父様は一風変わった愛情表現をするらしい
エルリアが退出後、父・グラード=ウィスタンルブルは片頬をあげていた。
その顔はなにか悪だくみをしているとしか思えず、見るものに恐怖を与える表情だった。
傍に控えていた家令のキリスにも珍しいと思える顔である。
「おや、グラード様が笑顔を見せるなんて珍しいですね。」
あ、それ笑顔なんですね?不穏すぎますけど、笑顔なんですね!?
「あいつ、なにがあったんだ?俺たちの愛がほしいほしいと全身で喚くだけのガキだったのに、急に変わり始めた。」
「そう、ですね。一月前のお茶会から帰ってきてからですね。良い出会いでもあったのでしょうか。」
「あのバカなガキのままなら、どっかの辺境の次男坊にでも嫁がせるかと思っていたが。鼠の件で俺のもとを訪れた時にははっきりと俺の目を見て、立ち向かってきたからな。」
「おや、それはすごい。大人の貴族たちでさえすぐに目をそらされてしまいますのに、ね。貴方様はお顔が険しいですからねぇ。」
「今のあいつなら、少しは使えるだろう。」
「誤解されるような言い方をせず、素直に成長が嬉しいと仰ればよろしいのに。」
キリスがため息をつく。
「ふふ。あいつの母に似てきたな。敵わないと分かっていても、必要なら震えながら立ち向かってくる。」
グラードの目が獲物を狙った強者のそれに変わる。
グラードは、基本冷徹だ。だが、好意をむける相手をいたぶる……いや、嗜虐的な性癖……、いや、ええと、一風変わった愛情表現をすることがある。
今までそんな愛情表現を見たのは、奥様であられるリルリア様へのみだったのに、今はエルリア様にもそれが向けられているようだ、とキリスは考える。
こうなったときのグラード様は、やばい。
キリスはふっ、と息を吐く。
(エルリア様、大変ですけど、頑張ってください!)
遠い目をして心の中でエルリアにエールを送った。