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令嬢の嗜みとして

話が進まずに申し訳ありません!

 




 ぐぐっぐぎゅごぅぅぅぅぅごごごごぅぅ……ごぅっ?







 お腹がなってしまった。

 最後の音だけ上がり調子で可愛い(?)お腹の音が自慢の()悪役令嬢(多分きっと)エルリア=ウィスタンブルです。


 お腹が空いたなぁ。

 やっぱりお昼がフランスパン一個ではちょっと足りないな。



「な、なんだこの化け物が地獄の底で駆けずり回り最後に獲物を見つけたような音は!?」


 ヒュー先生が辺りを見回して狼狽える。ちょっと腰も引けている。

 腹の音くらいでそこまで弱腰になるなんて、情けないぞヒュー先生。

 そして誰が化け物だ!


「はい、カタールのお腹の音です。」


 勢いよく手を挙げて、そう答えるのはお腹を空かした私。

 やはりご令嬢としては、お腹を鳴らすなんて不名誉なことはできないので、こういうときは他人に(なす)りつけるのが嗜みですよね。


「エルリア?」


 すごいいい笑顔でカタールに見られていますけどね。てへっと誤魔化してみる。


「ま、まぁいい。これにて今日は終わる。明日も、」


 ヒュー先生が言い終わる前に学生が席を立つ。ううーん、ヒュー先生早速、ちょっと舐められているようですよ。頑張れ!



 さぁて。

 ようやく放課後です!

 ルークに案内してもらって、今日こそヒロインちゃんと会わなければ!


 と拳を握って勢い込んでいたら、クリスとカタールに声をかけられた。



「エルリア」


「ああ、カタール先ほどはありがとう。」


 一応礼をしておく。


「いや、それはいいんだが、お前、昼休みなにしていた?」


 とカタールがきらきらさせながら爽やかな笑顔で言う。久しぶりにこのきらきらエフェクト見たなぁ。

 ご令嬢方からもきゃあ、と黄色い悲鳴があがる。

 うむうむ、かっこいいからね、うちの幼馴染は。と思っていたら、


 『ピーコンピーコン!

  注意報、注意報!

  カタールが怒っているようです!

  ご注意ください!

  繰り返します、カタールが怒っています!』


 頭の中でエルリア怒気探知機が作動した。おや?

 一歩下がろうとして、横からクリスに手首をつかまれた。


「ねぇ、君は私の婚約者という立場をまだわかっていないのかな?」


 きらきらきらきらきら。眩しすぎる!

 きゃああああ!と、ご令嬢たちから更に大きな悲鳴が上がる。

 わかる、レアなくらい、眩しい素敵な笑顔だものね!美形なクリスにこんな笑顔されたら倒れちゃうよね。

 おっと、本当に鼻血だして倒れている子がっ……!


 『ピコンピコンピコン!!

  警報、警報!

  クリスが怒っているようです!

  繰り返します、クリス激怒りのようです!

  危険ですのでご注意ください!』


 おっとー!?

 笑顔に反してけたたましい警報が頭の中に響いてくるぞ!?


 これはやばそう。

 父様に殺される前にここでやられてしまう。

 うむ、先手必勝、先に謝ろう。


「お昼休みは、ヒュー先生を謝罪させ泣かせて、ほっかむりして怪しく他のクラス覗いて、フランスパンをワイルドにかじってました。申し訳ありませんでした。」


 大人しく自分の悪行をばらしてぺこりと頭を下げると、周りがそんなことをしていたのか、とざわついた。


「そんなことまでしてたの、エルリア。」


 クリスが呆れるように言うが、その件で怒っていたわけではなさそうである。

 あれ、もしかして要らないことをしゃべった!?


「昼休みに、お前が他の男に抱きついていたって話があるんだが。」


 ええ?なにそれ!?

 カタールに言われて昼休みの行動を思い出してみるが、記憶がフランスパンに遮られてなかなか出てこない。ガーリックトーストにして食べたい……。





 ぐぐぐぅごごぐっぎゅぎゅぎゅごごごー……ごぅっ?





 おっと、またもやお腹が鳴ってしまった。


「もう、力抜けるからそのお腹の音はやめてよ、エルリア。」


 やめろと言われても、勝手になるんだもん。

 クリスの力が抜けて項垂れる。

 私はその手が緩んだ瞬間を見逃さずに、彼の親指と中指に手首を平行にして思いっきり引き抜く。


 手首をつかまれたら隙を見て逃げるのもご令嬢の嗜みでしてよ、ほほほほ!


