男の子とけもの子との初めての出会い。それから思いがけないハプニング
タクヤは目をさました。
目を開ける。見たことがない天井。
天井はすぐそばだ。
ここは宇宙船の仮眠用ベッドの中。
ベッドから起き上がるタクヤ。
そろっと、船内を歩いてみる。
ごく普通の船内。
地球人が空想で描く宇宙船の中のレイアウトと同じようだ。
椅子。その前にあるディスプレイ。
操縦用のコンソール。おびただしい数のスイッチはなかった。
操縦用のボタンもない。
ただ目立つところにボタンが5つあった。
1つ目のボタンは意味がわからない。
2つ目のボタンは惑星の図とそこから外に伸びる矢印のボタン。
3つ目のボタンは逆に惑星の中に伸びる矢印のボタン。
4つ目のボタンは太陽系に似た図が書いてある、惑星系の中に伸びる矢印のボタン。
5つ目のボタンも太陽系に似た図が書いてあり、惑星系の中から外に伸びる矢印が書いてある。
実にシンプルだ。俺でもわかる。
「何してんの?」
背後からヌルファの声。それと俺の股間からきつねしっぽが生えた。
ヌルファのだった。股間の下からヌルファがしっぽを前にだしたのだった。
ヌルファのしっぽが俺の胴体にくっつく。
ぎゅっとくっつく。
思いのほか力が強い。
「いや。目が覚めたからコンソールの操縦システムを見てみたくて… ボタンは触ってないよ…」
「ほんとに?」
「うん。ところでこのしっぽ邪魔なんだけど…」
しっぽをつかんで前のほうに倒して引きはがそうとする。
う。なにこれ…ぜんぜんびくともしない。
「しっぽの力強いでしょ… 取り押さえるときに両腕としっぽを使って抑えるんだ…こんなふうに…」
ヌルファは両腕で抱きついて拘束してくる。
ヌルファをふりほどけない。
でもこの方法には弱点がある。
ちょっとだけしゃがんで、ヌルファを背負うようにした。
「どうだ…」
「あ。こら…」ヌルファが背中でもがく。
俺はヌルファをおんぶする形で両腕を後ろに回していたので、ヌルファとくっつく。
すると…
急に背中が重くなった。
「ぐっ…急に重たく…」
体の横からネコのしっぽが出てきた。
ルリがヌルファの上からおんぶしてきたようだ。
さすがに2人は重すぎる。
支えきれなくて床に四つん這いになり、そのまま床に倒れてしまう。
「朝ごはん… 宇宙食になるのかしら…できているから…」
ルリが言い。ルリが背中から降りた。
その後ヌルファも背中から降りた。
ふう。けもの耳の子に押しつぶされた。
しかしヌルファの体。柔らかかった。きっと体毛が生えているんだろう。
エリカがもふりたくなるのもわかるか…
俺は床から立ち上がった。
朝食は、とったばかりのお野菜に見えるもの。見たことがないパンのような感じのもの。何かのお肉とお魚に似たもの。そして何かの実。黒かった。
それらが、薄い不透明の紙に似たものでつつまれていた。
「食べ終わったら包みをそのゴミ箱へ捨てるのよ。リサイクルされるからね…」
ルリが言う。
「これ。うまいな…」俺は何かのお肉を食べる。
「でしょ。人口で培養されたお肉に似たもの。栄養も付加されている。こっちは故郷の惑星でとれた、地球で言うお魚みたいなもの。その…缶詰みたいなものかな…」
「ふーん。ところでこれを俺が食べて問題がなかったのか?」
と言いながら黒い実を食べる。少しにがかった。
それを聞いてヌルファは…一瞬ルリの顔を見て…
「あっ。そうだ。検査してなかった。地球人に害があるものが含まれていないともかぎらないんだった。ところでその実。食べても大丈夫だった? ある惑星系の人だと即死するんだけど…」
俺が実を食べてごくんと飲んでからヌルファは言った。
「は?…うっ」俺は青ざめた。
「大丈夫よ… 特殊な惑星系の人だけじゃない… 苦いのがダメな種族…
地球人はビールとか苦い飲み物を飲むらしいから大丈夫よ…」
「そうだった。朝食べるといいんだよ。眠気覚ましにね…」ヌルファは言った。
なんだそうだったのか…
くっ。こんど仕返ししてやろう。
