職業Ⅲ・⑫ 狼少女と食事
聞くところによると、奴隷に付けた首輪は、主人に逆らうと本能に訴えかけて恐怖を感じさせるのだという。
本能に訴えかける恐怖って、何だ?
主人が任意で強さを変更することが出来るらしいが、強さが全くわからないので初期状態のままにしておいた。
「ヨロシク、オネガイシマス」
狼少女が挨拶する。人の言葉はまだ片言でしか喋れないようだ。
「ああ、よろしく」
俺からも返す。
見つめられて買ってしまったが、冒険に連れて行くには今のままでは危険だ。装備を整えるか。
「ワタシ、ナニスルデスカ?」
考えていたら声をかけてきた。喋り方が奴隷商の影響を受けているようだ。
「君には俺の冒険の手伝いをしてもらおうと思ってる」
「ワタシ、タタカイ、デキナイデス」
「大丈夫だ。俺がサポートする」
狼人間だし、最低限サポートがあれば死ぬことはないだろう。
もう夕方だ。疲れているだろうし、今日は宿に帰ってもう寝よう。
俺はここ何日か泊まっていた宿に向かう。
宿に行き着くと、かみさんが声をかけてくる。
「あら、奴隷を買われたんですか。部屋は……他の部屋空いてないんですが、今のままでいいでしょうか?」
ベッドが一つしかないという問題だ。まぁ、俺が床で寝ればいいだろう。
「いいよ。その前に飯だ」
宿は食事つきではない。宿の一階にある食堂で注文して食べられる。
「はいよ。日替わりでいいかい?」
何日か泊まっているもんだから、食事はいつもここで取る。そしていつも日替わりメニューだ。覚えてくれたらしい。
「俺はな。何にする?」
狼少女に声をかける。彼女は俺の後ろで黙って立っていた。
「ワ、ワタシデスカ? ドレイ、ゴハン、イチニチニカイ。モラエナイデス」
どういうことだ? 片言ではよく理解できない。
「奴隷は一日二回しか食事をもらえないらしいよ。それも主人のあまりなのが普通なんだって」
かみさんが説明してくれる。普段からたくさんの冒険者と接しているから詳しいのか。
「でも、腹は減るだろ?」
「ハ、ハイ」
「なら食べておけ。俺はそんなにひどいやつじゃないから」
「ホントウ、イイデスカ?」
「何度も聞くな。どれにする?」
「エット……ゴシュジンサマ、オナジ、シテクダサイ」
俺と同じ日替わりメニューな。
「おかみさん! 日替わり二つで」
奴隷を養うのは大変だ。経済的な意味もあるが、考え方が違うからな。




