けもの耳っ子のひそかな来訪
「なんでこの世にけもの耳っ子がいないんだぁー。異星人でもいいから来てくれぇ」と僕はさけんだ。
ここは駅前の広場で今は夕方。
30分ほど前。平日にオンエアされている夕方のテレビ番組のスタッフがカメラをセッティングしていた。今はカメラがまわっている。
町を行きかう人や、主婦など。ターゲットを決めて、簡単なクイズを出す。
正解すると、1万円以内の景品がもらえる。
僕はさけぶ前に、明日の天気をアナウンサーがカメラへ向かってしゃべっているのをじっと見ていた。
それが終わったとき、叫ぶのが僕の日課だった。
はじめは、迷惑そうにしていたスタッフたちだったが、今は止める人もいない。
僕は、夏の間。けもの耳のアニメキャラをプリントしたTシャツを着ている。
そのまま、ころあいを見てさけぶのだ。
何か変化がないかと。けもの耳っ子がこの世に現れないかと期待しながら…
今は西暦2020年。
☆☆☆
「ああ。またやっているなぁ…」
夕方。大学の構内。
俺はタクヤ。
講義が終わったあと、研究室でテレビを眺めていた。
いつも。『なんでこの世にけもの耳っ子がいないんだぁー。異星人でもいいから来てくれぇ』とさけんでいる子を見て、俺はクラスメイトに言った。
「ねえ。頭にけもののような耳をつけてて、動物のような尻尾がある人型の宇宙人っている?」クラスメイトの女の人に、素朴な疑問をぶつけた。
クラスメイトの女の人は…
「さあね。どこかにいるんじゃない? 宇宙は広いし… コンタクトしてみれば? 設備はあるし…」
と返答が帰ってきた。
「そうだな… それにしてみるかな…」
僕は研究課題を決めようとしていた。
所属しているのは天文関係。
講義を受講している教授の中に、異星人とのコンタクトをテーマとしている講義をしている教授がいる。俺はその講義を受けている。
今日の講義で確率の問題により、かなり可能性は低いということを教わって少しがっかりしたところだった。
そうだ。じゃあ。やってみるか…
俺は考えた。設備は使っていいと言われたし…
強力な電波を発進できる設備や、音波、光を使った通信など… 宇宙へ向けて発信できる設備がそろっている。
設備を使いたいという申請を出してから、大学院の学生に言えば使わせてもらえる。
じゃあどうするかな…と俺は考えた。
言語や思考は違うかもしれないし…
それに今から電波を配信しても、目的の惑星へと届くのはずっと先だろう…
☆☆☆
3か月が過ぎたころ。
タクヤは初回のメッセージを送信した。
内容は2進数(オン・オフを一けたとして数字の2は桁があがり10となる数字)を元に、直角三角形の定理を示す点滅を繰り返し送信したのだった。底辺の2乗+高さの2乗は斜辺の2乗になるという…
長さが3、高さが4、斜辺が5。という意味の信号を2進数にしてから送信した。
しばらくその信号を送信しつづけた。
☆☆☆
とある星系。
外からの信号を観測している学生がいた。
「ねえ。M型の救難信号っぽいものを受け取ったんだけど…」男の子が言った。
そばでベンチに座って本を読んでいた女の子は頭を上げた。
「M型? ずいぶん古いわね。ここしばらく使われてないんじゃなかった?」
本を閉じて、男の子に言う。
「うん。そうなんだけど… 信号が回り道をして今やっと届いたのかも…」
信号を受けたのは3回だけだった。
それっきりM型の信号は受信しなかった。
☆☆☆
タクヤは、テレビで夕方やっているいつもの番組を見ていた。
『なんでこの世にけもの耳っ子がいないんだぁー。異星人でもいいから来てくれぇ』
と言っている男の子の映像。
これにするか。
タクヤは番組を録画していたので、音声だけぬきとって、『なんで…』から『来てくれぇ』まで音データを点滅のデータに変換した。
そして同時に人の声を電波に変換して送信した。サンプリング周波数は8192にした(1秒間に8192回の間隔で音声をデジタルデータにする方式)。
☆☆☆
とある星系。
「ぶっ」男の子はふいた。
そして笑い転げた。
「なんなの?」女の子は男の子の頭がおかしくなったのかと思った。
「これ聞いてよ… 前にM型の救難信号が来た方角を調べていたんだけど…光のパターンを音データに変換してみたらね…」と言い、音声に変換した信号を女の子に聞かせる。
「ぶっ」
「はははっ。傑作だろ…」
2人。音声を聞いてわらいころげた。
☆☆☆
