第三話:SHINY SKY
土曜の朝。窓の外は、雲一つなく晴れているというのに、嵩弥の眼前は真っ赤に染まりつつあった。
朝起きると、ベッドのなかには少女――多分中学生くらい――がいて、その少女は全裸で「昨夜はどうでしたか」と意味深な言葉を残して再び眠りについた。
この状況を家族の誰かに見つかれば、嵩弥は一貫の終わりであり、社会的な死に直面しかねない。
それだけはなんとか避けたい。
ひとまずこうなった成り行きだけでも説明してもらおうと、再び彼女を揺り起こす。急いでいるためさっきより強めに揺さぶった。
「頼む、起きてくれ、起きてください、起きてくださいお願いします!!」
泣きたくなる気持ちを必死に押さえて、揺らしつづけていると、再び怪奇な声をあげつつ彼女は眼を冷ました。
そのことに安堵しつつ、しかしまた少女が寝ないように注意を払いながら嵩弥は話しかけた。
「何度も起こしてすまん!だが寝てもらっても困るんだ!話を聞いてくれ!」
布団を身体に纏いながら、少女は上体を起こした。まだ目は半開きである。辺りを2、3度見回したあと、少女は、はっとなって完全に覚醒したようだった。
「た、嵩弥様!?すいません、完全に寝惚けていました…」
紅い髪、この凛とした声音。記憶を刺激されるが、嵩弥は彼女がレヴィアだということにはまだ気づいていない様子である。
「一体、君は誰なんだ?なんで俺の部屋にいて…その…服を着てないんだ…?」
「――私のこと、もう忘れてしまわれたのですか…」
「え?」
忘れたもなにも、俺は君と会ったことなんてないぞ、と口にしようとしたとき、今まで塞き止められていた記憶は、一気に復元を始めた。パズルのピースが組合わさるように、今までに起こった様々な事が頭のなかで一致する。
三日月。長い紅の髪。儚げな表情。そして――眷属になったこと。
「思い出した…!!君はあの時の…歩道橋にいた、悪魔ちゃんだろ!?――え、でもまてよ。その後君の部屋で、眷属になった、とか言われて…その後の記憶が無いんだけど…?」
「眷属になったと伝えたそのすぐ後に嵩弥様は倒れてしまわれて…私の部屋だとまずいこともあるので、嵩弥様の家に送り届けた直後、不甲斐ないことに眠気と疲れに襲われて…申し訳けありません…」
少女はベッドの上で深々と土下座をして謝ってきた。
複雑な心境ではあるが、誰にでも失敗はあると、嵩弥は少女の肩をぽんと叩いて、
「君は俺を助けてくれたんだ、謝る必要はどこにも無いさ。それに――」
胸をはって続けた。
「何たって俺は、君の眷属なんだからな。謝られたって俺が困っちゃうぜ」
あれ俺ちょっと格好いいこと言ったんじゃね?と内心思いつつ、どや顔で、レヴィアが顔をあげるのを待っていると、その時頭にキーンという強烈な不快音を、感じた。
この不快音を感じたのは、嵩弥だけでは無かったようだ。
レヴィアも、はっと顔をあげ、さっきまでとはまた違う表情で言った。
「まさか!?もう天使がこっちに!?」
「天使!?」
窓の外には、神々しい翼をはためかせる人影が市街地の空に舞ってるのが見えた。
――相変わらず、蒼空は澄んでいる。