崩壊
お腹痛い
必死に洞窟から飛び出した十秒後には跡形も無く、山ごと吹っ飛ばされた。
洞窟の外にいた勇者たちも最初は回りから様子を伺っていたが帰ってきた時にいなかったら、少々面倒臭いことになるとおもって入り口に戻ってきたら、ちょうど飛び出して来たところだと言う。
とは言ってるが途中でシロが飽きたとでも言ってそうだなと心の中で考える。
「んで、結界は解除できたの〜?」
誰も、結界が解除できたかどうかは知らない。というより、確認が出来ない上に自爆ボタンを押してしまったために急いで出て来たなんて、冗談でもなかなか言えない。
そんな事情を話すか話さまいか悩むところではあったが、突如聞こえた覚えのない声が解決をしてくれた。
「結界が解けたと思って来てみれば、あの時の勇者たちじゃない。久しぶりね。元気だった?」
そいつは王都のダンジョンにて弱者を装い、勇者を五人殺し一人を誘拐することで大半の生徒に恐怖と絶望を与えた女魔族の...前までは覚えていたんだが名前は忘れた。
「元気な訳ないだろ。こっちはお前に何人殺されて、何人がトラウマを植え付けられたと思ってやがる」
「そんなの知らないわよ。弱いのが悪いのよ?それに戦いを仕掛けて来たのはそっちだしね。正当防衛ってやつよ。それで、後ろにいる見覚えのない人たちは」
そこまで言うと、女魔族の口は閉じる。
「見覚えがないか?一回会って、ボコボコにしてやってるんだがな」
レイヴンが軽い威圧と共に後ろから現れる。
「あらあら、レイヴンさまではないですか?こんなところまで何用ですか?魔王様とのお約束を忘れたわけでもございませんでしょうに」
「先に破ったのはそっちだろうが。よくもまぁそんなとぼけられるな。それとも?俺に今なら勝てるなんて調子に乗ったことを言うつもりでもないだろうな?」
「それこそご冗談を。人間は噂やデマ話が多いじゃありませんか。まさか、レイヴンさまとあろう者が噂話に騙されているのではないでしょうかね?国の命令だとしても断ることは出来ましたわよねぇ?」
「言わせておけば、随分と馬鹿にしてくれやがるなぁ。この場でムカついたから斬り捨てたっていいんだが?」
レイヴンと女魔族の口は閉じることを知らないのか、一触即発の空気がその場に流れ、どちらが先に手を出してもおかしくない状態になっていた。
「んで?死ぬのか?」
「まさか?死にませんとも」
剣を抜き、消える。正確には剣を抜くと共に跳躍し、女魔族目掛けて飛び掛かる。
女魔族はブツブツと何かを唱え、振り下ろされる剣を迎え撃つ。
女魔族の使ったのは『映し鏡』でレイヴンの力を鏡のように同じ技で返す。力も精度も同じなのでレイヴンは仕方なく仕切り直す。
「相変わらずだな」
ボソッと呟き、今度は相当の速さで女魔族の回りを走りまわる。あまりの速さに残像が見え始め、やがて実物へと変わる。
「計五十人だ」
「前回は二十人でしたわよね。また、腕を上げたのですか?」
十人が飛び、二十人が間合いを詰め、十人が後ろへ下がり、十人が剣を投擲する。
「流石に、勝ち目はありませんわ。ここは退かせてもらいますわね」
胸元から何やら白い球を取り出し、地面へと叩きつける。モクモクと白煙が生み出され、あたりはすっかり白くなった。
「そんなもんで俺が止まると思うか!」
しかし、レイヴンは躊躇いなくその中へと身を投げるように突っ込んで行く。
白煙は一分も立たずに煙は晴れ、そこにはレイヴンが一人立っているだけだった。それを見て、ようやく気付くのは他のレイヴンはとっくに消えていたことだ。
「まさか、そんな手を使うとはな」
忌々しそうに呟くレイヴン。手には女魔族のものらしい片腕を持っていた。が、次の瞬間には放り投げ、剣で細切れにしストレス発散にでも使っている。
今まで呆然とその光景を見ていた勇者たちはようやく目を覚ましたかのように動き始めた。
「ち、畜生。強くなったと思ったのにまた何も出来なかった。このままじゃまた誰かを失っちまう。それは嫌だ」
何も出来ない自分に怒りを覚える勇者たちだったが、正直な話、お前らが動けなかったのはレイヴンのせいでもあることはしっかりと述べておこう。
結構な威圧をしていたからな。ましてや、初めてこの威圧を食らったんだから、動けなくて当然だろう。
「お前ら、何言ってやがる。俺の威圧に耐えられなかったから動けなかったんだろ?あいつのせいじゃない。悪いが、さっきは俺一人でケリをつけたかったからな。説明しなかったことは謝る」
と言うことだ。
「で、でも!」
「でももクソもねえ。あるのは現実だけだ。悔しかったら、俺を倒せるように頑張りやがれ。そうすりゃあ、あいつくらい倒せる」
いやいや、お前。お前を倒すって魔王を倒すくらいには難しいだろ。
「まぁ、取り敢えず、結界は壊れたと言ってたからな。いつ張り直されてもおかしくはない。急ぐぞ」
結界は壊れ、当初の目的は果たした。あとは、魔王を倒すだけである。
しかし、トイレに行くと急に治まるという