朝食を食べ終えて…テレビに出ている男の子を迎えに行くために今日の計画を考えることにした。
午後。小学校が終わるのはだいたい何時だっけ? あの放送が行われる場所で待ってればいいか。そこで話をして…次の日とか都合のいい日に来てもらう…
☆☆☆
男の子の家。
学校が終わり、同級生と一緒に帰る。幼馴染の女の子を家に入れる。
同級生の女の子は近所に住んでいる。読みたい漫画があって、家に全巻そろっていると言ったら遊びに来てくれることになった。
「全巻そろってる。読ませてね…」
「いいぞ…そうだ。とっておきのケーキがあったんだ。持ってくるからな…」
と言い部屋を出る。
ふっふっふ。とっておきのケーキ。
男の子には計画があった。お小遣いをつぎ込んで買ったケーキ。
部屋のドアを足であける。
そして、お盆に乗せたケーキをテーブルの上に置く。
そして飲み物の蓋をとって、コップにつぐ。
「ありがとう。タクミ」男の子にお礼を言う女の子。
漫画を読みながらケーキを食べる女の子。
ふっふっふ。にやけている。
さてと、漫画2巻を読み終わり、ケーキがなくなったころ。
「あのさ。お願いがあるんだけど…」
ぎくっと。いう感じで女の子はこっちを見る。
「ひょっとして…何か考えてた? まさかあのケーキは賄賂?」
タクミは、机の引き出しから、きつね耳ときつね尻尾のアクセサリーを取り出した。
「これつけてくれるか?」
「えー。やだぁ」
女の子はいやと言い、漫画の3巻を手に取る。
「ケーキ食べたよな…」タクミは言う。
「うん。そうね。とってもおいしかったよ…ありがと…」
お礼を言い、そのまま漫画を読む。
「ところであのケーキいくらしたと思う?」
「ん? 500円?」漫画を読みながら言う女の子。
「いんや。2800円」
「……は?」女の子は顔をあげる。
「ちなみに君が食べた1個で1400円。2個で2800円だった」
「はああ? 何でそんなに高いの? だったらもっと味わって…」
タクミは言った。「ちょうど昨日。有名なパティシエが来てて限定で販売されたんだ。
昨日買っておいたのさ… もう今日はそのパティシエはいないから…もう食べられないぞ…
かなり並んで買った… さあ。つけてくれ…さあ。さあ…」
きつね耳としっぽを手に、女の子の前に差し出す。
「えー」女の子は嫌な顔をするが…
「一生に10回しかお願いができないとして3回目のお願いだから… ぜひ…
このとおり。土下座でもなんでもするから…」
「なんでも? 変なことしない? 写真にとってみんなに見せたり…」
「しないしない。他の人には見せない… だからほれ。これつけて。ポーズをとって。コーンと言って…」
手をぐーにしてコーンと言うだけ…
「わかった…」
女の子はきつね耳カチューシャを頭につけて…スカートのお尻のところにしっぽをつけた。
そして…こーん。
ぽーずを取った。
「はわわぁ。いい。いいぞ。もっとやってくれ…もっと… くるっと回ってからこーんとか」
くるん。そしてこーん。という。
「どう? 恥ずかしいんだけど…」女の子は言う。
「かわいいぞ。すっごく…」
……… たっぷり1時間はきつねポーズをさせられた女の子。
「あたし帰らないと… 買い物に行く時間…」女の子は時計を見た。
「そうか。じゃあ次な… 僕もテレビに出ないと…」
いつもの駅前のテレビ。
「あなたも飽きないわね… 言っておくけど…きつね耳。次はないから… とっても恥ずかしかったんだから…」と言ってきつね耳としっぽを取って、タクミに手渡す。
タクミは特製のパーカーを着る。そしてそのままきつね耳としっぽを付けた。
「タクミ…」女の子はびっくりする。
タクミは何の抵抗もなくきつね耳としっぽを付けた。
特製のパーカーは、黄色と白。きつねっぽいカラーだ。
「じゃあな。僕はこっちだから…」
「明日学校でね…」女の子はため息をついた。
タクミのけもの耳好きは相当なものだ。
テレビの放送。街角のインタビューとミニクイズをする場面。
