ミヒデ村ー夕食後のひと時
(バッカについては謎の部分が多い。私達についてきた目的も定かではないわ。油断をしてはいけない。もしかしたら、もある)
疑心暗鬼や思い込みは、思わず失敗を招く。
それは、葵にも理解出来ているが、目の前にいる人物が信用出来るのかは分からない。
警戒しておいて損はない。
「美味かったな」
食事が終わった後、バッカが言うと
「そうだな。やはり家庭料理には、食堂とは違う美味さがあるな」
葵は、そう言いながら皿などを片付けだす。
「いいよ。お客さんがそんな事をしなくても」
イーナが慌てて言うと
「そうか?でも、美味いものを食わせてもらった礼もある。片付けくらいは手伝わせてくれ」
そう言いながら食器をまとめだす。
「いいよ、いいよ、本当に。お客さんがそんな事をしなくていいから、ゆっくり座っといてくれよ」
イーナが葵を止めるように言う。
葵は、手を止めて
「そうか?」
そう言って手を止める。
「手伝ってくれるのはありがたいよ。ありがとうね。あんたの家では、片付けを手伝うように育てられたのかい?」
イーナがそう問うと、葵は少し間を置いてから
「…まぁな。食事を作ってくれた人に感謝をするのは当然の事だが、手間を少なくする為に、食器を片付けるように躾けられていたな」
そう言いながら、再び母の事を思い出す。
母も師範代として道場に出てはいたが、家事に関して手を抜いた事はしてない。
家事の方が優先されてはいたが、両立が出来ていた。
葵は、そういう母を見てきた。
そういう所も尊敬していた。
そして、両親から小さい頃から家事の手伝いを躾けられていた。
学業を優先するようにとは言っていたので、それでも空いた時間があれば、家事を手伝っていたし、母とも会話が弾んだりしていた。
食器の片づけは当たり前だったので、こういう場所となると体が動いてしまう。
「親の躾がちゃんとしているんだな」
バッカが感心したように言うと
「…まぁな。」
短く答えてから
「少ししたら、また鍛錬するか?」
と、カイトに問いかける。
カイトは首を横に振り
「いや、鍛錬より基礎運動をした方がいいだろう。アオイは、まずは筋肉をつける方を優先した方がいい」
そう答えた。
葵は残念そうな表情を浮かべて
「そうか…」
と言うと
「確かにアオイは、腕力と踏ん張る力が足りない部分があるからな」
バッカがカイトの言葉に納得するように言う。
「…お前もそう思うか?」
カイトが問い掛けると
「そうだな。筋力がほぼないと思うぞ。お前、村では何をしていたんだ?普通、畑仕事とかしていたら、筋力は付くもんだぞ」
不思議そうに言うバッカの言葉に、葵はドキリとする。
椎名葵は剣道を嗜んでいたので、筋力はそれなりについていた。
しかし、レイラ・クウェントは違う。
魔導師として育てられた彼女は、筋力を使う事はほぼない。
戦闘を想定して、持久力を上げる訓練はしていたが、杖を最後まで持っていたりする程度しか鍛えていない。
後方支援が、彼女の戦闘スタイルなのだから、前衛に出て剣を振るう事はない。
剣の鍛錬を全くしていた訳でない。
ただ、護身術程度しか短剣を振るう事しか剣を握った事のないのだ。
どうにかこの場を切り抜ける言い訳を考える。
「筋肉がつきにくい体質だと思う。だから、早々に口減らしされたんだろうな」
頭に浮かんだ事を口にする。
実際に葵が感じていた事だ。
魔物退治や修練で、結構筋肉を使っていると感じているが、思った以上に筋力はついていない。
あくまで、葵の元の体と比べてだが。
レイラ姫は、本来で言えば魔術師なので、筋力がモノを言う動作は無いに等しい。
そういう鍛錬をしてきたのだから、そういう体質になっても仕方がない。
それが現状ネックになってしまっているが。
「なるほどな…生まれつきの体質と言う訳か。足りない分は知恵が回るという訳だし、それでバランスを取っている訳だな」
バッカの言葉に葵は苦笑しながら
「そんなに頭が回る訳じゃない。頭の回転や口先の上手さにはバッカには敵わないよ」
葵が肩をすくめる。
その言葉に嘘はない。
口先ではバッカの足元にも及ばないのは自覚している。
バッカは口先だけではない、頭も回る。
いつ自分達の矛盾を突かれるか、と不安に駆られる。
危なげな綱渡りだ…と葵は感じている。
一瞬の隙が自分達を危機へと追いやる。
だから、言葉には気を付けている。
隙を見せてはならない。
「生きていく為には、口が立たないとならないからな。自然にそうなってしまうわな。そういやデュランはどうなんだ?」
いきなり、カイトに話を振る。
「え?」
カイトが驚いていると
「お前は、口下手みたいだからな。どうやって過ごしていたんだ?」
バッカの問いに、カイトは少し考えてから
「俺は…口が立つ訳じゃないからな。最低限の会話以外はしていない。口が足りない分は、腕が立つので、それで何とか暮らしていた」
と答える。
葵は、内心ホッとする。
何とかバッカの問いを躱したようだ。
と思っていたが…
「じゃあ、異性に対してはどうしていたんだ?」
さらに突っ込む問いをする。