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決戦前夜には別の闘いを

 あと何日かと勘定する日は今日で終わりだ。


 あぁ、ドキドキする。


 胸に手を当てると、心臓がせわしく働いている。速さの違う秒針みたいだ。昨日と今日で違うリズムを刻む。人によっても違う。動物でも違う。刻む回数は決まっているって話だから、なんだか不思議だ。


 そんなことを思う決戦前夜。明日になれば決着するんだから不思議だ。ずっとこの日を待っていたのに、今は惜しく感じてしまう。彼はどうなのだろう。


 星空を見ながら、想いを馳せる。どちらが勝ってもおかしくはないだろう。そのくらい力は均衡していると思う。


 いい試合ができると良いなぁ。


 食堂名物のスペシャルデラックスプレートを食べて、スタミナは充填されている。万全な体調で挑むため、僕は窓を閉めると寝台に横になった。



 * * *



 うぁぁぁっ!


 俺は決戦前夜にして頭を抱えていた。相手は学年一の秀才。創立以来これほど出来る人はいなかったのではないかとまで言われている男だ。


 やっぱり棄権するか? お腹を壊したとかなんとか言って。


 これだけストレスを感じていれば、急性胃腸炎にでもなりそうだが、如何せん、俺はすこぶる丈夫にできている。


 丈夫に産んでくれてありがとう、お母さん――じゃなくてだな。


 うずくまり、頭を抱える。


 そもそも、丈夫だったがためにこんな事態になってしまったんだが。


 俺は思い出す。


 この学園に通うことになったのは、俺の丈夫さを知ったエージェントがスカウトに来たからだ。赤ん坊の頃に、住んでいたマンションの高層階から落下したがかすり傷で済み、幼稚園の頃にはトラックに牽かれたものの軽い打撲で終了。他にも普通の人間とは思えない数々の逸話を残し、今に至る俺。丈夫すぎにもほどがあるだろ、と思ったところで、この妙なバトルをカリキュラムに組み込んでいる学園に編入することになったわけだ。


 バトル――それは、生徒の各々が持つ異能を用い、様々な環境下で一対一の戦闘を行うトーナメント戦。


 身体が丈夫なだけの俺は、時に知恵を絞り機転を利かせ、ある時は舌先三寸で言いくるめるなどして勝ち上がってしまった。途中で適当に負けるつもりだったのだが、下手に負けるといろいろ不都合があるためにこんな状況になったのだった。


 明日の決勝戦の舞台とルールがどうなるかわからないが、本気でやりあったらマジで死ぬかもしれん……。


 身体は丈夫だが、怪我をすればそれなりに痛い。できるなら穏便に済ませたいところだ。


 だが、友人の情報によれば、相手はかなり本気のぶつかり合いを望んでいるそうで、茶番な試合にすることはできそうにない。


 勘弁してくれ……。


 俺はふと立ち上がる。ここで嘆いていても始まらない。最後の晩餐というつもりで食堂で好きな物をお腹に詰めておこう。腹八分目じゃ足りない。しっかり食って、食い過ぎというくらい食って、悔いを残さないようにしよう。


 そう決意すると、俺は食堂に向かった。





 あれ?


 まだ店仕舞いをするには早い時間だというのに、食堂は閉まっていた。残念だ。夕食は外で済ませていたから心配いらないのだが。


 しょうがねぇな……。


 食堂の名物であるスペシャルデラックスプレートを死ぬ前にもう一度食べたかったんだが、仕方ない。


 諦めると強烈な眠気が襲ってきたんで、俺はさっさと眠りについたのだった。



 * * *



 試合は不戦勝となった。俺はぽかんと会場で立ち尽くす。


 食堂名物のスペシャルデラックスプレートで使われた食材が傷んでいたらしく、食中毒が起きたのが原因らしかった。


 あの秀才くんはスペシャルデラックスプレートを試合前日に食べることを習慣にしているそうで、昨夜もそれはそれは美味しそうに食っていたそうだ。


「運も実力のうちだからな! 次の試合では、互いに全力でやろう!」


 などと、青白い顔をしたまま宣言していたが、俺は正直勘弁願いたい。





 次のバトルトーナメントが行われるのはひと月後。それまでにうまいところ退学する方法を考えつかねば――と俺は焦るのだった。


《完》


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