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夢の中の異邦国  作者: 如月まりあ
ミヒデ村
111/132

ミヒデ村ー重ねる嘘

怖くなってきたが、それを振り払うように


(本当に今更だわ。外から来た私が異質なのは当たり前の事。私は、この世界でやるべき事をするだけ。そしたら、元の世界に戻れるかもしれない。シンフォニアは奇跡を起こす事が出来るかもしれない。そして、あの日常を取り戻す)


グッと拳を握りしめる。


「どうした?怖い顔になっているぞ」


バッカが葵に声をかける。


葵は、ハッとして


「す、すまない。早く強くなりたいと思っていてな。なんせ、俺は口が多少立つだけの弱い冒険者だからな。デュランやバッカがいないと、魔物の住む森も越えられりゃしない。その現実を考えて…な」


そう言うと


「…そうか。ま、俺もデュランもお前と旅をする理由がある。お互い様な事もあるだろうよ。だから、そんなに自分を卑下する必要はないと思うがな」


バッカの言葉に、葵は苦笑いを浮かべて


「そう言ってもらえると嬉しいが、俺が戦闘では足を引っ張る部分があるのは事実だからな。早く1人で魔物と対峙出来るようになりたいよ」


肩をすくめながら言うと


「イラガとネーゼにも言える事だが、焦りが一番の成長の妨げになる時もある。焦らず、じっくり成長していくのも大事だと思うがね」


バッカは、そう言った。


「その意見には、俺も賛成だ」


カイトが、少し小さめの声で言うと


「デュランもそう思うか?実際の所は、どうなんだ?アオイは強くなっているのか?」


バッカの問いに、カイトは少し考える間を置いて


「鍛錬をしているから、少しずつだか強くなっているとは思うが、いかんせん焦りが前面に出ている。だから、それが成長を阻害している感じはあるな」


そう答えながら、葵をチラリと見る。


焦りがあるのは事実なので、葵は何も言えない。


「やはりそうか…アオイ、お前、村にいた時に誰かに狩りを教えてもらった事はないのか?」


バッカの疑問はもっともだ。


この世界だと、常に魔獣などの脅威に平民はさらされている。


子供の頃から、撃退の為の鍛錬は重ねているはずなのだ。


葵は、必死に考えをめぐらせる。


この場をどうにか回避する言葉を。


「俺は、力が弱くてな。狩りの鍛錬はさせてもらえなかった。基本的な動きは、村で教えてはもらっていたが、狩りの経験は皆無だったよ。畑仕事要員として育てられたからな」


何とか言葉を紡ぎ出す。


(この設定を覚えておかないと…)


「そういうものなのか?」


そういうバッカの問いに


「少なくとも俺はそういう風に育てられてきた。村の中では、特殊なのかもしれない。他の連中は狩りにも畑仕事も出来るように育てられていたみたいだからな」


…ハッキリ言ってはったりである。


葵が出身村だと偽っているゲノベ村では、本当はどうなのかという所は知らない。


適当に言っているつもりはないが、出来るだけ違和感が出ないように言葉を選らぶ。


「よく村を出してもらえたな」


バッカの言葉に、一瞬ドキッとしたが


「…口減らしだよ」


と葵は答える。


「俺みたいな役立たずは村にとって、持て余してしまうからな。村の年寄連中は、街の方が俺が生き延びていく職にありつけるだろうと考えたんじゃないか?」


葵は、必死に嘘を紡ぐ。


「じゃあ、なんで冒険者なんてなったんだよ」


さらなるバッカの追及。


葵は背中に変な汗をかきながら


「デュランに助けられた時に、剣捌きが見事でな。俺はこうなりたいと思っただけだよ」


そう言ってカイトをチラリと見る。


「確かにデュランの剣捌きは精錬されていたな。無駄な動きがない。お前は、何で冒険者なんかに?それだけの腕があれば、騎士にもなれただろうに」


バッカの疑問はもっともだ。


カイトは、少し考えてから


「別に…俺は冒険者に憧れていたからな」


短く答えた。


「それだけか?」


追及の手を緩めないバッカに


「無理矢理聞き出す事はするなよ。話したくない事もあるだろ」


葵がカイトを庇うように言う。


バッカは一息ついてから


「それもそうだな。すまない。お前達は何も話しねえなと思ってよ。一緒に旅をするなら、お互いの事を知っておくのも大事だ。なのに、お前らは何も語らないからな」


そう言うと、葵はミスったなと感じる。


「確かにバッカの言う通りだが、旅で必要な最低限の事は話しているつもりだ。言いたくない事を無理矢理聞き出すのは、お互い困る部分もあるからな。そういうお前はどうなんだよ?」


少し反撃の意味でバッカに問いかける。


バッカは少し黙ってから


「…確かに話したくない事はあるよな」


と言う。


「俺の事を聞いといて、自分は話さないつもりかよ」


葵がツッコミを入れると


「そうだな。言いたくない部分が多い。アオイは無理矢理聞き出すのは趣味じゃないんだろ?だったら、放置してくれ」


バッカはそう言ってから皿に目を移して


「さ、美味しい飯だ」


と、食べ始める。


それにつられるように、各々が食事を再開する。


(話したくない事は話さない訳ね。ま、私達も探られて困る事が多いから何も聞き出す事はしないけど)


葵は食事を進めながらチラリとバッカを見る。


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