はじまり
コンビニバイトなら、世界中に職があるし、明日やめても構わないし、仮に80歳まで生きていても、体が動く限りは仕事はある。
まして、ナイル1号支店勤務なら、10年働けば退職金で家が建つ。
10年分のバイト料は90%は残る。
タナカミナミはだった1分30秒で、乗ることにした。
ナマズストアの親会社は、ナイルリゾート開発だ。
ナイルリゾート開発は、確かに会社をスタートした時にはリゾート開発を手掛けていたけど、今は儲かりそうな匂いがすればなんでもやる。
いけ好かない連中に見張られながら、10年も同じ船に乗るのはまっぴらだ。
「なあ、ならなんでこの話しに乗ったんだよ」
ん?
タナカミナミはクルミを掘る手を止めた。
「なんの話し?」
同じ店から配属されたイワタニジムだ、コイツは優しい顔立ちで、色白の肌、うすいピンク色の唇で、店でも女子に間違えられる。
「だから、ナイルリゾートの奴らを嫌うなって、下請けのコンビニ店員が焼きもち妬いたって、みっともないだけだよ」
「あたしは何にも言ってない、クルミを食べてるだけだ」
ミナミは冷蔵庫に映る自分の顔を見つめた。
「だけど、さっきからあいつを睨み飛ばしてるじゃないか」
「はん? あのな、船に乗ってからメイクをしなくなっただろ、不細工だだなあって、自分を見てた。信じる?」
「ミナミはすごくカワイイよ、笑わないからシワもないしね」
笑わないんじゃなくて、笑えない。笑えるような人生を送っていない。
「ミナミ、オレたちはついてるんだ。一生働いたって、宇宙旅行になんか来るようなストーリーは人生のどこにもなかった」
「だからジムはダメなんだ。旅行なんかじゃない。コンビニ店員だ。異動先がナイル大陸店っだっけ?」
宇宙船に大陸ってつけたのは、リゾート開発会社の知恵か?
陸があるなら安心だと、お年寄りを納得させた。
床はあるが、陸なんかない。
一歩間違えれば、真空の闇じゃんか。
「確か生命保険にも加入しただろ?」
「ジム、まだあたしは話していない」
「ずっと不安そうな表情だからさ、まだ慣れいないのかと思ったんだ」
「生命保険じゃなくて、損害保険宇宙特約」
船に乗る前の日に、はじめてショートカットにして来た