職業Ⅲ・⑨ 敵討ち
あいつは……。
狼の耳と尻尾がついた、ともすればコスプレに見られかねない格好をした男が降りてきた。
狼人間のボスの人間型だ。
事前に調べた情報では、狼人間には獣型、獣人型、人間型の三種類の姿になれるという。
下で戦った狼人間は獣人型。さっきまでのボスは獣型。
今ここにいるのは、人間型だ。
「ボスだっ」
冒険者の間にざわめきが起こる。気付いていなかったようだ。
「待て」
ほえるときと同じような低い声で言い出す。言語能力を持つのか。
「我々は人間を襲いたいわけではない。我々は人間と和解したい」
そんな!?
さっきまで戦っていたくせに。
だが、戦わなくて良いというのならそれを拒否する理由はない。
「そうか」
目つきの荒い短剣使いが前へ出て行く。
和解を受け入れると返事するのだろ――――。
一瞬の動きだった。
気付いたとき、剣士は狼人間のボスの首に銀のナイフを突きつけていた。
「俺はお前の仲間に兄弟を殺された。いまさら和解など出来ない」
声に抑揚がない。誰も止めには入れなかった。
「終わりだ」
血が飛び散った。狼人間の首が宙を舞った。
その体は獣人型に変化する。
「クエストクリア」
視界に表示される。
達成感が何もない。
終わってしまった。




