手合わせ
「さて、まずはお前らの力がどれほどなのか知りたい。ある程度、あの王女様から聞いてはいるが俺は自分で見て、感じたものしか信じないタチなんでな」
城を出たところの草原地帯で、急にレイヴンはこう告げた。
「全員でいい。殺す気でかかって来い」
「な、舐めやがってぇー」
それは三下の台詞だ。
一番そばにいた男子が剣を抜き、一気に斬りかかる。
「ば、バカ。真剣は...」
マズいだろ。そう最後まで言うことはなかった。なぜなら、レイヴンは二本の指、人差し指と中指で綺麗に受け止めていた。
「だから、言ったろ?殺す気で全員でかかって来いと」
瞬時に判断出来たのは一人の女子。支援魔法で全体に向けてバフを掛け、攻撃力と防御力を上げる。
その支援魔法でその女子を除く五人が一斉に
攻撃に移る。
最初に男子の三人からの剣が、続いて女子と男子がこぶしで。
「力はあっても、連携はまだまだか...」
剣を受け止め、流し、躱す。
拳を迎え撃ち、受け止め投げる。
ここまでで三秒。
確実に勇者は強くなっている。しかし、レイヴンに言わせれば、まだまだということなのだろう。
しかし、勇者も負けては居られない。
役割を決める。三人が援護魔法で攻撃をしながら、二人が剣での近距離攻撃。あと一人が支援魔法を掛ける。
「殺す気で来ないと殺すぞ!」
凄まじい殺気が彼らを襲い掛かり、生半可な者では漏らしてしまいそうなほどだ。
その殺気に驚いたのか、目つきもようやく本気になる。
「殺してしまったらすみません」
「お前らの攻撃じゃどう頑張っても死なねぇよ」
今度の攻撃は先の攻撃よりとても実戦らしい。
剣の同時攻撃で両腕を使えなくし、魔法で追い討ちする。
「少しはマシになったがまだまだだな」
瞬時に剣を放し、力の抜けた勇者を蹴り飛ばし、手を離した剣でもう一人の勇者も峰打ちで殴り飛ばす。
しかし、魔法は止まることなくレイヴンへと襲い掛かるが奴は慌てない。
火、水、雷。三人がバラバラの属性の魔法で打ち消すことを困難にする。
飛んでくる魔法もタイムラグは存在する。とは言っても、0.2、3秒といったところではあるが....。
魔法を斬る。
レイヴンはそれを難なくやってのける。いや、どちらかというと、いなす。
火の魔法の中心をぶった切ったと思えば水の魔法を剣を使い、逸らし、雷の魔法は剣を地面に埋めることで避雷針がわりにする。
「こっちからもやるとするか。死ぬんじゃあねぇぞ?」
埋まった剣を引き抜き走る。気づくと、魔法の発動を間に合わせる前に奴は目の前にいる。
その拳は真っ直ぐに腹へと吸い込まれ、三人が戦闘不能。
「うおぉぉぉ」
「タメを作り過ぎだ」
振りかぶった剣が振り下ろされることはなく、戦闘不能。
「剛弓」
いつのまにか、弓を引き絞る勇者の戦闘組の最後の一人。
放たれた矢は、音速をも超える。
たった数センチ首を曲げただけでその矢は避けることができる。言うのは簡単だが、実際に実行するには相当の技術が必要となる。
そもそも顔に飛んでくるとも限らないし、音速を超えるということは動体視力の問題も出てくる。もちろん、見ない状態で回避できないことはない。
俺とかな。
今のは忘れてくれていいのだが、そんな解説を入れている間に弓の勇者(?)は倒され、支援魔法を掛けるはずだった勇者の目の前で怖い顔で立っている。
「結局、何にもできなかったな?」
厳しい口調についつい顔は俯くがレイヴンは遠慮せずにお腹に拳を入れる。
やがて、そこにはレイヴンだけが立って居た。
「んで、いるんだろうがよ。前回の勇者よ」
レイヴンは俺に向かって声を掛けてきた。
「相変わらず、お強い腕前で」
「やめろ、お前に言われても嫌味にしか聞こえない」
隠れていたとこから出て行くついでに軽口を混ぜると苦笑いしながら、レイヴンは返してくる。
「それで?今回は何だってんだ。お前が魔王をさっさと殺しちまえばいいんじゃねぇのかよ?」
「ごもっともな意見なんだがな....。悪いが今回は傍観者として過ごすって決めたんだ。それに魔王と約束しちまったからなぁ」
「破ったのはあっちだろうがよ」
「根拠は無いんだよ。俺が出れば確かに終わるだろうが、2回目は遠慮させてもらうことにしたよ」
「そうか...。それにしても、お前よりもこいつらは筋はいいな」
「よし、言いたいことはそれだけか?」
軽い冗談を交えながら談笑する。
「まぁ、お前さんがやらないっつうならそれはそうなんだろうよ...」
「悪いな。できればこいつらだけで倒してもらいたい」
倒された勇者がもぞもぞと身動きを始める。
「そろそろ、俺は元に戻る。悪いがこいつらを頼むぜ、レイヴンさんよ」
勇者が起きる前に俺は退散することにした。




