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獅子のボタン

作者: 春川メイ


遠くに見える飛行船に追いつきたくて 手を伸ばす


小さな点を握った手を開いてみると 


その中には見覚えのないボタンがひとつ


威嚇する獅子の意匠 金色に鈍く光る


すり減った縁を指でなぞると 懐かしさが音もたてずにやってくる



雲の切れ間からさし込む太陽の光は


薄青の空を七色に染める


不透明な光を呑み込んだ大気は 一瞬ごとに輪郭を揺らめかせながら


浮かぶ船を運んでいく



飛行船を追って丘の上の草原に出たとき


手の中のボタンから光があふれ 雄々しい獅子が躍り出る


豊かなたてがみを風になびかせ 威厳に満ちた眼差しでこちらを見つめてくる


足元でざわざわと音がする 草が囁いている



――願いを   ――願え

  ――金のボタンだ   ――王者のボタンだ

――叶えるだろう   ――叶えられるだろう

  ――王者の獅子が願いを叶えるだろう



『遠くに見える あの飛行船に追いつきたい』



頭を垂れた獅子の背に跨り 身を低くしてしがみつく


獅子はおもむろに大地を蹴り 空を駆け上がっていく


風を切るごとに冷たい粒子が 光に当たって輝くのが見える


悠然と航行する 飛行船に向かって



間近で見た飛行船はとても巨大で 数多くの生き物たちをのせていた


見たことのある植物や動物 初めて見る不思議なもの 光にしか見えないものもある


乗客たちはみな自信に満ちた様子で 穏やかにくつろいでいた


この船を包むのは 調和したメロディー 絶対の安心



――ああ これは方舟なんだ ひとつの楽園が次のところへ 

   愛に満ち 安らぎに満ち 喜びに満ちている 



知らず 涙が頬を伝い落ちる


手の届かないノスタルジーか 確かに見た希望の光か


それとも 置いて行かれた子供のようなやるせなさか



気付くと元の草原に立っていた どこを探しても飛行船はもう見えなかった


美しい獅子ももういない


あの方舟はどこへ行くんだろうか


この目にみたのは その旅の途中



手の中に残った金色のボタン


果てしないそらを航行する あの船への鍵


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