職業Ⅴ・③ 雲に応戦
黒雲をまとったツクホゲは突進を避けられた後――船の甲板に激突した。幸い船はそんなことで壊れるほどヤワではなかった。問題なのはツクホゲだ。
甲板に突撃したツクホゲは頭を打ち、もはや虫の息だ。いや、鳥なのだが。
自分で突進して自滅する馬鹿がいるか、と突っ込みつつ、倒れたツクホゲに近づく。雲の影響だと思われるとはいえ、攻撃してきた相手。最低限の警戒は怠らない。
雲がツクホゲから出てくる。攻撃を警戒して身を硬くするが、俺には向かわずそのまま空に向かって、消えた。
黒雲が消えたということは、もう危険はないということだ。護衛として暇をもてあましている間に聞いた話では、ツクホゲは普段非常におとなしい鳥で、人を襲うことなどありえないということだった。
黒雲の本体はまだ海上に浮いている。船は雲の中に入る前に停止した。後戻りするわけにも行かないのか、立ち往生している。
俺はすぐに背中の救急箱を出し、治療を開始する。
俺に医療の心得などない。船酔いの治療でもそうだったが、どこをどうすれば治るか見えるのだ。
止血、消毒。折れた骨は固定。
瞬く間にツクホゲは回復した。ツクホゲの生命力が強いわけではない。俺の治療が強力だっただけだ。
お礼も言わず飛び立とうとする。まぁお礼を言うにも言葉が通じないのだから仕方ないか。諸悪の根源はあの黒い雲だから、ツクホゲを捕まえることはない。
黒雲を睨み付ける。おそらく生物ではない雲をにらんだところで何の意味もないだろう。
だが、雲は俺に反応したのか関係ないのかはともかく変形して俺のほうに向かってきた。
風はない。雲が自力で動いている。
雲が分散して俺と狼少女に攻撃を繰り出してくる。
攻撃に威力があるかはわからないが、当たらないに越したことはない。避ける。
だが雲は雲である故に動きが予測しづらく、避けにくい。その上こちらから攻撃することが出来ない。
ついに狼少女が攻撃を受けてしまった。
「δυσάρεστος―――!!」
叫び、座り込む。
再び立ち上がった彼女の目の奥には、黒雲が浮いていた。




