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ファストフード店の窓

作者: MIRU

   ファストフード店の窓

              MIRU

 

 私は、高校一年生、三学期の期末考査のために、某ファストフード店で勉強していた。最初はしっかり勉強をやるつもりだったのだが、いざ来てみると意外と集中できない。周

りの騒音、視界に入る多くの顔。座っている席も、円周上に一人用の椅子が並べて置かれて置かれ、背中側が通路になっているものなので、座っていると人に見られている気がしてならない。

 すると、視界に二つ、ポツンとまるで離島であるかのような対面式の机が入った。

 私は迷わず、他の人にとられないように急いで荷物をまとめて席へ向かった。離島へは思いのほか一瞬で着いた。しかし、そこまで行ってみて初めて気づかされた。私の視覚的距離感というものが狂っていたのか、もともと見えていた、そこに座っていた女性の存在感が、とても大きいのである。並んだ二つの対面式の机の、窓から反対側のほうに、通路に背を向けて座っていたその女性は、別に体格が大きいわけでもないのに。しかしよく考えれば、その方からすれば、私は、なぜ今更わざわざ移動してきたのかわからない、迷惑な客に見えただろう。しかし私はそれでも、窓側の席に座った。荷物を反対側の椅子に置き、一息つく。

周りの様子が目に入ってきた。離島は、意外に狭く、互いに目だけ動かせれば、何をしているのかしっかりわかってしまうくらいのものだった。ここまで狭いとは考えていなかった。盲点だ。しかし元の席に戻るわけにもいかないので、とりあえず勉強道具を机に出して、それらしい雰囲気を醸し出してみた。これで隣の女性からも嫌に思われることはないだろうと考えての行動だ。しかし、特に深い根拠はない。何となくだ。

隣の女性の視線がまた気になってしまうかもしれないと、私は恐れたが、どうやらその女性は、本を読んでいるようだった。安心した。彼女の目はこちらではなく、本に向いている。私はもうしばらくその女性を見ていた。女性はどうやら大学生なのか、ワンピースに身を包み、眼鏡をかけ、若かった。何かの資格だろうか、学校の、数学やら英語やらといった教科には見えないものの教科書を机に広げ、彼女は勉強していた。さらに文庫本片手に勉強するなんて、いったいこの女性、何を思っているのだろう、と、私は考えた。そこまで思って、私は彼女から目を外し、机の上のものを見て、現実逃避をまもなく決断した。向かい側の椅子に座っているかばんの中からノートを引っ張り出して、いちばん最後のページをできるだけ丁寧にちぎりとった。この紙に、新しい小説のアイデアを書こう、と私は考えたのだ。そしてその紙を、今まで机の上を独占していた者たちをきれいに机にてとんとんたたき恥を合わせて恥に置きなおし、置いた。

最近は小説を書くのにおはまっている。まだ完成におこぎつけたものはたったの2作で、しかもまったくの出来損ないだった。最後の一つを書き上げてから、次のものを完成させようとしても、どうしても途中で飽きてしまう。だから、ここは一つ短編を書いてみよう、と私は考えていた。

何かいいアイデアはないかと、周りを見てみた。どうでもいいものしか、視界には入ってこない。談笑する高校生カップル、男子校の私にとっては敵だ。それに本当にそれで全員楽しめているのかと思うほど人数のある女子高生グループ、本当にうるさいし、なぜかわいくならない化粧をするのだろう、と私は彼ら彼女らの考えを真っ向から否定する。どうせ自分よりも子供なのだ。未熟で無駄なことを考えているのだろう。私はそこまで思うとむしゃくしゃして、席のすぐ隣の窓に目を流した。

その窓の中の、外の世界は、夜だった。さっきまで明るかったのに、もう夜か。それでも少し、街灯の明かりで暗さが軽減されていた。窓から見える景色は、長い道の一部だ。街の人の、長い一日を切り取ったような、小さな一部だ。景色の中に、街の人たちがよく見える。スーツに身を包んだ若い男性、歩くスピードが速い。そんなに急いで、何かあるのだろうか。冬用のコートとひざ丈のスカートを身にまとっている、きれいな女性。デートだったのか、仕事だったのか、見た感じ若いから仕事っぽさはないな。そこまで考えて、私はすでに時間が待ち合わせの時刻に差し迫っていることを知り、店を出た。

外は相変わらずの明るさだった。街の人たちは、さっきよりも近いところを歩いていて、もっとよく様子が見えた。でも、なんだかさっきよりもよく見えない気がした。すれ違いざまに見える、その人の様子は、わからない。その人は今日、何をしてきたのだろう。この人は、その人は。ああ、角を曲がれば笑顔で男女のグループが会話をしているのが見えた。

どうやって知り合ったのだろう。しかし私には、知る由もない。知る必要もない。もしも、すれ違った人物の一日がよくわかる能力を持った人間を書いてみたら、それはどんな作品になるのだろう、と、面白そうな案が出た。私は、繁華街の中を歩きながら考える。きっと、昔に自分がテレビの中のあのヒーローにあこがれたように、今の自分も、その能力を持った主人公にあこがれるだろう。待ち合わせの場所である飲食店についた。私は扉を開け、中にいた先客にあいさつをする。そこで思考が、中断され、私の心の中の、あのどこか特別な気分は、閉幕した。


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