「思い出しました!しゃがんでいたのを引っ張り上げていただいたときに、胸元に倒れこんでしまったやつです、それ。抱きついてなどいませんよ!」


「胸元に倒れこんだ!?こら、エルリア逃げるな!」


 ふふ、横から二人で挟み込みに来たのが失敗ですね、机で遮られた狭い通路を縦に走る。

 クリスとカタールは私が逃げた通路に飛び込もうとしてお見合いして躊躇し、更に横から抜けようとしても近づいて来ていたご令嬢たちに阻まれて中々追ってこられない。


 いきなり始まった寸劇と捕り物にクラスの中が騒然とするが、構わずに出口のドアまで走り抜ける。


「では皆様、ごきげんよう。」


 振り返り、カーテシーで挨拶して踵を返す。

 中からクリスとカタールの呼ぶ声が聞こえるが無視する。



 私には、ヒロインちゃんが待っているのだ!





 **********





 令嬢らしく走らない程度に急ぎ足で廊下を歩いていたら、ヒュー先生に注意された。


「こら、ウィスタンブル嬢、廊下を走るな!」


 と言われても止まらずに歩き続けると、横をヒュー先生が並走してきた。うむ、私は歩きだが向こうは明らか走っている。


「私は走っていませんよ、歩いています。むしろヒュー先生だけ走ってますよ?」


 そう答えると、先生は競歩のようになっている私の足元を見て驚愕の表情を浮かべる。


「え、令嬢ってそんな速度で歩けるのか!?」


「ええ、普通のご令嬢ならこれくらいの速足は嗜みでしてよ?」


「そ、そうなのか!?私の知っている中にそんなに早く歩いている令嬢は見たことなかったので、失礼した。令嬢の嗜みとは奥深いものだな。では、気をつけて帰れよ。」


 足を止めてヒュー先生は私を見送ってくれる。

 数メートルのことなのに、既に先生の息は上がっている。


 先生、私が言うことではないですが、走っていなければいいというものではないと思いますよ?危険かどうかの判断をすべきだと思いますよ?


 そんな言葉は今言ったら先生に捕まってしまいそうなので心にそっと仕舞いこむ。


「本当だ!おい、ウィスタンブル嬢!ちょっと止まれ、おい!」


 おっと!


「ごきげんよう、先生~!」


 後ろを見ると、ヒュー先生は追いかけようとしてすぐに止まり、膝に手をついて荒い呼吸を繰り返していた。

 運動不足ですよ。もっと体力つけろダメ教師。


「うるっさい、はぁはぁ。まぁ~あ~て~、ウィスタンブル嬢~!」


 おっと、銭〇のとっつぁん風ですね!


「あぁばよ、とっつぁん!」


「意味が分からない!」


 後ろにヒュー先生を見ながら廊下を進む。




 ぐごゅっごごご、ぐぎゅごごっ……ごぅっ?




 おっとまたしても。

 廊下に響き渡るその低い音に、そこにいた生徒が辺りを見回して


「おい、なにか化け物の鳴き声がするぞ!?」

「どこだ!?」

「やばいんじゃないのか!?」


 と慌てふためく。


 うむぅ。ヒロインちゃんに会う前にこんなお腹空いていて大丈夫かしら。

 腹が減っては戦はできぬというのに。


 とりあえず、淑女の嗜みとしては、


「これはヒュー先生のお腹の音ですわ。」


 と去り際に言ってみる。私が言ったとは気がつかれずに、皆は納得したように声を上げる。


「なるほど、ヒュー先生のお腹の音ですのね。確かお昼休みに、ウィスタンブル様に土下座させられていたと聞きましたし、お食事の時間がなかったのでしょうね。」

「それが先生に謝罪させただけでは飽き足らず、フランスパンで滅多打ちにしたらしいぞ。」

「やばいやつだな、ウィスタンブル令嬢は。凶悪犯じゃないか。」

「血まみれのフランスパン令嬢か……、ひどいな。」


 廊下がざわついて騒がしくなった。そして、なにやら藪蛇である。どうしたらそんな噂になるんだ!

 噂独り歩きしすぎだろうが!

 しかも噂が怖すぎるだろ!撤回したい!っていうか、ヒュー先生ケガしてないだろう!よく見ろ!

 と思ったら遠くで倒れていた。おっと。大丈夫かな、ヒュー先生。



 こほん。

 ま、まぁいい。

 とりあえず、ルークの元には無事行けそうだ。



 待ってろよ、ヒロインちゃん!






感想いただきました読者様のご意見を参考にさせて書かせていただきました。感想をいただきます皆様、本当いつもありがとうございます!

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