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ヒロインちゃんを探しにいこう!

 


 ふっ。

 オープニングにも呼ばれなかった悪役令嬢、エルリア=ウィスタンブルです。

 きっと私は悪役令嬢の任を解かれたので、呼ばれなかったのだと勝手に思っております。


 とはいえ、ヒロインちゃんがどう動くのか気になる。

 そこで!

 ヒロインちゃんを探しに行こうと思います!


 因みに、学力試験2位の子と覚えていたので、公式の名前がうろ覚えである。片っ端からクラスを覗くしかない!


「あ、エルリア……」


「ごめんクリス!用事があるの!」


 クリスに声をかけられるが、それより私はヒロインちゃんの方が今は大事なんだ。ごめんよ!

 昼休みになってすぐに教室を飛び出る。


「あ、ウィスタンブル嬢!」


 なんだ、ダメ教師のヒュー先生じゃないですか。


「どうしたんですか、ダメ教師。」


「……ダメ教師……」


 がっくりと肩を落とす。

 おっと、また口に出してしまっていた。

 どうも父様にくそ親父って言ってしまった後も父様と同年代の人には考えていることをしゃべってしまう癖が抜けないなぁ。夜会では気を付けているんだけど。


「どうしたんですか、ヒュー先生。」


 もう一度言い直す。


「ああ、いや。もう一度君にちゃんと謝りたかったんだ。ああー、なんというか情けないので詳細は言えないが、噂とちょっと他から回ってきた話に踊らされていた。本当にすまなかった!申し訳ありませんでした!」


 がばっと腰を90度以上に折って謝罪される。

 ねぇ、このダメ教師?ここがどこかわかっていて?天下の昼休みの廊下ぞ?


「おいおい、入学して数日で教師に謝罪させているぞ。」

「さすがの傾国の馬鹿令嬢、権力があるからってひどいな。」


 ってほらあ!またしても私が悪者にされているじゃないか!

 こんちくしょー!新手の嫌がらせかこのやろう!


ヒュー先生(だめきょうし)、これは喧嘩を売られていると思っても?」


 笑顔でそうダメ教師に告げると、白衣を着たヒュー先生は一歩二歩と後退る。


 私は面倒くさがりなので基本人から売られた喧嘩はあまり買わずにのらりくらりと過ごすようにしている。

 例えば、ご令嬢方からの嫌味はちょっとだけ上乗せしてお返しするだけに留めるし、飲み物をドレスに零されそうになっても敵対するご令嬢や子息にかかるようなタイミングで避けるようにしている。

 一度避けるのを失敗してギース義兄様にかかったときはどうしようかと思った。水を滴らせつつ、ちょっと怒ってドSな雰囲気を出すフェロモン全開の義兄様なんて、令嬢たちへの最終兵器かと思いましたよ。

 あの時以降、ギース義兄様ファンクラブの人数がうなぎ登りですよ!

 なんでそんなこと知っているって?

 ふふん。ファンクラブ用の写真を撮って、売っているのが私だからですよ!売り上げに応じてお給料が上がるのです!いいお小遣い稼ぎですわ!


 ……いやだって、もし私追放されたらお金ないんだもん。

 他の転生令嬢みたいにお金を稼ぐ知識なかったんだもん。

 なんで転生令嬢の皆さんそんなに知識あるの?シャンプーとかリンス作る知識って一般常識なの?携帯とかネットとか、電話の機械とか作れたらよかったけど、知らないもん。ベルさんの伝記は読んでいても電話の作り方なんて知らないよ?


 それはさておき。


 喧嘩を売られたら一番底値で買って高値になったときに売ることも必要なのだ。

 あ、でも、もし買っても微妙な値動きするような塩漬け喧嘩ならいらないです。


「いや、そんなことはない!本心で謝りたかっただけだ!」


 ほほぅ、つまりあんたはこの往来で教師が小娘に頭を下げてもなにも騒がれないと思う鳥頭だったと思ってもよいんだな?