タクヤは、太陽系近辺のめずらしい天体の位置を調べたので、その天体の位置を示す座標を宇宙へ向かって送信した。
ブラックホール。中性子星。巨大な赤色巨星。それぞれの太陽系からの距離を調べ、それぞれの距離の比率を示す数字を2進数に変換して送信した。
送信方向は水平線を決めて、17度ずつ角度を変えて送信。そして…水平線の角度を2度変化させて送ることを繰り返した。
データ送信が終わった後に、例の「なんでこの世にけもの耳がいないんだぁー。異星人でもいいから来てくれぇ」とさけんでいるテレビから抜粋した5分間の映像をおまけにつけた。映像は縦8192x横8192のサイズの画像を50フレーム/秒で宇宙へ送った。
☆☆☆
この世にけもの耳がいないんだぁとさけんでいる男の子の家。
けもの耳のポスターがそこら中に貼ってある。
「そういえば、さけぶ内容を変更するかな? きっともっと目立つのがいいかな…」
男の子は考えた。
男の子は近くの雑貨屋へと出かけた。
そして夕方。
ネコミミの娘のアニメがプリントされているTシャツを着て、両手に巨大なねこじゃらし(手作り)を持って、なぞの踊りをした。男の子はおしりに黒くて細い猫のような手作りのしっぽをつけて踊っていた。
「けもの耳。けもの耳。ネコミミっ子。ほらほら。ねこじゃらしで遊んであげるよ…」と謎の踊りをしながらさけぶ。
☆☆☆
ぶっ。
タクヤはふいた。
いつもの夕方の番組を見てたら、いつもの男の子がなぞの踊りをしながら、巨大ねこじゃらしを持って踊っている。
タクヤはその映像をデータに変換して、その夜のうちに宇宙へと送った。
開始の信号は相変わらず直角三角形の定理を示す点滅をつけている。
これで知性のある生命からの信号だとわかると思うんだけど…とタクヤは思いながら空を見上げる。
☆☆☆
とある星系。
男の子は女の子を呼び出した。
「ねえ。これ何かわかる? なんか棒みたいなものを持って踊っている人に見えるんだけど…」
女の子は男の子に言った。
「なんなのかしらね… 実に興味深いわね… この踊り。そして棒の動き… なんかそそるわね…」
女の子はじっと不鮮明な映像を見ている。
「そうなの? 僕はそうでもないんだけど…」
☆☆☆
けもの耳が来るのを望んでいる男の子。
「そういえばネコミミだけじゃだめだよな。わんこの娘やきつね耳っ子、アライグマや、オオカミ娘なんかも呼ばないとな… じゃあどうしようかな…」
男の子はまた、夕方の時間まで時間があったので、雑貨屋へと足を運んだ。
男の子は、わんこ娘のアニメキャラがプリントされているTシャツを着て、巨大な骨に見立てた2本の棒を両手に持って、なぞの踊りをした。
「けもの耳。けもの耳。わんこの娘よここへおいで。巨大な骨を両手に持ってお誘いするよ… 僕のところに来たら一生一緒に暮らそう… 頭やお腹をなでてあげるよ… 巨大な骨もあるよ…」
と謎の踊りをした。
☆☆☆
タクヤはまた新しいバージョンの映像を見てから宇宙へと送った。
「しっかし面白いな…そんなにけもの耳が好きなのか… 俺だったら恥ずか死ぬぞ…」
と言いながらもう一度映像を見るタクヤ。
☆☆☆
「きつね。きつね耳。けもの耳のきつね。ふっかふかの尻尾の子。地球へおいで… 僕がしっぽをなでてあげるからね…ほいさっさ。油揚げもあるよ…」
また。男の子が別のなぞの踊りをしていた。男の子はお尻にふっかふかのお手製のきつねしっぽをつけて、頭にでっかいきつね耳をつけてた。
タクヤは映像を見て「飽きないなぁ」と言いながら、今夜送信するデータの準備をしはじめた。
☆☆☆
とある星系。
男の子は女の子をまた呼び出した。
「ねえ。この姿と形。僕に似てない? 太いしっぽもあるし… あたまに耳もあるよ…」
女の子は「確かに似ているかも… あたしのしっぽは細いのよね…」
男の子は映像の前にも規則的な信号パターンがあるのを見つけて解析をしだした。
☆☆☆
夜の23時。電話が鳴った。
大学の先輩からだった。
「なあ。さっき。変わったパターンの光信号を受信したんだけど… 明日。朝一で研究室へ来てくれないかな? 授業はなかったよな?」先輩は言った。
「ん。いいよ。明日は朝一の講義はなくて午後からだから… 行くよ… どうもありがとうございます」とタクヤは先輩からの連絡を聞いて、うきうきした。
☆☆☆
「このパターンなんだけど…見覚えある?」先輩に聞かれた。
「これは…」繰り返し8回現れるパターンを聞いてから、過去の資料を探す。
えーと。どこだっけ?
