他にいなければ
クリストファーとカタール側のお話。
「変なやつだったな。」
催促された僕とカタールは、お茶会に戻るべく歩いていた。
「あいつ、頭打ってから別人だったよな。」
カタールは続ける。
第一王子である僕にこれほど気安く話しかけることができるのは、両親と幼馴染のカタールくらいだろう。
「ああ、ねぇ。変わりすぎだよね。」
彼女は初めて僕を見た瞬間、顔を真っ赤にして目をキラキラさせた。ご令嬢に会うといつもされる表情。
しかし、並みのご令嬢なら、媚びを打ってきても腕をとってべたべたと触ってくるまではない。
しかし、エルリアは違った。
不敬だぞ、と忠告したカタールにさえ、『わたくしを誰だと思っているの!?』と怒鳴りつけた。とはいえ、一応侯爵家のご令嬢だ。こちらとしても強くは出られない。
お願いがあるなら考えてやる。
そう言ったとき、きっと彼女は僕に婚約を仄めかすと思っていた。それこそ、頭を打ったことを盾にしてでも。
考えたけれども、王家の都合もあって、君の願いは叶えられない。
そう、後日断ろうと思っていたのだ。
「まさか、絶対に選ぶなとはねぇ。」
「でも、あいつが一番の有力候補なんだろう?」
「そうだねぇ。侯爵家の中で僕と年が近いのは彼女だけだ。」
さてさて。なにを企んでいるのだろうか?
「まぁ、とりあえず彼女の言う通り、戻って素敵な出会いに期待しようか。」
だが、彼女が言った僕の未来とやらは甘い気持ちにさせた。そんな簡単なものではないとわかっていても、そんな素敵な自分になるのだと信じ切っている目。それならば、僕も信じて努力しようかと、思ってしまうような。
カタールも、紅の守護騎士と呼ばれたことに、ちょっとかっこいいよな、と笑っていた。
もし、彼女以外に面白いご令嬢がいなければ……、と少し考えてしまう。
カタールに厨二病が発症した!
そして、興味をひかれちゃいましたよ、エルリア!だから言ったじゃん、エルリア!