表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢の中の異邦国  作者: 如月まりあ
お姫様となって旅立ちます。
11/132

カイトの後悔

賢者の小屋から飛び出したカイトは、悔しそうに目の前の木に拳をぶつけた。


(私が、私が油断したばかりに…姫は…姫は…)


悔しさから涙がこぼれ落ちてきた。




小さい頃から、レイラ姫の守護騎士として、レイラ姫の側にいた。


それは、魔導師見習いだったヴィヴィアン・レクスドールも一緒だった。


共に学び、共に遊び、共に成長していった。


レイラ姫とヴィヴィアンは、止めるカイトを制して街に出る事が多かった。


そして、見つかり3人で執事長に叱られて…


そんな日々を繰り返しながら、成長をしていった。


そして、いつしかレイラ姫を一人の女性として意識するようになったが、自分はただの守護騎士。


そして、下級貴族。


レイラ姫は王族であり、守護樹シンフォニアに選ばれた巫女。


いつしか然るべき血筋の貴族か王族と婚姻を結ぶ。


だから、自分の想いは胸に秘めておくつもりだった。


だが、レイラ姫は、自分の想いに応えてくれ、守護樹シンフォニアから祝福され、レイラ姫の配偶者として認められた。


フィアント公国にとって、守護樹シンフォニアの意思こそすべて。


シンフォニアに認められれば、下級貴族であろうと王族の配偶者になれるのだ。


そのシンフォニアに認められたカイトは、レイラ姫の婚約者として諸国に発表された。


その直後だった。


ビルガ帝国の侵攻が始まったのは。


シンフォニアの加護を過信していたのは、カイトも一緒だった。


だが、守護は発動せず、ビルガ帝国に蹂躙されていくフィアント公国。


首都に到達する直前、ビルガ帝国の総司令である第一王子キートン・ゲオルクからの要求は、受け入れがたいモノであった。


そして、最高魔導師ベイト・ディインダは自分と共にシンフォニアを封印した。


さらに守護樹の間に結界を張った。


これで、ビルガ帝国の軍がシンフォニアに近付く事は出来なくなった。


カイトは、レイラと共に城から脱出した。


ベイトの森の賢者である、セイト・レクスドールに助けを求める為だ。


だが、城を脱出する直前、ヴィヴィアンの裏切りが判明する。


ヴィヴィアンは、セイト・レクスドールの孫娘。


しかし、セイト・レクスドールに助けを求めるしか道は無く、ベイトの森に向かうしか無かった。


その途中の森で


「みーつけた」


声に振り返ると、ヴィヴィアンがビルガ帝国の兵を引き連れて笑みを浮かべて立っていた。


「…もう!探したわよ。レイラ姫、それにカイト」


不敵に笑うヴィヴィアンを二人が睨む。


「おお…こわ…」


ヴィヴィアンが怖がる真似をする。


「何故、裏切った?」


怒りにまかせて、カイトが問う。


「…別にぃ。大した理由じゃ無いわよ。強い者に付くのは、当然の摂理ではなくて?」


不敵に笑いながら答えるヴィヴィアン。


「レイラ姫は城に戻ってもらいます。カイト…あなたは、ここで…」


そこで、ニッと笑い


「死んでもらうわ」


そう言ってから、手を上げる。


兵が二人に襲いかかろうとしてきた。


剣を抜いて応戦するカイトと


「炎の矢!」


魔法で応戦するレイラ。


油断していた…自分を狙う毒矢に気付かなかった。


気付いたのは、レイラだった。


「危ない!カイト!」


そう叫んでカイトの庇い、毒矢を受けるレイラ。


矢を受けて、崩れいくレイラ。


ヴィヴィアンの表情にも動揺が走るのが分かる。


倒れると同時に魔法陣が展開された。


光に包まれて、目を開けるとセイトの住む小屋の前だった。


気配を感じて出てきたセイトに


「レクス老!姫が!姫が!」


レイラを抱えながら、叫ぶカイトに


「落ち着きなさい!とにかく小屋へ」


セイトはそう言って、小屋へと誘う。


レイラに刺さった矢はいつの間にか消えていた。


カイトは、レイラを抱え小屋に入る。


そこで気付いた。


姫の周囲には、魔法陣が展開されたままだった。


それはシンフォニアの守護だとカイトは疑わなかった。


ベッドに寝かせた後にも、魔法陣は展開されたままだった。


シンフォニアの加護で姫は回復している…そう信じていた。


だが…魔法陣が消え、レイラの瞳が開くと…


レイラは別人になっていた。




その事実をカイトは受け入れなかった。


受け入れがたかった。


(私が…私が…)


何度も、何度も、拳をぶつける。


拳に血が滲んでも、痛みが拳に広がっても。


涙を流しながら後悔をする。


泣き疲れたのか、拳が止まる。


(私の不甲斐なさで、姫が…)


それは、カイトにとっては事実。


自分の油断こそが、レイラを危険に晒し、あまつさえレイラがいなくなり別人になってしまった。


異世界から召喚された…少女…


(アレは、姫ではない)


それだけは、分かる。


自分が愛した《レイラ・クェント》は、もうこの世界にはいないのだ。


その事実が、カイトを苦しめる。


(私は、これからどうしたらいい?姫がいなくなり…ヴィヴィアンも裏切った…フィアントは、ビルガに征服されるだろう。私は…)


立ち尽くすだけカイトの周囲に魔法陣が展開される。


次の瞬間、小屋の中にいた。


そこにいたのは、セイトと少女とベイト・ディインダの幻影らしきもの。


「ベイト・ディインダ!」


驚いて声をあげたカイトに


『カイト・バルテノス。そなたは、レイラ姫の想いを叶える為、この者の旅を助けよ』


ベイト・ディインダは、そう告げる。


「ベイト・ディインダ…姫は…」


『姫の想いは、彼女の中に息づいておる。精神(こころ)は消えても想いは残っておる』


ベイト・ディインダの言葉だが、にわかに信じられない。


納得が出来ない。


理解が出来ない。


『時間が無い。もうすぐ、ヴィヴィアンに連れられたビルト帝国の兵がここに到達するだろう。すぐに旅立ちを…』


そう言ってから、手を翳す。


光が発し、あまりの眩しさにその場にいた者は目を閉ざした。


再び光に飲まれ、次の瞬間、カイトはレイラ姫の姿をした少女と共に森の外に出ていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