紙にプリントしてパターンは出しておいたんだけど…
僕は古びたバインダーを手にとる。
ぱらぱらとめくる。
あ。あった。このパターン。
初期のころ。銀河系の中心に向かって出したやつだ。
「これかな?」僕はパターンを記載した紙を見せる。
先輩は画面を見ている。
「うん。これっぽい。でも最後のパターンに信号が追加になっているよ…」
「ん? どれどれ?」俺は信号のパターンを見た。
意味はわからない。
☆☆☆
その夜の23時に電話が鳴った日から20日がすぎたころ…
夜20時。
こんこんとノックをする音。
夜に研究室へ訪ねてくる見慣れない子2人。
深々と帽子をかぶっている。そしてそんなに外は寒くないのにパーカーを着ている。年齢は僕より若いぐらい。
1人目は男の人? 2人目はちょっと小柄で体の線をみると、女の子に思う。
「なんですか?」俺は訪ねてきた人に聞いた。
「これは知ってます?」訪ねてきた人は、見たことがないデバイスをポケットから出して、ぽん。ぽん。という音を鳴らした。音のパターンはどこかで聞いたことがあるものだった。
繰り返し8回現れるパターンの音だった。
「じゃあ。入ってきてくれる? 俺しかいないんだけど…」
帽子をかぶっている男の人と女の人は、部屋に入ってきて、上着を脱いでから近くのソファへ座った。
「もう一度聞かせてくれるかな。さっきの音…」僕は訪ねてきた人に言った。
ソファに座った人に温かい飲み物が入ったマグカップを出しながら聞いた。
「あ。はい… これです…」男の人は緊張してるようだ。
おそるおそると言った感じでデバイスを差し出す。
デバイスは見たことがないものだ。
そのデバイスから発信される音のパターンを聞いてから…
「ひょっとして…」僕はパソコンの前まで歩いて行って、ファイルを探し出した。
再生ボタンを押す。
うん。これかな…
きっとこの施設から送信している音データだ。
誰かがこれを聞いて録音したのかな?
でもなんでこんな音に興味を持ったんだろう?
俺は2人を見る。ソファに座っていて、上着も脱いでいるが帽子はつけたまま。
2人のお尻を見た。後ろにふかふかしたものが見え隠れしたように見える。
気のせいかな?
「実はこれを見ていただきたいのですが…」と男の子は言うと、女の子もソファから立ち上がった。
男の子と女の子は帽子をとった。
「へっ?」僕は2度みてしまった。
男の子の頭にはきつね耳。
女の子の頭にはネコミミがあった。
お尻を見ると、きつねのような太い尻尾。猫のような細いしっぽがお尻の後ろから生えているのが見えた。
くねくねと尻尾が動いている。
「ところでこの映像も見覚えがありますか?」男の子はデバイスを操作してホログラムディスプレイに映像を表示させた。
くねくね体を躍らせながら妙な踊りをしている『なんでけもの耳がいないんだぁ』と叫んでいる男の子の映像だった。
「いるじゃん」俺は言った。




