最終決戦
そろそろ終わります。
その日、一行は朝早くに出発した。未だにアイアスは気絶したままだったが、あくまでも四天王であるからには数日くらい何も食べなくても生きているだろう。
朝早くとは言っても色々な時刻が言えるだろうが、地球での体感的な時間で言うのであれば朝の三時くらいだろうか?昨日はレイヴンが早く寝させたのもあって(反抗してゲンコツで寝たやつもいたが)、基本的には寝足りない人は居なかった。
どうやらレイヴンは本格的に今日中には魔王のところまで辿り着きたいらしい。レイヴンの考えを推し量れる程俺はレイヴンのことを知っているわけではないがロクでもない理由ではあると思う。と言うより、まともなことを言った記憶がない。
魔族領というのはまぁまぁ広い。しかし、それに伴って魔王城も奥地にあるかと思えば、そんなことはない。むしろ手前だ。境界線から一、二時間ほど歩けば着ける。
と言うのも、初代魔王がそう設計したとは聞いている。人間界に遊びに行きやすくするために近くしたなんて噂もあるらしいが詳しくは知らない。
当然と言うべきか妨害してくるような魔族はいなかったため、比較的早く着いてはしまった。考えが裏目に出たと言うべきか、順調にいっているべきか...。
わざわざ門を叩いて入城する必要はなかったために叩くことなく入ろうしたが、扉は開かない。ならばと壊そうとするが、壊れもしない。
結局、叩いて入ることにしたが、内心ではレイヴンは怒っていただろう。見るからに不機嫌だったし、叩くのも勇者にやらせていた。
不思議と叩くと扉は開く。前回はなかった仕掛けだ。
中は前回同様に悪趣味な薄めの紫に塗られた壁が目を引くような内装になっていて、そこらにある石像は今にも動き出しそうである。
「随分と気味が悪い場所ですね。姫さまにこんなところは相応しくありません。帰りましょう、今すぐに!」
久々にメイドさんの暴走を記録することに成功したわ。しかし、メイドさんの上にいるシロは眠っているのか、全くしゃべらない。
「ようこそ、招かねざる客人。勇者ご一行様がた。こんな朝早くから私を討伐に来るとはご苦労様です。どうです?先にお食事でもいかがですか?」
勇者を見ると、食いつきそうなくらいには衰弱しているようだ。...少し心配になってきたぞ?こいつらで魔王を倒すことは出来んのか?無理じゃないか?
「お断りだ。さっさと正体を現したらどうだ?あまり面白くないぞ?ましてや、俺なんて二回目だ」
「面白くないですか...。それは残念です」
そう言って言葉は途切れる。
「っ!」
「では、こんな嗜好はいかがでしょうか?」
門を開き、バラけることのしなかった勇者たちのいる空間に突然人が現れ、勇者の胸に向かって手刀を繰り出す。
すかさずレイヴンは、繰り出される手刀の手首を掴むがすぐにその感触は消える。
すぐに、離れたところで先の人が出現する。
前回と全く変わらず、やや長身で真っ白いブカブカの服を着て、常に薄目でニコニコしている魔王がそこにいた。
「ほんの挨拶がわりじゃあないですか?少し強く握りすぎです。あとがついてしまったではないですか」
「相変わらず、妙な技ばっか使うやつだな」
「そちらも相変わらずの力で、結構なことです。引退したと聞いていたんですけど、わざわざご苦労なことです。そちらの勇者さんは変わっているようですが」
こっちにいるんで安心してほしい。
「こう言ってはアレなんですがね。もう一度休戦協定を結びません?」
「結ぶと思うか?」
「思いませんね」
「なら話は終わりだ」
レイヴンは臨戦体勢に入り始める。
しかし、それを見ても魔王は慌てない。そして、追加で四人ほど魔王の周りに現れる。
「例の四天王か...。それにお前は人族か?」
その人物を見た勇者は全員して、息を呑む。
以前、ダンジョンで女魔族の騙し討ちをされた時に誘拐された女子生徒だった。
隣にはその女魔族が、そして知らない新顔が二人。
「この二人はもう知ってますもんね。それではこちらの二人ですが、仲のいい兄妹でしてね。中々いい連携をするんですよ。ケイとマイと言うんです」
さらに続けて紹介をする。
「本当はもう一人、この場にいるはずだったんですけど、連絡が取れませんでした。そして、最後に私が魔王をやらせてもらってます。そうですね...まぁ、適当に呼んでください。そういう愛称をつけるのはそちらの方が得意でしょう?」
「おい、俺があの四人を足止め、始末する。お前らで魔王をやれ。できるな?」
「あ、あの...」
「言われなくても分かってる。善処はしよう。だが、どうにもならないこともある」
「殺す殺す殺す殺すっ」
女子生徒は洗脳でもされているのかこちらの方を敵視していて、襲って来る。
「チッ。面倒くさいな。じゃあさっき言った通りにな」
ここに魔王との最終決戦の火蓋が切って落とされた。