最悪の結末
タイトル通りです。一気に最悪になっちゃいました。気分を害す可能性が御座います。ご了承ください。
正直に言えば、勇者に魔王を倒すだけの実力はない。
しかし、勇者の魔王に対する攻撃は上がっていることも確かではある。
そこらへんの計算がしにくいことで勝機はあるのだが、実力はあちらが間違いなく上であって、攻撃も避けられてしまえばどうしようもない。
「あっちは既に終わってしまったようだよ?」
既に数えきれないほどの攻撃を魔王に繰り出しては躱されを繰り返し、肩で呼吸する程、疲弊しているようだ。
「残念だなぁ。前回の勇者には多少苦湯を飲まされたから、復讐の意味も含めて八つ当たりしようと思って...ん?逆かな?」
地味に根に持ってらしい。
「けど、蓋を開けてみればゴミもゴミ。そんなんでよく僕を倒そうなんて考えられたね?これでも魔族で一番なんだよ?随分舐められちゃったなぁ」
大きなため息を吐きながら続ける。
「もう攻撃も何も出来ないなら終わりにしちゃうけどいいのかなぁ?死にたくないんじゃあないの?」
ふとあげた右手には嫌な感じがする。力が凝縮しているように見える。
勇者も力を振り絞り、攻撃を仕掛けて行くがやはり当たらない。
「はぁ、残念だったね?もう終わりだ」
その右手が勇者を掴もうとする。勇者も恐怖のあまりに目を瞑る。
「そんなんで攻撃が躱せる訳ないだろ!」
そんな台詞に目を開けると魔王の右手は赤色の血を撒き散らしながら宙に舞う。
「あぁ、痛いな。手加減を知らないようだね。相変わらず」
「手加減する理由も義理もないからな」
勇者と共に魔王から一歩引く。隣には既に例の女子生徒もいる。
「さっきとおんなじだ。俺が隙を作る。トドメはお前らが刺すんだ」
心なしか不敵な笑みを浮かべながら剣を握り直す。
「どこからでも?」
開戦の合図だった。レイヴンは真っ先に魔王に向かって行くが、レイヴンが瞬きした瞬間に魔王は消える。
「どこ行きやがった?」
気配を探れば、魔王は勇者たちの真ん中にいる。
「なっ!!」
男子生徒の一人の胸に大きく穴が空く。
「先ずは一人」
女子生徒が魔王に剣を振りかざし、魔王はまたもや消える。
「クククッ。アハハ。愉快愉快。どうです?いきなり勇者が一人死んでしまったのは?」
まだ一撃で逝けたのは幸せな方ではあるな。
「クソッ。殺してや...あ?」
激昂した男子生徒は次の瞬間には頭と胴体が離れている。
「二人目」
「い、嫌だ。死にたくない。私は家に帰りたい」
「返してあげましょう」
そんな女子生徒の下に魔法陣が現れる。
そんな現実に残りの男子生徒が手を伸ばす。届いた瞬間に魔法陣の光は最高に達し、二人の勇者は消えた。
「あぁ、安心していいよ。今の二人は本当に元の世界戻っただけだからね」
「て、テメェ。いつの間にそんな醜くひん曲がりやがった?少なくとも命の尊重はしていたはずだろ!」
「...まぁ、そうだね。昔はね...。ただ今は君に復讐、報復をしたいだけだよ。どうだい、今の気分は?特に前回の勇者にはもっと嫌な思いをして欲しかったんだけどなぁ?いないんじゃ仕方ないからね?」
ふと見るともう一人、勇者が首を押さえて青い顔になり、やがては息をひきとる。とても濃い跡が首に残っていることからすると洗脳でもされていたのだろうか。
「五人目、いや、六人か」
最後の一人は恐怖のあまりに逃げ出し、どうでもいい魔族に殺されてしまっていた。
勇敢にも元の世界に戻るために立候補した六人は皮肉にも魔王に何の傷も残すことなく世を去った。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」
最後の女子生徒はまたもや気が狂ったように一直線に魔王に斬りかかる。
「私、まだ出来てないもの。謝ってもいない。何も出来てない!」
「そうか、じゃあ何も出来ないまま死ぬしか無いね」
そう言った魔王は一歩も動かずその剣先を見つめ続けた。
「え?何で⁉︎」
振りかぶった剣は魔王に当たることは無い。
ただ自分の腹に深々と刺していた。
「ところでレイヴンさん?助けようと思えば助けること出来たよね?どうしたんだい?具合でも悪いのかい」
「気分は最悪、機嫌も最悪。だがお前さんの能力はよぉく分かった。テメェ、勇者召喚に何かしやがったな?そのせいで勇者召喚された奴らは全員お前が事実状の生殺与奪権を持ってる。違うか?」
「おっと、黙って見てたと思えば、そんな思考を纏めるだけだったですかね。まぁ、概ねそうと言えるでしょう。この意味が分かりますか?」
「ふん、最悪、そいつらを暴れさせたとしてもうちの兵士が負けるとは思えんな。練度も士気もなかった奴らが強くなってるわけが...」
「と思うでしょう?あなたたちが出て行ってから彼らは頑張ったんですよ?そこらの兵士じゃあ相手にならないほどには」
「というより、この勇者たちより下手したら強いかもしれませんよ?」
「ただ、一人だけ人数が合わないんですよね。まぁ、何かの不具合だとは思うんですが」
俺のことだろう。それにしても腹が立ち始めたな。見ないうちにとんだクソ野郎になっていやがった。
「ハハハ、どうです?私たちの命を奪ったのと同じようにそちらの命をもらう。別に変な話でも無いでしょう?ハハハハハハ...は?」
「そろそろウザいな。お前?」
我慢の限界だった。勇者の武器を借り、魔王の首に刃先を当て文句を告げる。
「成る程。相変わらずデタラメな強さだ。それに、一人はあなただったのなら色々と...」
「ウルセェよ。さっさとあの世にでも行っちまえ」
俺はスッと剣を横にすべらせ、魔王の首を落とす。
「おい、レイヴン。お前のスピードなら今からでも間に合うだろうが。突っ立って無いでさっさと行けよ」
「悪いな」
メイドさんとシロには全く触れはしなかったがちゃんと生きてる。ただ、圧倒的な力にシロが気絶し、メイドさんはシロを木の陰まで連れていき、看病していたからな。
「あーあ。中々観測者ってのも大変だ」
ついつい手が出そうになる。
完全なバッドエンド。誰もが幸せにならずに終わる。最も人族が忌み嫌う結末を迎えてしまった。
次のエピローグで最後ですが、最悪の結末にしてしまい申し訳ございません。