ちょっとした合間にタクミは前に出てテレビに映るようにする。
「こーん。こーん。きつねっ子。きつねっ子大好きだからこの地球においで…
もしいたら僕のところにお嫁さんに来てくれ。油揚げ1000年分用意して待ってるぞ…」
両手をぐーにして、こーん。のポーズで謎の踊りをした。
☆☆☆
「さてと…」
今日もおつとめ終わったな…
男の子は帰るかなと思っていたころ…
「ねえ。君。ちょっといい?」
大学生ぐらいの男の人が声をかけてきた。
ん? なんだ? からかいに来たのか? それともかつあげ?
ちょっと警戒しながら男の人を見る。
「こんにちは。俺は宇宙人とのコンタクトを真面目に研究しているんだけど…
君のファンという人がこの前訪ねてきてね。ぜひ君に会いたいって言うんだけど…
君もきっとその子に会ったら願いが叶う気がするんだけど…」
「願い? なんだそれ…僕の願いは見てわかるとおりけもの耳っ子と仲良くすることだ…」
大学生の男の人は…「ふっふっふ。もしそうだと言ったらどうする? 次の土曜日午後から時間あるかな?」
「ま。まあ。お兄さんあやしい人? 僕を誘拐する?」
「しないしない。本当に会わせたい人がいるだけ…人じゃないけど…」
「人じゃないって? まあいいか。交通費はお兄さん持ちね。おこずかいは僕の計画で使う予定があるから…」
「あ。そうだ。一応こんなものを持ってきたんだけど…君の親に見せるといいよ…」
大学生の人は、パンフレットを見せる。
大学で開催する星空の教室。宇宙のことを学ぼう。雨天のときはプラネタリウムで…
合宿となっているのでお泊りセットを持ってくること。
そして大学の有名な教授の写真がのっていた。
「ふーん。いちおう宇宙のこと興味あるし…親がいいと言えば参加するかも…」
ちょっと怪しんでいたが…
「ちなみにきつねもいるし、ネコもいるんだけど…合宿の間もふれるよ…」
その言葉を聞いてぴくっとなった。
「じゃあ。参加する。どこで待ち合わせ?」僕は聞いた。
「ここで… 13時30分に…」
「わかった」
☆☆☆
タクヤは男の子が来るのを待っていた。
13時30分をすぎている。13時40分になった。
男の子が走ってきた。
「あ。待ってくれ…おいて行かないでくれ…」
タクヤはただ、立って待っていただけなんだけどあせって、男の子が来た。
男の子の恰好は黄色っぽいパーカーときつね耳。そしてきつねしっぽをお尻に付けた格好だ。
きつねがいると言ったので、仲良くなりたいんだろう。きつねっ子の恰好で来た。
「もう。遅いなあ。おいて行くぞ…」
「ごめん。いろいろ準備があって…」
男の子はリュックを抱えている。
「親御さんはいいって言ってくれた?」タクヤはタクミに聞いた。
「うん。大学の有名な教授がやっているんだったらいいって… お泊りなんだろ?」
「そうだね…きっとびっくりするよ…」
「ふーん」
☆☆☆
大学に到着してから、中の施設を案内して見せる。
宇宙へ送信する電波の設備や望遠鏡。
プラネタリウムの施設など…
タクヤは言った「ここから先に行くところは企業秘密だから目隠しをしてくれるかな?」
「なあ。僕以外には参加者はいないの? 怪しくない?」
「大丈夫だって…もうちょっとでもう一人来るから…」
あたりを見ると、女の人がこっちに来た。
「あ。いたいた。あたしも…」
エリカだ。
タクヤはタクミに目隠しをつけて、エリカにタクミの手をひいてもらう。
女の人をみつけて警戒を少しといた男の子。
建物から出て裏へとまわる。
そしてゆっくり中へと入る。
「もう目隠しをとっていいぞ…」タクヤはタクミに言う。
タクミは目隠しをとる。
「まぶしい。目が見えないよ…」タクミは目をまばたきしている。
だんだん見えてきたようだ。
「ほら…あそこに…」タクヤはタクミに言う。
「ん? まだぼんやりしているんだけど…なんか僕と同じ格好をしている子がいるなぁ。
さては…けもの耳が好きな子か? 僕と一緒にきつね耳を頭につけて…しっぽも付けているのか?
