この世界は二度目なんです
風邪引いたかもなんです。
いつも通りの日常というのはいつでも、唐突に終わりを告げる。
俺が一人で転移した時も、今回クラス単位での転移の時も。
なんということのないいつもの日常の一コマ。退屈で平和で。
もちろん、その日もそうだ。
いつもの退屈な授業を受けながら欠伸を止められずに寝てしまう奴もいるところまで、いつも通り。
...魔法陣が教室の床に現れるまでは。
茶色い床に白い線で大きく描かれた転移魔法陣。その線は徐々に光り始め、目を開け続けることのできるやつなどほとんどいなかった。まぁ、俺以外には。
俺の隣の席は相変わらず夢から覚めないようだが、よくもまぁこんな騒ぎになることがあっても起きないところは本当に尊敬に値する。羨ましいほどだ。
騒ぐ。そりゃあ眩しくなれば、騒ぎたくもなるだろう。一部の奴は教室の扉を開けるなんてそんな機転を利かすが無駄だった。
開かない。
やがて、なす術なく転移された俺たちだったが、光が収まり目を開ければ見覚えのある場所。
前回の転移で連れてこられた王城の謁見の間だった。
何となく、雰囲気で目を閉じてはいたが開けておけばよかったなと心の底で後悔する。
前回の転移で思ったものだ。
そんな昔話はいいとして、謁見の間には転移をしたと思われる王女と魔法使い達。
これは、召喚だ。なんて、思ってる奴がいるかも知れないで一応言っておく。
召喚なんて転移を言い直しただけで転移に変わりはない。
所詮、召喚なんて転移であって、特別な力があるわけではない。
この世界に転移したこと自体が二度目。
つまりは、この王女とも面識があるのだが、あちらは覚えてないだろう。いや、覚えてない。
詳しく話すと時間がかかるので多少省くが、俺は...。
「ようこそ、お待ちしておりました。勇者たちよ」
俺のセリフに重ねるな。バカ王女。
「誠に申し訳ないのですがあなたたちは選ばれたのです。魔王を倒すという大義を背負った勇者に。どうか、魔王を倒して貰いたいのです」
...喋らせてくれなさそうので少し黙ろう。
「いま、この世界では魔王が復活し、魔物や魔族が活発化し、このままだと魔王に世界を滅ばされてしまいます」
「な、なんで、俺たちなんだ」
うちのクラスの副委員長だな。
「それは、先ほど述べた通り、あなたたちは選ばれたのです。勝手なこととは存じ上げておりますがどうか...」
豊満な胸を使って男子を誘惑するように喋る、バカ王女。
少しは駆け引きを勉強したらしい。
俺?...聞くな。一応男なんでな。
すぐさま、喜んでとばかりに飛び込んでいきそうな男子諸君であったがうちの委員長は優秀だった。
「お話は分かりました。第一に私たちは帰れるのですか?」
「もちろんです。しかし、召喚の対になる秘術を保管していた場所が襲われ、送還の書を奪われてしまったのです」
ここぞとばかりに同情を誘うようなやり方で女子からの賛同を得ようとする。
「しかし、教師として生徒に危ないことをさせることはできません。この子たちは戦いなんてしたこともないんですよ」
ここまで話してきてようやく先生が会話に参加してきた。
「それについては私どもでしっかりと訓練もしますし、何より勇者には特別な能力と高い身体能力があります。もちろん、私たちも戦いには参加し、勇者の命を最優先で守るので、安心してください。それに無理にとは言いません。しっかりと賓客としてもてなすことを約束します」
俺の時もこう言って欲しかったとこだな。
「やってやるぜ!魔王を倒せば、みんなハッピーなんだろ?」
主人公みたいな奴がみんなに呼びかけるようにそう言う。
ハッピーなのはお前の頭だ。なんて、言葉が喉まで出かけたが出さないに越したことはない。
「それでは、頭で能力をみれるように強く念じてください。能力が確認できると思います」
俺の能力も特に変わりはなかった。
「なんだ?こりゃあ?」
あちこちで様々な能力が飛び交う中、俺の隣の席の奴は未だに寝ていた。
...一応起こしておくか。と、思ったが知らない女子がそいつを起こした。
最初は揺らしていたが、起きないのを見ると、頭を叩き、最後にはわき腹に蹴りを入れて無理やり起こしていた。
「それぞれ確認は出来たと思います。それで、辞退したいと仰る方はあちらに他は残ってください」
辞退したのは数人女子と見るからに運動出来なさそうな男子が二人か。
「では、能力の方を教えていただいてもよろしいですか?あと、身体能力の値も。特訓のグループ決めを致しますので。」
その後はなんとなく察しの通りだ。
クラスの中で目立つやつは強そうな能力。目立たない奴はパッとしない能力。
俺はというと適当に答えといた。
できるだけ弱そうな感じだけど、意外と弾よけに使えそうな感じで。
あとは、部屋を割り当てられることで二度目の異世界一日目は幕を閉じた。
ちなみに俺は最近、ここに転入してきたばっかだから、クラスメイトに馴染んでないどころか名前すら覚えてない。