職業Ⅳ・⑤ 繋がる
「――デモ、コトバ、ナイ、ドウブツ、ツナグ」
言葉のない動物を繋ぐ。繋がれる、ということか。
会話の出来ない動物同士でも、彼らは整然としたつながりを持って自然の中に生きている。
「ダケド、ヒト、ツナガル、イママデ、ナイ」
人間と動物が繋がった過去はない――。やはりだめなのか。奏者としての能力を失った俺は、リタイアして帰るほかないか。
俺は、諦めて帰るしかないのか。くそっ。
やり場のない怒りに襲われる。
「ハジメテ――ヤッテミル?」
「なっ?」
今まで出来た人はいない。だが、だからといって俺にも出来ないというわけではない。
「デキル、カモ……」
「あぁ、やらせてくれ」
「ワカッタ」
彼女が狼になる。そして、俺に向かって手を差し出してきた。俺の手も出すように促される。
俺は彼女の手に左右それぞれの手を重ねた。
目を閉じる。彼女から狼の言葉が流れてくる。だが、何か防壁のようなものがその言葉を跳ね返した。
「ゴシュジンサマ、コトバ、ハネカエス。リカイスル、イラナイ」
どういうことだ?
「ワタシタチ、ウケイレル。ツナガル」
彼女の言葉を理解しようとしなくてもいい。全てを受け入れる。そして、繋がれる。
目を閉じて、呼吸を楽にする。狼と呼吸が重なった。
見えた。彼女が見えた。
自然の全てが繋がってゆく。
悟りを開いたかのように。俺の周りの全てが見え、繋がる。
「わかったのね」
「見えた」
俺の脳に、彼女の言葉が流れてくる。彼女は不慣れな人間の言葉ではなく、狼語で話している。俺は、それがわかるのだ。
「狼と話せる人間なんて、あなたが初めてよ。――伝説上の話を除けば。あなたもいずれ伝説となるかもしれないわ」
伝説か。俺はこの世界の、勇者の伝説を生きるのかもしれない。
「行くか」
「行けますね」
「皆、繋がれるはずだ」
船員に促す。船がゆっくりと動き出した。
向かうはカラマロ。俺は、やれる。




