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夢の中の異邦国  作者: 如月まりあ
ミヒデ村
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ミヒデ村でカイトが思う事

ふとバッカ達がいた方向を見ると、向こうも鍛錬を終わらせている様子を見て


「あちらも終わったようですね。バッカしかいない。あの子達はイーナさんの所でしょうか?」


葵の言葉に


「そうかもしれないな」


「無理はさせていないようでよかったです。焦りが出ていたみたいだから、無理しているんじゃないかと心配していました。私にも言えますが、焦りは成長を阻害する一番の原因になりえますからね。そこのところは上手く操作しているみたいですね」


ホッとしたように葵が言うと


「やはり気にはなっているか?」


カイトの言葉に


「あの子達は、シンフォニアの祝福ですからね。力を貸してやれないのはやはり気がかりですが、それは仕方のない事だと思います。バッカがいた事は幸運だったのかもしれません」


葵はそう言った後に


「ただ…」


ポツリと言葉が出る。


「バッカがいる事が偶然なのかシンフォニアが魔法の使えない私を助ける為に授けてくれたモノなのか、判断に苦しみます」


その言葉は、カイトも考えさせられる。


確かにバッカの存在は都合が良すぎる感は否めない。


何者かの力が働いているのではないか…そう思えてならない。


この旅は、今の所は追手に追い付かれていない。


追って…ヴィヴィアンは馬鹿ではない。


その証拠に、レイラ姫と賢者の森に行く途中で追いつかれている。


その時は、シンフォニアの加護のお陰で逃げ切る事は出来たが、その代償はレイラ姫の精神(こころ)だった。


だが、今は追い付いた気配すらしない。


追手が何処にいるかは分からないが、確実に迫ってきているのではないか…とは感じている。


カイトの本音を言えば、ミヒデ村を一刻も早く出立したい。


追手が何故追い付いていないかは不明だが、いつかは追い付かれる時がくる。


自分や葵の変装など、ヴィヴィアンには意味がない。


すぐに見破られてしまうだろう。


だからこそ、追い付かれる訳にはいかない。


一刻も早く先に進まないとならないのだ。


だが、葵はココに留まる事を選んだ。


シンフォニアの加護を受けている子供達を見捨ててしまえば、今まで自分達が受けている加護が無くなると考えている。


シンフォニアの加護については、よくは分からないが、おそらくそうなのだろう。


シンフォニアの巫女でもあるレイラ姫の記憶などがそう言っているのだろうと考えている。


この旅は、葵が成長する為の旅だ。


自分のその警護をしているのに過ぎない。


こういう時の判断も、シンフォニアから与えられた試練になるのだろう。


だが、カイトの本音を言えば早く解印石を手に入れてシンフォニアの所に行きたい気持ちはある。


レイラ姫を取り戻せる方法は、シンフォニアしか知らない。


自分が愛したレイラ姫…禁忌魔法(リフォント)の代償として消えたとされている。


だが、カイトは何処かにレイラ姫が残っていると思っている。


もしかしたら、シンフォニアがレイラ姫の精神(こころ)を何処かに隠しているのでは?と思っている。


そんなはずはない。


分かっているのだ。


頭ではわかっているのだ。


そんなはずはない事を。


だが、カイトの感情は、何処かでレイラ姫の精神(こころ)が生きていると願っている。


ありえない可能性にすがるくらいまでに、深くレイラ姫を愛していたのだ。


目の前にいるのは、レイラ姫の体だが別人だ。


ふとした仕草などは、レイラ姫と似ている部分もあるが、根本的に違う人物だと分かる。


受け入れる方向へと流されてしまいそうになるが、カイトは必死に抵抗している。


レイラ姫を取り戻せる可能性に賭けている自分に必死にしがみ付いている。


葵の事が気に入らないわけではない。


最初は、レイラ姫の体を奪ったと反抗心があったが、旅を続けているうちに彼女に何も落ち度はなく、巻き込まれただけだと言う事は理解出来た。


何よりもレイラ姫と同じく、自分の為すべきことに真摯に向き合う姿勢は敬意に値する。


だが、レイラ姫と違うのは自分の意志をハッキリと示す部分だ。


レイラ姫は、いつでも自分の意見を押し通さずに周囲の意見を最優先にしていた。


ゆずれない部分はゆずらなかったが、周囲の言葉に耳を傾けてそれを受け入れ、自分の考えと上手く融合していた。


だが、葵は違う。


カイトの意見を、取り入れる部分はある。


だが、確固たる自分の意志を軸にして、自分の意志で物事を決めている。


レイラ姫とは、全く違う人間だ。


そう言った部分に、カイトは抵抗を覚えていたが、今ならそうでないとこの旅は成立しないと理解できる。


自分という確固たる軸と、冷静な判断力がないと、このギリギリな旅は続けられない。


そういった意味ではレイラ姫では旅を続けられないという、シンフォニアの判断は正しいのだろう。


だが、何故、レイラ姫は消えないとならなかったのか?


カイトは、その答えには辿り着いてないし、消化も出来てない。


旅を続けながら、答えを模索しているが、辿り着けない。


考えても仕方ない。


旅の終わりにシンフォニアに対峙した時に答えは見つかるだろう。


そう思うと先を急ぐ気持ちが出てしまう。


この旅で焦りは禁物だ。


それが判断を狂わせてしまうからだ。


冷静に物事を判断できる事が重要になってくる。


自分は沈着冷静な方だと思っていたが、意外に違うと気付かされた。


剣の師匠が言っていた。


『人生は日々、修行の日々だ。限界などない。先は無いと止まってしまったら、そいつはそこまでだ。先がある、上があると考える者に道は開かれる』


その言葉が、今身に染みてきている。


(自分もまだまだだな…)


カイトは、改めてそう思った。


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