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おちた

 


『これ扱いすんな、このくそ親父!エルリア=ウィスタンブルと申します。どうぞよろしくお願いいたします。ギース義兄さま。』



 ドアを開けて入ってきた美しい娘に息をのんだ。

 そして、一言目の挨拶にもう一度、息をのんだ。


 鈴がなるような美しい声で、『くそ親父』?

 あれ、聞き間違い?

 じゃないね、このどうにもならない空気は。



 エルリアを見ると、青白いを通り越して、土気色をしていた。

 これは決死の顔だろうな。

 グラード様……いや、父様を見て、その後にドアを見て、更に僕の後ろの窓を睨みつけている。


 あ、これ、窓から外に逃げるつもりだな。と思ったら、エルリアが動いた。

 一瞬で僕の横をすり抜け、ソファを蹴りつけ、窓に向かって走っていく。

 僕も体は鍛えているので、ひょいとソファを飛び越え、エルリアが窓の外枠に足をかけた瞬間、彼女の細い腰に腕を回して捕まえる。

 途端、彼女から香る花の甘さに、ちょっとたじろいだ。

 くらり、と僕の中のなにかが彼女の香りに強く反応する。

 が、腕は離さないよう改めて腰に回した手に力を入れる。


 じたばた。


 しかし、本当に細いな、エルリア。

 折ってしまいそうで、心配になる。


 じたばた。


 エルリアは、何度も手足を振り回し逃げようとする。

 観念しないね、この子。


 何度試しても地面に降りられないことにようやく気がついたのか、そろそろと後ろを振り向き様に目が合った。



 エメラルドグリーンの混じった空色の瞳。

 僕と似てはいるが、もっと明るく、透明でまるで宝石のように美しい。

 シルクのように滑らかな髪が、僕の頬をかすめる。




 ああ、だめだ。



 これは、……おちた。





 高鳴る胸を抑えて、少し困ったように言う。


「……やんちゃな妹だね。エルリア。」



 捕まったと理解した時の悲壮な顔に、僕は顔が綻んだ。






 その後、結局挨拶以上の話はできず、彼女は何時間も父様から説教を受け、お仕置きとして正座なるものをさせられていた。

 その後に痺れる足を申し訳なさそうに家令のキリスが突いていたが、あれ絶対面白がっているよね。

 頬がひくついているものね。

 ちょっと僕も突きたかった、なんて、ね。ふふ。




 **********




 その後もエルリアを観察していたけど、面白すぎないか、あの子?


 勉強中はお淑やかにしているようだが、息抜きだと洗濯を干そうと失敗してメイドに叱られたり、芝生に転げまわって草だらけになりメイドに叱られたり、木に登ってはメイドに叱られたり、クルミを取ってきたからとクッキーを焼こうとしてオーブンを黒焦げにして料理長に怒られたり。

(ちなみにその後料理長にせがんでクッキーを焼いてもらって嬉しそうに食べていた。可愛い。)


 なんの政治的思惑があって、父様はエルリアを殿下の婚約者になんてしたのかと勘ぐっていたけど、これ単に親ばかな父様がより良い婚姻を求めてのことじゃないか?

 そして殿下が単純にエルリアを気に入ってのことじゃないか?


 あれ?

 あの我儘放題な高飛車なウィスタンブル侯爵家の悪魔の噂はどうなってるんだ?

 そんな令嬢、ここにはいないぞ?

 え?

 変わった?

 そんなに?

 使用人だって驚きを隠せないほど?

 側付きのメイドのリリアが言うに尊敬のその字もなかったって?

 ……お前、結構言うね?

 あ、いやいや、いいんだ。本当のことを知りたかっただけだから。ありがとう。

 これからもエルリアをお願いね。

 しかし、昔のエルリアの話を聞くと、確かに噂の彼女だが、ええ?そんなに変わるの?偽物じゃないの?

 あ、みんなそう思うけど、本物なんだね。そうかぁ。







 それはさておき。



 さて。殿下が恋敵になるとはいかがしたものか。

 恐れ多いかもしれないが、チャンスはあるかもしれない。


 兄様に相談したところ、悩んではいたが


「ううーん、本来ならば殿下の婚約者様に懸想するなんてあってはならないことだが……。まぁ、いいんじゃないか?自分の気持ちに素直になっても。どうなるかはわからんが、そう悪い方向には転ばないだろうさ。」


 と言われた。

 兄様の勘はあたるからね。しばらくは、このままいさせていただきますよ、殿下。


 目の前にエルリアを見つけて、声をかける。


「エルリア、図書室に案内してもらえないだろうか。」


 彼女は振り向くと、はにかんだ笑顔で僕の名を呼ぶ。


「あら、ギースお義兄さま。もちろんです。」


 可愛いエルリア。

 少しでも、君の気持が僕に向いてくれるといいのだけど。

 そう思って、その白魚のような手を取る。


 図書室の場所なんて既に知っているし、エスコートなんて必要ないのも知っているのだけど、ごめんね、年頃の男は、好きな子にいつでも触れたいのだよ。

 少し照れて頬を染め俯くエルリアに、心の中で謝った。








そんな感じでギースとの出会いは過ぎましたとさ。ギースさん一目惚れです。恋心を認めている分、お子様二人(クリストファー、カタール)より一歩リードです。そして、お前ベタベタと触ってきやがって!さては、お色気担当だな、お前!

ギースはバックに『兄様』がついてますからね。『兄様』最強説。ちなみに、兄様は転生者ではありません。兄様話も書きたい!

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