「鳥頭……!いや、機会があれば一刻も早く謝りたかっただけで。」


 おっと、また心の声が出てましたか。心の中に控え目に仕舞っていたつもりが。


「心から反省している!これは他の教員も同じ気持ちだ!だから!だから頼む!殺すのはやめてもらえないだろうか!」


 もう一度ヒュー先生が頭を下げる。

 逆に言ってもいいだろうか。殺すつもりなんて、一切なかったんだが。


「ええーと、だめ……、ヒュー先生?」


「なんだね?」


「なにか殺されそうになったのですか?」


 かっと、ヒュー先生のやる気なさげの目が見開かれる。


「君が命令したのだろう!?」


 ええー、知らないよそんなの。

 あ、でも心当たりがあるかも。


「気が付くと背後からの視線と殺気、そして夜中に枕元に立つ影、そして朝起きるとベッドに置かれたイチイの花……!そしてこれは俺だけじゃない、他の二人もだ!」


 イチイはこちらではよく墓地に植えられるし、花言葉もそんな意味もあるし、まぁそりゃあガクブルだよね。


「大丈夫ですよ、きっとなにかのいたずらですよ。」


 さらっと誤魔化してみる。


「いたずらで家に不法侵入された挙句に死の宣告されてたまるかっ!!」


 ちっ、さすがにそっか、それならよかったよ、なんてことにはならないか。


「いやまぁ、でも今後はないですよ。大丈夫。保証します。そして先生方が反省されているのはわかってますし、正式に謝罪もいただいたのですから、もう気にされないでください。私も気にしてません。」


 その言葉に、ヒュー先生は一瞬沈黙した後で、どばーっと涙を流した。

 こわっ!大人の男の人が泣くのってなんかよく分からない破壊力がありますね!?


「いいやつだなぁ、君。」


 あれ、死の心配から解き放たれた(?)から大げさに感じているのか?

 でも吊り橋効果だろうがなんだろうが、私が良く見てもらえるのは嬉しい。

 そして昨日は碇ゲンド〇ですか?というくら丸眼鏡反射させて無表情強気キャラだったのに、あれはポーズだったのか?

 弱弱しいぞヒュー先生。


「よし、今後君になにかあれば相談に乗るぞ!いつでも来い!」


 そしてなんて現金なダメ教師だ。


「……ダメ教師の汚名を晴らせるよう頑張るよ。」


 あ、なんかこの人の前だと心の声が駄々洩れてしまう!危険だわ。


 じゃあ時間取って悪かったな、と言ってヒュー先生はその場を去っていく。

 しばらく廊下を歩いて人気がないことを確認して、


「エド、」


 と声をかける。


「なぁにー、エルリア。」


 さっとエドが姿を現す。本当にいつもどこにいるのでしょうね、すごいな影。


「なに、じゃないでしょう。さっきの心当たりあるわよね?」


「知らないよ?」


 首を傾げてにこっと笑う。いや、知っているだろう絶対!


「やめなさい。そしてせっかくの休む時間はそんないたずらに割かずにちゃんと体を休めなさい。体調崩しちゃうわよ。」


 きょとんとしてから、エドがはーいと行儀よく返事をする。

 ううーん、こうしていると本当に可愛い子なんだけどなぁ。あ、私より年上だった!体が小さくてショタ系だからつい可愛いと思ってしまう。



 よし、教室戻るか。って違う!

 私はヒロインちゃんを探しに行くんだったよ!と思ったが既に時間が足りない。

 お昼ご飯をフランスパン片手に持って男前に齧りつつなら全クラス回れるかもしれないが、私も所謂ご令嬢。

 ワイルドな評判をたたせるのはやぶさかではないが、さすがにそんなはしたない真似はしてはいけないだろう。

 父様に殺される。


 しょうがない、クラスまでの帰り道にあるとこだけ回ろう。





 ひょこ。


 そっと開け放たれた廊下側の窓からクラスを覗き込む。もちろん、あまり目立たぬようにこっそりとだ。変装用に手拭いをほっかむりしておく。


「ヒロインちゃんは、と……」


 ピンクブロンドのふわふわカール、桜色のぱちくりお目め。ううーん、今このクラスにはいなさそうかなぁ。


「誰を探しているんです?」


「ヒロインちゃんですわ。」


「ヒロインちゃん?」


「そう、ピンクブロンドのふわふわカール美少女で……ってうわっ!」


 びっくりした!