なあ。おい…」
タクミはゆっくり歩いて行く。
「くふっ。かわいいね。その耳…」ヌルファは言う。
ヌルファの耳がぴくっと動く。
テレビ放送に出て、謎の踊りをしていた男の子を見てうれしくなる。
ヌルファのきつねしっぽがゆっくり左右に動く。
「なんだ。そのしっぽ動くのか。そして耳も…なあ。それどこに売っているんだ。僕もほし…?
ん?
ん?????
も。も.し.か.して…ほんもの???」
おそるおそるヌルファの耳にさわろうとするタクミ。
「こんにちは。初めまして。僕はヌルファ…こっちはルリ…」
横から出てきたルリ。
タクミはルリを見た。
「はがぁ… ミ.ミミ…そしてネコしっぽ…」
タクミはルリの横へと歩いて行く。
そして片手を出す。
ルリは、しっぽをタクミの手の平に乗せる。
手の平に乗せてぽんぽんと手の平をたたく。
「このしっぽは本物よ…」ルリは言う。
「なあ。僕はまぼろしを見ているのか? VRの中か? それともあやかしに化かされているのか?
それとも宇宙人?」
さわさわと、ルリのしっぽをさわり、ルリのネコミミをちょんちょんつっついているタクミ。
「宇宙人かな…あたしから見ると、あなたが宇宙人なんだけど…」
タクミの背後からヌルファが近づく。
タクミの股間の間から、ヌルファがしっぽを出す。
そしてタクミの上半身にヌルファのしっぽをくっつける。
タクミは自分の股間の下から生えてきた本物のきつねのようなしっぽをさわる。
ふかふかする。
「これやべぇ…ふかふかだ… そしてあったかい…」
タクミはゆっくり後ろへと下がる。
「そんなにびっくりした?」ヌルファは言う。
タクミはまだ後ろ歩きに下がる。
タクミは後ろにあったコンソールに手をついた。
後ろに手をついて1番目のボタンを押した。
警報が鳴った。
「この星系は危険なものと判断されました。クルーによりボタンが押されたため、脱出プログラムを起動します。カウント5で発進。カウント10でこの星系から出ます」
「は?」タクヤは言った。
タクミはケモノ子と会ったことに気をとられて聞いてないようだ。
「なんで作動するの?」ヌルファはルリを見た。
カウント5。
ぐーん。と動いた。
「あの。おい…」タクヤは窓を見た。
窓からは、映画やテレビ映像で見たことがある景色が見えた。
真っ暗の中に、青くて白いものが浮かんでいる。
地球。衛星軌道上。地球が丸いのがわかる。
そしてカウント10。
いっきに、地球が見えなくなり、土星の姿が見えたと思ったらそれも消えた。
そして… 星空の点々の星が線の形に伸びて…
かなりの速度で移動し始めたのがわかった。
「これ…太陽系を出た?」タクヤは言った。