本当の始まり
その後、ダンジョンを出るまで会話はなかった。
皆が皆、俯き、唇を固く結び、見るだけで何かがあったことは容易に想像が出来る。
お陰でダンジョンから出ると兵士たちが心配そうに駆け寄ってくる。
チラッとみてみるが、一緒にダンジョンに潜った兵士は殆ど壊滅状態で生き残った人は少なそうだ。
あの忠告をしていた兵士はなんとか生きていて寝覚めが悪いことにはならなくて良かったと思う。
「ご無事ですか?勇者様、本当に申し訳ございませんでした。うちの兵士が命に代えても守るべきだったのに...。六人もの犠牲者を出してしまい、なんといったら良いか」
一人が思い切り、激怒し、殺してしまいそうな勢いで詰め寄っていくが、
「ま、待てよ。ここで怒っても、いいことなんて一つもない。冷静に、落ち着いて考えろ。俺たちが次に何をすればいいのか」
本当の意味のクラスの中心のやつは殺されたが、中心に近い奴らはまだ生きていて、いかにも主人公のようなことで必死にその場を納めようとする。
「チッ。分かったよ。でも、俺は認めねぇからな、殺そうとしてきた魔族も守ってくれなかったこの国の兵士も」
「すみません、人が死ぬなんて非日常のことにみんなが混乱しているんです。今回はなんとか見逃してもらった形で惨めにも生き残っているのですが、次にいつ狙われるか考えると震えが止まりません。だから、今はただ、休ませてください」
状況が状況なので、聞きこみもしたかったのだろうが、その日は全員が部屋でゆっくりと休息をとることになる。
次の日になっても状況はあまり変わらなかった。部屋から出て、いつも通りに振る舞う事が出来る者がいたら、それは日本人ではない可能性の方が高そうだ。
そして、またあ一日が過ぎて行ったが、帰還してから、二日目となる日の朝。
事件が起きる。
「きゃあぁぁぁぁぁぁ」
女子生徒の悲鳴が城中に響き渡り、何があったとばかりに引きこもっていた生徒も集まってくる。
「うっ、酷い...」
...男子生徒の呟き通りこれは酷いし、少し予想外だった。
とある女子生徒が首を吊って自殺していた。
側には、遺書らしい手紙が置いてある。
「もう生きて行くのが辛くなりました。お母さん、お父さん、美咲ちゃん、ごめんなさい。この世界では私は生きて行く事が出来ない事がハッキリと分かってしまいました。先立つ不孝を許してください」
美咲というのが誰だか知らないが、こいつは命のやり取りに恐怖を覚えてしまったのだろう。
「...一刻も早く魔王を倒して元の世界に帰らないと」
呟きは小さいながらに全員の耳に入り、奇しくも仲間を募るのにはちょうど良かった。
数人がついて行くと反応をする。
「よし、俺も合わせて六人か。少し少ないが、力を合わせてあいつらを撲滅させる」
すまない。そんな声があちこちから僅かな声量で聴こえて来るが、これが普通の反応なのだろう。
むしろ、こんな目に遭いながらもそれでも立ち上がるその精神が異常と言ってもいい。
そのままの勢いで王女のところへ赴いた彼らは魔王を倒すために一刻も早く出て行きたい旨を告げる。
「そうですか...。ならば、あと三日待ってください。その間にこちらの準備も整えます。また、他にも志願者は募って置いてください、一応ということもございます」
無論、俺は同行はしない。勝手について行く。もちろん、バレないようにだが。
「三日もですか!そんなに悠長になんか....」
「分かってます。しかし、今のままでは魔王どころか魔族にも歯が立たないことは分かったはずです。そのためには武器や防具で差を縮めなければいけないのです。分かって下さいますね?」
あのダメ王女が珍しく、威厳のあるように見えなくもない。不思議なもんだ。
渋々ではあるが勇者たちは王女の言葉を受け止め、了承する。
月日が過ぎるのは早いもので、怒りを原動力にした彼等の力はメリメリと上がっていき、あっという間に約束の三日が過ぎた。
「お待たせして申し訳ございません。こちらの準備はなんとか整いましたが、そちらの準備が終わっていなければもうしばらくこちらにいても....」
内心では王女もこいつらの意志が堅いことは
分かっていて聞いたのだろう。予想通り、行かないという選択肢はなく、既に準備も万端で駆け出していく勢いでもある。
そんなに急いでもいいことなんてあるとは思えねえがこいつらが決めた道を否定する気はない。
「それではお待たせしました。我が国のとっておきです」
従者が包まれた何かを持って来る。
「一度。一度だけです。死んでしまった人を蘇らせる事が出来ます。しかし、死んでしまってから十秒以内にしか使用が出来ません。それと、指定をすれば死んでしまってもその指定した人は瞬時に蘇ることが出来ます。また、復活はその死体の状態でなので肉体が完全になかったり、治療の出来ないところでの復活はしたところで無駄になるだけですので十分に注意して下さい」
ここまで言い終えると部屋の中に一人の男が入って来る。剣を二本ぶら下げており、格好はラフで戦場に出る人間では思えないような格好。それと、片目に斬られた跡があり、失明をしていることも窺える。
「紹介します。この国で一番ともいえる剣の使い手、ゼルフォード・レイヴンです」
「ゼルかレイヴンと呼んでくれていい。俺は既に戦場を退いた身だ。生憎だが、期待なんてされても困る」
ぶっきらぼうな感じではあるが俺としてはこういう歴戦の戦士の方が安心できる。
...いや、俺は同行しないんだけどよ。
「俺たちは...」
「別にいい。俺はお前たちと馴れ合うつもりはないんでな」
少し空気は読めないようだ。若干、俺と同じようなタイプではありそうだが、俺はもう少し空気は読める。
少し時が止まったような空気になったがなんとかパーティとしては完成したらしい。
計七人のパーティ。内の六人が異世界からの勇者。男子が四人、女子が二人。
彼等の物語は本当の意味でここから始まる。
どういう路線で行きたいのかが分からなくなってきた今日この頃