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夢の中の異邦国  作者: 如月まりあ
ミヒデ村
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ミヒデ村ー夕食前の一幕

その笑い声に皆一瞬驚いたが、つられるようにイラガも笑い出す。


「兄ちゃん達面白い」


イラガが言うと一人だけ笑っていないでムッとしていた葵が


「そうか?」


と首を傾げる。


「うん!お兄ちゃん達面白い」


ネーゼが笑いながら言う。


その笑顔に少しホッコリとなる。


カイトが、その2人の頭に手を置き


「子供は笑顔の方がいい」


と言った。


「え?」


少し困惑の表情になる2人に


「俺の敬愛する人が言っていたんだ。『子供達がいつでも笑顔がいられるような世界がいい。そんな世界を私は作りたい』って」


カイトは、少し寂しそうな表情を浮かべて言う。


イラガとネーゼは顔を見合わせて


「その人は…?」


と、聞くとカイトは寂しそうな笑みを浮かべて


「今は遠くに行っている」


と、答えた。


「…死んじゃったの?」


ネーゼが遠慮がち聞くと


「…死んではいない。その人が生きていると信じて旅を続けている」


カイトの表情は、何かを秘めているかのように硬い。


それを見た葵は


(それはレイラ姫。彼女は世界の平和を本当に願っていた。消えない戦争の火種を憂いていた。そして、自分が女王になった時に平和な世界を作る事を決意していた。それをカイトさんとヴィヴィアンに手伝ってほしいと願っていた)


そう思いながら


(…言えない。レイラ姫と葵が()()されつつある事を。レイラ姫の精神(こころ)が完全に消えてしまうかもしれない事を…何て言えば言いの?)


グッと拳を握りしめる。


どう伝えれば、カイトの心のダメージが少なく済むのか。


考えても答えは出ない。


いつか話す日は来る、いや話さないとならないだろう。


だが、少なくとも今ではない。


ゆっくりと考えていこう。


葵は、そう自分に言い聞かせ、納得させた。


…無理矢理だが。


そこに


「ご飯の時間だよー」


イーナの声がした。


「飯が出来たみたいだな」


バッカが声をした方を見ながら言うと


「そうみたいだな」


葵が答える。


「こっち!」


ネーゼがバッカの手を取る。


イラガは反対側の手を取って


「バッカさん、一緒に行こう!」


そう言って2人でバッカを中の方に誘う。


「え…お…おい…」


バッカは戸惑いながら葵とカイトを見る。


葵はニッコリと笑って手を振る。


カイトは無表情のまま立っているだけだ。


3人が行くと


「バッカ、子供達になつかれたみたいですね」


葵が笑みを浮かべたまま言うと


「そうだな」


カイトは小さく答えた。


「子供達の気持ちも分かりますからね。バッカは、戸惑うかもしれませんが、2人になつかれたままにしておきましょう」


クスクスと笑う葵に


「楽しそうだな」


カイトが言うと


「だって、バッカのあの戸惑った顔…見た事ありませんからね。…すみません」


葵は顔を引き締める。


「何故、謝る?」


カイトが問いかけると


「今は、そんな時ではないですよね?すみません、浮かれてしまって」


葵が、そう言うとカイトは葵の頭をポンっと叩いて


「いいじゃないか。こういう時だからこそ、心に少しでも余裕を持つことが大事だ。確かに今はそんな時ではないが、楽しい気持ちを封じる必要はない。笑い時は笑うといい」


そういって葵に微かな笑顔を向ける。


(…反則ですって。その笑顔)


葵の心臓が波打つ。


(駄目よ…この人はレイラ姫の恋人。レイラ姫が戻ってきたら、この体はレイラ姫に返さないといけないんだから)


ゆっくりと深呼吸する。


そこでふと気付く。


自分は今、恐らくだが確実にレイラ姫との融合の影響が出ている。


それが終われば自分はどうなるのだろうか…?


()()()でも()()()()()()()()()とは違う自分になるのだろうか。


不安が胸を過ぎる。


笑顔から一転して、不安げな表情を浮かべた葵を見て


「どうしたんだ?」


心配そうに聞く。


葵は


(今は考えるのをやめよう)


と首を横に振り


「いいえ、ただ、今が笑っている状況ではないと言うのを改めて考えまして…」


【嘘】をつく。


カイトは少しだけ違和感を抱いたが…


「そうか…だが、笑う位は状況によってはいい事だと私は思うぞ」


気付いていないフリをする。


今はそれが最善だと思っている。


悩みを一人で抱え込んでいるのはよくない。


だが、無理矢理聞き出すのはカイトのポリシーに反する。


それに、今はいろいろ混乱しているだけで、落ち着いたら話をしてくれると信じている。


カイトは、葵の事はよくは知らないが、そんな気がする。


分からないが自信がある。


「おーい」


向こうからバッカの声がする。


「早く来ねぇと冷めちまうぜ」


その声にハッとして


「行こうか」


カイトは葵に言う。


「そうですね」


と葵は答えて中の方に入って行く。


居間の様な場所に出るとテーブルの上には料理が並んでいる。


台所らしき所からイーナが顔を出す。


「ちょっと待って。旦那と子供達がくるから」


そう言ってもう一度台所に入る。


どこに座ったらいいのか分からずに立ち尽くしている葵達に


「こっちに座ってくれ」


男性が部屋から出てきて、少し高めの椅子を指さす。


「あぁ…分かった」


そう答えて葵とカイトは椅子に座る。


バッカはというとイラガとネーゼに挟まれて戸惑っている様子だ。


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