愛を、感じ……ます、わ?
エルリア、父様、そして初登場、遠方で療養中の母様の呟き。
「くそ親父、ね。エルリア」
あ、また声に出てましたか。また一から説教ですか。
お父様、お仕事は?あ、今日は久しぶりのお休みでしたの。
まぁ、わたくしの(説教の)ために一日を費やしてくださるなんて、わたくし愛を感じますわ!
そうそう。わたくし、最近、お父様に慣れてきましてよ。
怖いけれど、言いたいことは今後も言わせていただきますからね、このくs……いえ、なんでもございません。
朝昼晩の食事抜きは勘弁してください。わたくし、こう見えてもスタイルは保っておりますので、ダイエットは必要ございません。やめて、二日抜きとか本当……!
断食は成長期にはよろしくなくてよ!むしろお父様がなさいませ!近頃筋肉が落ちたのではなくて!?
すいません、すいません、ごめんなさい。
ふふ、ラスボスとの対決は11歳にはまだ早いですわね。
大人しく正座で二時間、頑張りますわ。
あれ?正座ってこの世界にありますの?
東の国のしつけ、ね。お父様は本当、色々ご存知ですこと。
と、正座で痺れた足をつつくのまでセットですの!?
キリス、お父様からの指示ね!?
ひどい!!いたい!やめて!!これは拷問でしてよ!?
(こんちくしょう!お父様め!絶対絶対!吠え面かかせて高笑って差し上げますからね!!!)
と今度こそ声に出さずに強く誓う、エルリアであった。
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ウィスタンブル侯爵家、唯一の娘を嫁に出すことを決めた。
ただバカなだけの娘なら、その姿形を愛してくれる辺境の、政治も、ましてや戦争など及ばぬ地に輿入れさせようと考えていた。
それが、娘のためだと。
だが、エルリアは変わった。
なぜか、王妃主催の時期王妃を決めるお茶会で殿下の目にとまっていた。
いい意味か、悪い意味かはわからんが。
王家からの依頼だ。断れまい。いや、断れるけどな。
とはいえ、他からの縁談にクリストファー殿下以上の物件はない。
権力だけではなく、人となりとして比べてしまうと、殿下は優秀だ。
まぁ、ウィスタンブル侯爵家は名門であり、更には娘であるエルリアは、悪評は広まってはいるものの、見目は麗しい。いくつか縁談の申し込みはあった。
表向き、素晴らしい縁談だと羨まし気に見られるが、しかし、だ。
我が家の、いや、我が国の『影』は優秀だ。それは他国ほど知っている。あの影を敵に回すべきではないと。
その影が調べた結果は、どいつもこいつもふざけているのか?と思うしかない。
借金まみれの伯爵家にとか、他国と手を結び我が国の滅亡を願う伯爵家にとか、ましてや愛人のいる男爵家になど、どいつも断絶されたいんだな、と微笑むしかない。
我が娘が嫁ぐ先として、絶対にありえないだろう。
というわけで、現時点での最適はクリストファー殿下しかおらん。
と判断し、エルリアに婚約を許した。そうして。
ダンスや作法一つとっても、我が国だけでなく他国の知識も、ひとつ漏れているだけで上げ足を取られる世界だ。
お前が傷つかないためには、お前を鍛えねばならなん。
多少、胸は痛むが……。
などと思っていたが。
『これ扱いすんな、このくそ親父!』
よし、胸を痛める必要などないようだ。
これからは、一切の遠慮なしに、お前に必要な知識を与えるとしよう、エルリア。
震えながらも、睨めつけてくる様はお前の母様に本当に瓜二つだ。
ああ、リルリア、我が妻よ。どうしてくれよう、我が娘を。
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この時、空気の良い辺境の地で療養していたエルリアの母、リルリアは背筋にぞくりと寒気を感じた。
リルリアは病で、エルリアが幼いころから離れて暮らしている。
エルリアは愛されていないと勘違いしているが、リルリアは遠い地で、エルリアをずっと想い暮らしている。
そして、今も。
「今の、絶対、あいつだわ。エルリア、がんばって父様から逃げるのよ……!ああ、近くにいたら、少しでも助けてあげられるのにっ!いつになったら治るのよ、わたくしの体は!!」
今の悪寒は、グラードがなにか面白いことを見つけた時のものだ、と昔からの経験で感じ取ったリルリアは、遠い地にいる愛娘のエルリアに心から同情し、エールを送っていた。
リルリアは、グラードに気に入られて頑張って逃げようとしたのですが、相手が悪かった。気がつけば外堀埋められ逃げ道1つしかなく、そこに飛び込んだところは罠でしたとさ☆愛が重いし黒いぞ、グラード!