魔族領
お久しぶりです。
魔族の領地に足を踏み入れる。これは、ある意味で領地侵犯であり、問答無用で魔族の攻撃が飛んでくるということを意味している。
どこからか攻撃が飛んでくる。大きい火の魔法。火球が勇者に襲いかかる。
しかし、腐っても勇者。女魔族の前ではいいこと一つなしだったが洞窟の経験が生きてきたのか、自らに当たる前には察知し、迎撃するようになった。
見ると、迎撃し損なった魔法がメイドさんへと飛んでいってるが、懐刀一本でいなしている。すごいな、普通に。シロもメイドさんの頭についているので問題はない。
「それにしても面倒だな。誰かが指示していると考えるのが妥当だが…。生憎、誰かまでは分かんねぇからな」
一度息を大きく吸い込み、
「警告する。これから一度でも攻撃したやつは問答無用で殺す。俺らは魔王に用があるだけだ。必要以上の干渉はしない。名を名乗っておこう。レイヴンだ」
ヒソヒソとあたりから相談するような聞こえる中、攻撃を止められなかったバカがいた。
レイヴンは石を一つ拾うと、思い切り攻撃の飛んできた方向へと投げると木の上にいた魔族の頭のない死体が落ちてくる。
「不味いぞ。ありゃあ、前回の戦争で勇者と一緒に攻めてきたレイヴンだ。噂だと、勇者よりも魔族を殺し回ったらしく、全世界最強の肩書きも持ってるらしいぜ」
「無理だ無理。撤退しねぇと俺らも殺される」
そんな会話と共にあたりの気配は少なくなって行く。それでも、攻撃を続けるバカがいた。
「警告はしたぞ」
魔法の飛んでくる方向をしっかりと見定め、剣を握り直す。
やがて、レイヴンが行動を起こす。剣が微かに発光し、剣を一振り。
飛ぶ斬撃である。因みに、俺は出来ない。昔、やり方を教わろうと思ったんだが、マスター出来るまでは行かず、送還されることになったからな。現実世界ではやれないしな。
被弾し、バタバタと落ちたり倒れる音がする。初見での回避はなかなか難しい。なぜなら、レイヴンの飛ぶ斬撃は二連撃で追尾型になってる。一番最初に見たときはびっくりしたことは今でも覚えている。
そんなかんなで魔族からの接触をさせないようにしたレイヴンは、軽い調子で
「んじゃ、大人しくなったことだし、行くとするか」
「もう、俺たちなんていらないんじゃないか?というか、レイヴン一人倒せちゃうでしょ、これ」
呟きは当然、全員の耳に入る。いった人間に視線は集まり、勇者からは『お前、そんなこと言うなって、俺も薄々思い始めて来たけどよ』なんて言い出しそうな感じが窺い知れる。
「俺だってできればそうしたいんだけどな。魔王っつうのはお前らと同じく、違う世界から来たらしくてな。しかも、厄介なのが魔王の場合、勇者以外の攻撃をほぼ無効化しやがる。つまりだ、結局のところ、魔王をたおすことができるのはお前らしかいない訳だ」
本心からの言葉を躊躇うことなく、ズバズバと言ってのけるレイヴンにやけに納得したような顔を見せる勇者だったが、逆に言うと、魔王戦ではレイヴンは戦力として、数えにくいと言うことでもある。
「まぁ、安心しろ。俺が魔王に攻撃できないだけだ。戦いにはお前らのカバーをするために参加する。防御に徹すればお前らを致命傷から避けさせるくらいなら多分できるだろうからな。全力で魔王に攻撃しろ」
と言うことで、戦力として問題はない。俺の時もこんな感じだったような気もする。
しかし、いくら勝手に魔族領にはいれば、迎撃はされるにしても数が多すぎる。ましてや、結界の破れたのはついさっきである。一番近くの村からでも報告を聞いて、駆け足で来て、着くか着かないかくらいなのであるからにして、不思議な点がある。
「それにしても、空気が重くなってない?」
勇者の一人が魔族領特有の空気に若干呑まれているようだ。大体、田舎と都会の空気の違いと思ってくれてもいいが魔族領の場合は、殺気が含まれているので慣れていないとこうなる。
木々が生い茂る中を歩いていけば村に出る。無論、魔族の村なので入るつもりは無かった。無かったのだが...。
「この村には誰もいませんね」
珍しく喋ったのはメイドさんであった。いつ何が起きるか分からないのでシロは常にメイドさんにお任せしている。
「そのようだな」
レイヴンも同意する。
「ならば、今日はこの辺を少し借りて寝るとするか。野宿でもいいが屋根はあったほうがいいだろう。ついでに食べ物も頂戴してな」
しかし、勇者は魔族と言えど勝手に家のものを使うのが気がひけるのか、単に警戒心からなのかは分からないがあまりいい顔はしていない。
「心配をするのはいいが休める時に休んでおかないと戦えないぞ?まぁ、野宿がいいならどうしてもとは言わないがな。それと明後日には魔王に会うからな?」
当然と言えば当然だが、今のペースだと難しいだろう。これからペースを上げていくのであれば野宿で体を痛めて、その後に悪影響が出るのは防ぎたいところである。
以上の理由でシブシブながらではあるが空っぽの村を借りることにしたようだ。
ぼぅっとしてたらこんな時間が過ぎてました。