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チョコ1個でついえましたの?

 



 所変わって王室の一画。

 エルリアはクリストファー殿下と向かい合ってお茶をしていた。


「クリストファー殿下、あの、お願いをきいてくれるのではなかったのですか?」


 第一声で文句を言う。


「ああ、ごめんね。エルリア嬢からのお願いはもちろん考えたのだけど、王家の都合ってものがあって、ね。止められなかったんだ。」


 キラキラとした似非笑顔ですっぱりと言い切る。

 絶対嘘だろ!お前!

 ああ、でもそうだ。お願いを“きいてやる”じゃなくて“考えてやる”って言ってたんだ!

 けど、絶対嫌われているから大丈夫と思ってたのに!


「カルタゴさまも!なんで殿下をお止めしてくださらなかったのですか?お茶会でわたくしの暴挙を事細かに申し上げれば、みな止めましたでしょうに!」


 後ろで控えていたカタールにも八つ当たりする。


「カルタゴ『さま』なんていいよ。カタールって呼べよ。」


「ではカタール!ちょっとこちらにいらっしゃい!わたくし、お二人に文句が山ほどございましてよ!ええ、今日今からでも婚約内定取り消ししたくなるよう、わたくしのひどさをご説明させていただきますわ。」


 カタールを空いた席を指さして座らせお茶を出してもらい、そのままわたしのひどさを力説する。



(※お茶会での不敬や日頃のエルリアの態度の悪さを熱く語っております。読み飛ばしていただいて支障はございません。)



「まずですね。先月のお茶会は表向きはどうであれ、クリストファー殿下と婚約者候補のお嬢様方との顔合わせの会だったのにも関わらず、侯爵家という権力を使って殿下から片時も離れずお嬢様方との出会いをつぶしたことも一つ。大体可愛らしいお嬢様方を睨みつけ怖がらせるなんて、女の風上にも置けませんわ。そしてクリストファー殿下のご機嫌も考えずにお体にべたべた触るなんて言語道断!迷惑も考えられないなんて人としてもあり得ませんわ。そして淑女としてはしたないです。嫁入り前の娘がなんてことを。親が見たら泣くような失態ですわ。さらには殿下のご側近であらせられるカタールに対しての暴言。『どっかに行って』ってむしろわたくしが『どっか行け』という感じですわよね。わかります。ひっこめ、エルリア!やっぱり、どれだけ考えても、ないです。ひきますわ。もしそんな方が殿下の婚約者に選ばれでもしたら、家の権力にものを言わせたとしか言われません。最低ですエルリア。わたくしも権力好きですけど、権力は下のものを助けるときに使うべきです。いえ、今までのわたくしが言えることではないですけど。確かに今までのわたくしは最低でした。だって聞いてくださいよ。わたくしったら、使用人たちを人とも思わないような待遇をしていたのですよ。ありえない。わたくしの機嫌に振り回され、辞めた方だっていらっしゃったわ。あああああ、反省しております。申し訳ございません。先日なんて、お菓子が気に入らないからって、床に落としたのよ?お菓子ですよ?もったいないでしょう?もったいないお化けがでますわ。さらに、床を掃除しないといけない手間もあるんですのよ。汚れが落としづらいチョコレートケーキでしたのに、翌日にはカーペットがピカピカになっておりました。素晴らしい技術ですわ、うちのメイド。しかしあれは今からでも土下座しに行くべきかしら。それに服なんて何着持っていますの?いらないでしょう?一度着た服は二度と着ない?バカですの?バカでしょう、わたくし。知ってましたわ。ええ。存じておりました。とりあえず、服は必要分以外即座に売って、先日知り合った孤児院の皆様におもちゃを寄付しましたけど、ないですわ。エルリアないわ~。殿下だっておいやでしょう。こんな女は。」



(※読み飛ばし部分終了。よろしければこちらからはお読みくださいませ。)



 あまりの力説に自分の世界に入ってしまっていたのか、ひとしきり文句を言い終わって顔を上げると、二人はくつろいだ調子でお茶を飲んでいた。


 おいこら、人のことは言えないけど、人の話はまじめに聞こうぜ。


「ああ、終わった?そうそう、今日は城下町で人気のパティスリーからチョコレートを取り寄せたんだ。ケーキも。疲れたでしょう?一休みしてはどう?喉も乾いたでしょう、紅茶をどうぞ。」


「まあ!それは並ばないと手に入らない、すぐに売り切れてしまう限定のスイーツじゃありませんか。いただいてもよろしいのですか?」


「ええ、お詫びです。どうぞ受け取ってください。」


 お詫び?と思ったが、目の前のキラキラ光る宝石なようなチョコレートから目が離せず、そわそわと一つ手に取って、口に入れる。


 うわわわわ、今まで食べたどのチョコレートよりおいしい!

 ナッツ?プラリネ?好きな味だわ~!


「美味しいです!殿下、ありがとうございます!」


「召し上がっていただけて良かったです。これは婚約のことを認めていただけたということですね。よかったです、貴方が納得してくれて。」


「えっ!?」


 口の中でとろけていたチョコレートの味が、一気にほろ苦くなる。


「お詫び、受けていただけたのでしょう?文句も言い終えて、貴方の願いに沿えなかったことのお詫びも受けていただけたのですから、もうこれで問題ないですね。」


 え?

 もしかしたらこのお茶会で婚約内定辞退できるかもって一縷の望みはもっていたのですけど、チョコ1個でついえましたの?

 え、これ自分で自分の首絞めました?


「エルリアって単純だな。殿下の妃なんてこれで務まるのか?」


 カタールが呆れたように口に出す。


「まぁまだ時間はあるし。僕が調きょ……いや、教えていけばいいしね。」


 今「調教」って言った!?言ったよね!?

 あれ?クリストファー殿下って腹黒でしたっけ?そんな設定ありました?

 ちょっとだけ意地悪な優しい微笑みの貴公子設定じゃなかったですか?


「い、いやで」


「エルリア。」


 いやです、と言い切る前にクリストファー殿下の声が被さった。


「これから、よろしくね。」


 獲物を見る目が、仄暗く光っていた。その目に耐えかねて隣のカタールを見ると、これまでの能天気な顔から冷めた目でエルリアを見ていた。怖い、二人とも怖い。

 途端に、理解した。これは絶対に逃げられないやつだ、と。


「よろしく、お願いいたします、クリストファー殿下。」


 無理矢理に笑顔を張り付け、震える声で答える。

 その瞬間、空気が和らいだのを感じた。


「ふふ、クリスでいいよ。お茶冷めてしまったね。温かいのをもらおうか。」


「ありがとうございます、クリスさま……。」


 わたしは、温かいお茶を飲んでも体が凍え、せっかくのチョコレートを食べても苦さしか感じない、なんとも言えないお茶会を過ごした。

 クリス殿下とカタールは、そんなわたしを見てなんとも楽しそうにお茶をいただいていたけどね!


 こんちくしょう!いつか見てろよ、クリス殿下、カタールめ!

 絶対に見返して、お前らを下にみて高笑ってやるからな!

 こちとら悪役令嬢なんだからな!






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