。


「で、父ちゃんは?いつから母ちゃんの事を意識しだしたの?」


ゼオがイオに問いかける。


イオは顔を赤くして


「そんなの…言えるか!」


憮然としたまま言うと


「お父さん、照れてるー」


ルーナが揶揄う様に言うと


「大人を…揶揄うんじゃない」


イオは父親としての矜持を保とうとしているが、顔を真っ赤にしているので、保てているかは分からない。


楽しそうにしている一家を見て


(こういう食卓もあるんだな…)


葵は、そう感じていた。


葵の家は、沈黙のまま食事を取っていた。


家族の食卓の形は様々あるのは理解出来ていたし、自分の家の食卓の形が正解とは思っていない。


だが、こういう賑やかな食卓を見ていると、葵は少し複雑な気持ちになる。


こういう楽しい食卓もあったのだと。


同時に家族を懐かしみ、胸が締め付けられる。


突然の事故で命を落とした。


自分が家族に大切にされていたと自覚しているからこそ、家族の落胆は計り知れないだろう。


それだけではない。


親友・圭子や部活の仲間…忘れてはならない、北白川美津子。


あちらの世界で葵が関わった人達の事を思い出す。


彼女らも葵の死を悼んだだろう。


特に勝ち逃げと言う形になった北白川美津子に関しては、葵に勝つ事こそが目標となっていたのだから、それが急に無くなり、何を目標としていけばいいのか戸惑うかもしれない。


…意外とあっさり目標を見つけてしまう可能性もあるが。


向こうの世界に思いを馳せて、何とも言えない気持ちになる。


…『帰りたい』そう願ってしまう。


胸がしめつけられる程に。


「どうした?」


バッカが葵の顔を覗き込む。


葵はハッとしてから


「な、何でもない」


と答える。


バッカはニヤリと笑い


「故郷の事でも思い出したか?」


ズバリと核心をついてくる。


「そんな事は…ない」


葵は、そう答えながらもドキドキする。


「こんな家族のやり取り見ていたら、家族っていいもんだと思うよな」


バッカの言葉に葵は


「お前でも、そんな事を思う事があるんだな」


意外そうに言う。


バッカは少しムッとしながら


「俺だって、家族を想う気持ちはあるぜ。…まぁ、俺にとっての家族は師匠とか兄弟弟子とかだけどな」


そう言ってから寂しい表情を浮かべる。


「そうだな…」


そう言いながら、葵はバッカが孤児である事を聞いたな…と思っていた。


「家族ってのは、いいもんだ」


バッカが言うと重みが何か違う。


それを聞いていたイーナは


「そう思ってもらって嬉しいよ」


と言ってから


「あんた達は、明々後日には旅立つんだろ?それまでは、私らを家族と思って過ごしておくれ」


そう言って微笑む。


バッカはフッと笑い


「母親って年じゃねぇから、年の離れた姉ちゃんだな」


肩をすくめながら言うと


「そうだね。年の離れた弟ってところだね。で、あんたは年はいくつなのさ?」


イーナが不思議そうに問いかける。


それは、実は葵も気にしていた。


バッカの年齢は計れないところがある。


バッカは、天井を見つめてから


「俺はなぁ、実年齢分かんないだよな。たぶん22位だと思うがな」


と、答えてから


「アオイとデュランは?」


と葵達に話を振る。


「俺は…16だ」


葵が答える。


カイトは、少し迷ってから


「…19」


とだけ答える。


実際のカイトの年齢は17だが、少しだけ年齢を詐称した事になる。


葵は、失敗したなと思った。


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