尊敬って文字は今日身に着けましてよ
「いいよ。もちろん。助けてくれたあんたへの恩返しにもなるし。」
エドは即決だった。
「その、でもいいの?エドは今将来を決められちゃうんだよ?しかも真っ当じゃない、よ?」
「いいんだ。あいつらが助かるなら、なんでもする。」
強い意志だった。
ずっとこうやって仲間たちを助けていたんだね。立派だぁ、すごいよエド!
でも……。
「後悔、しない?」
影は生半可じゃなれない。国を陰から支えるというのは、伊達ではないのだ。
わたしが想像するより遥かに辛く、険しい道となるのは目に見えている。
「しない。おれが、自分でそう決めたんだから。」
強いなぁ、すごいよ、13歳なんてまだまだ子供なのに、背負っているものがあるとそんなに強くなれるの?
その優しさと強さがあれば、もっと違う道もあっただろうに。わたしがもっと力があれば、選ばせてあげられたのかなぁ。父様の条件なんて突っぱねられたのかなぁ。なんてしがないことをぼんやりと考えてしまう。
ふるふると頭を振り、切り替える。エドの手を勢いよく、掴む。
「わたし!エドのその優しさと、強さを心から尊敬するわ!きっとあなたが進む道は辛く険しいものでしょうけど、仲間のために自らその道を選び、後悔しないと言ったエドはかっこいいと思う。」
エドはあまりのわたしの剣幕に押されたのか、やや体を後ろに傾ける。
「あなたは立派だわ。その心と行動に、わたし、敬意を表するわ!」
影の仕事は、表立ってできないものばかりだ。
嫌なことも、多かろう。
もしかしたら、誰かを傷つけたりすることもあるだろう。
そんな自分を嫌になるときが来るかもしれない。
それでも、あなたの心を尊敬している人がいるというのを知っておいてほしい。
選ぶことすらできない、仲間を人質に取られたような状況の中でも、自分で選んだといえる強さを。
それがどれだけ誇り高いことか。
まっすぐエドを見つめていると、急に顔が真っ赤に染まっていく。
「まぁ、大変!熱がまたぶり返してきたのかしら。孤児の子たちの件もあるし、すぐにキリスに伝えてくるわ。リリア、ごめんなさい、エドをよろしくね。」
バタバタと令嬢らしからぬ足音で部屋を出て行くのを、エドとリリアはぽかんと見つめていた。
「……そん、けい?尊敬?おれ、を?孤児の、おれを?」
「……尊敬なんて、言葉、エルリアお嬢様の辞書に、あったなんて……。」
リリアは仕えるお嬢様に対する言葉とは思えない辛辣な言葉を吐くが、あまりの驚きであったためについ本音をもらしていた。
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結果。
孤児たちはみな命に別状はなく、お父様の計らいで中央にある修道院に併設された孤児院に移されることになった。よかった!
上から話を押し通したらしい。すごい、お父様!ナイス権力!
そしてエドはしばらく療養したあと、言われていたように、影となるべく引き取られていった。
子どもたちとのお別れのときには、泣いていた。ごめんね、わたしの力がないばかりに。
別れ際に、ありがとう、おれ、エルリア様にまたすぐに会えるよう頑張るから、と強く手を握られて言われた。
うん。わたしもまた、会えるの楽しみだよ!
エドの手はキリスの手刀により叩き落とされ、すごい痛そうにしていたけど。お嬢様にそう気軽に触れるものではありません、て。そりゃそうか。ごめんね、エド。
さて。エドの件は、あとは日々勉強を頑張るだけだね。
なんて呑気に考えていた昨日までのわたし!
罪はないが、殴らせてほしい。
目の前にいるのは、二度も永遠のお別れをしたはずのクリストファー殿下。
なんで???
こちらではエドは倒れているところを拾われますが、ゲームではエルリアが無理に連れて行きます。翌日に教会で熱で朦朧としながら孤児院の仲間たちを助けを求めている可愛いエドを見て、『困ってる子を助けたら、父様も良い子だって褒めてくださるわ!それに、あの子だってきっと、孤児院を抜けれるんだもの、死ぬほど感謝するわ!』と思いつき、エドを連れて行くよう命令。その間に孤児院では……。エドは仲間たちを助けられず、そして勝手に自分の人生を決め捻じ曲げられ、それをさも善行を施してやったわ!と偉そうなエルリアを憎んでいます。