「なななな」


「怪しすぎますよ、ウィスタンブル様?」


「貴方!」


「お久しぶりですね、私のこと、覚えていただけています?」


「え、ええ、もちろん。グランベル皇国使者のルーク=エヴァン様、でしたわよね……?」


 あの、婚約披露のパーティーで踊った隣国の使者。


「よかった、覚えていてくださったんですね!」


 糸のような目が更に細められて笑う。

 ええー、なんでこんなとこにあんたいるの!?


「ところで、すごい目立ってますよ、ウィスタンブル様。ほら」


 そう、ルークは後ろの廊下を指さす。気が付くと、確かに人目を集めていたらしい。ひそひそとなにしてんだあの馬鹿令嬢は、とか、やばいぞあの傾国の馬鹿令嬢、とか声が聞こえてくる。


 あれ、目立っている上に私だってばれている!ほっかむり作戦失敗!


「あと先ほどのお探しの方ですが、もしかして、ピンクの瞳してます?」


 まさに!こくこくと頷く。


「ああ、じゃあ多分私わかりますよ。放課後、ご案内しましょうか?」


「ぜひ!」


 ルークの言葉に被せ気味で返事をする。


「あ、そうだ。私の名前、エルリアでいいですよ?」


 ウィスタンブルだとギース義兄様もいるしね。

 ルークはきょとんとした後で、


「では私もルークとお呼びください。どうぞよろしくお願いします、エルリア様。」


 と手を差し出してきた。

 ん?握手?

 手を差し出すと、そのまま引き上げられた。うわっ!

 どさっと、彼の腕の中に飛び込む形になる。きゃあ、と周りのご令嬢たちが黄色い声を上げる。


「ああ、すみません。思った以上に貴方が軽くて力加減を誤りました。」


 と言ったすぐに、彼の頭になにかがぶつかりルークが小さく声を上げた。


「いて。……小石?」


 私の手を放して、ルークは自分の頭にぶつかって落ちたその石を拾って呟く。


「これどこから……」


「あの、ではルーク様!放課後お願いいたします!」


 急いでその場を立ち去る。

 帰り際にそっと呟く。


「エド、だめよあんな方でも隣国からの使者様なのよ!?」


「だから小石にしたじゃない。ナイフじゃなかっただけましだと思うけど。」


 私の独り言に、エドが返事をしてくれる。

 そういう問題じゃないと思うんだけど。





 ヒロインちゃん、探しにいくはずだったのになぁ。

 結局、私はメイドのリリアがもし小腹が空いた時にはどうぞと持たせてくれたフランスパンをそのまま齧りつくことになり教室で奇特な目で見られた。

 リリア、小腹が空いた時はクッキーとか他にもあるのよ?

 あとフランスパンだけだと喉が渇くのよ?

 フランスパン本来の味わい深さは否定するものではないけれど、サンドイッチにするとか色々他の楽しみ方もあるのよ?知っていて?不器用だからサンドイッチは難しかったかしら。

 それともこれは貴方なりの嫌がらせなの?どうしたの?最近微妙な嫌がらせが多いわよ?

 いやでも、もしかしたら天然なのかもしれないし、判断がつかないから怒るに怒れない。今度ちょっと腹を割って話し合いすべきかしら。




 とりあえず、今日のあれこれが父様にばれませんように!!






Sのなり方がよく分からずに、とりあえずお嬢様が困りそうなことをしてみるメイドのリリア。Sと嫌がらせは違うんだよ?君にSは向かないことがよく分かった!そうそうに諦めるべきだよ、リリア!

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