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第二話:RED MOON

 少し開けられた窓から、心地よい風と月光が入ってくる。

 微風は、部屋のなかを吹き抜け少女の――美しい悪魔の少女の髪をを揺らす。風に乗って仄かにいい香りが嵩弥の鼻腔を刺激した。


 いまだに、嵩弥はさっきの驚きから復活できていない。


 まあそれもそうであろう。こんな美人からいきなり『眷属になってください』だなんて言われればどんなメンタルの人でも動揺はする。


だが、それはそうと何故眷属にならねばいけないのだ、と心のなかで彼は思った。取り柄のない、ただの一高校生が。神を喰らえるわけでも、幻想郷にいるわけでもないただの高校生が。

困惑した頭の片隅で、ぼんやりと考えてみる。

なにか悪魔の眷属になる理由があったのか、と。

しかしどれだけ考えようと、答えは見当たらなかった。心当たりすら見出だせなかった。

その時少女は、なにか思い付いたような表情をし、嵩弥の目を見て話はじめた。

「あ、すいません。名前をまだ名乗ってませんでしたね。私はレヴィア・エル・マクスウェルと申します。以後お見知りおきを、嵩弥様」

嵩弥は不思議だな、思った。

眷属にするつもりであろう嵩弥に敬うような態度で接している。眷属というのは、主人から見て下の存在のはずだ。だが今の彼女は少なくとも対等以上の立場で、嵩弥を相手取っている。

「レヴィア...。美しい名前ですね」

緊張か、それとも頭が働かないせいか嵩弥は的はずれな返事をしてしまった。静まった空気がより一層静かになったような気がした。

少し照れ気味に、レヴィアは返答した。

「そ、そうですか?私あんまり誉められることがないのでそういうの照れちゃいます、てへへ…」

初な反応に、嵩弥は心臓を高鳴らせた。

乾いた口に一度紅茶を運ぶ。程よく口を湿らせ、彼は話を切り出した。ようやく整理のついた頭を回転させ、言葉を繋ぐ。

「レヴィアさん…なんで俺を眷属なんかにしたんです?」

「それはですね…えっと、、、」

恥じらうレヴィアの姿に、嵩弥は鼻の下を伸ばしつつ返答を待つ。もじもじ動き何かを躊躇っているように窺える。

そもそも悪魔が眷属を作る理由というのは、仲間を増やすためである。同胞を作り戦力の増強を図る。

――そうだとしても、俺を眷属なんかにしたのは間違いだったろうに。

心のなかでそんなことを考えていたとき、レヴィアが口にした言葉は彼の予想に反していた。

「人恋しかった…のかもしれません」

俯いたままの少女の言葉は、素直に心中を言い表したものであった。

目まぐるしく変化する心理に、もう嵩弥の頭は、オーバーヒート寸前であった。

「つまり私は貴方に一目惚れしてしまったのです――貴方は私の眷属であり、鍵であり、パートナーなのです」

「…え?ひ、一目惚れ!?俺に!?レヴィアさんが!?」

キス、眷属、一目惚れ。三つの単語が頭のなかをぐるぐる回り、徐々にパズルのピースのようにきっちりはまり始める。

「正しくは眷属というより、恋人になったということですかね…///これからよろしくお願いいたします」

窓から入る月光が、赤らんだレヴィアの頬を照らし出した。美しく、可憐で、高貴で、純粋な微笑みを浮かべ嵩弥の方を見つめている。

見つめられた嵩弥は、そんなバカなと頭を抱えている。悪魔と恋人云々よりももっと大事な契約を交わしたことも知らずに。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


頭に響く、けたましい音が耳元でなり続ける。

目覚めろと、彼――黒瀬嵩弥に訴え続けている。布団から手を出し、文字通り手探りで目覚ましを止めた。

瞼に残る眠気に打ち勝ち、目を開ける。

そこにあったのは、知らない天井――などではなく、毎朝見る自室の天井であった。

「もう朝か…。寝足りない感が半端じゃないな…。身体がだるいや…」

土曜の朝、部活に所属していない嵩弥は本来こんな早くに起きなくともいいのだが、日課として毎朝ランニングを行っているため毎週末は7時半に目覚ましを鳴らしているのだ。

疲れが残っているのか、まだだるい身体を引きずるように布団から這い出た時、布団のなかに何か暖かいものを感じた。人肌くらいの温かさだろうか。

不思議に思い、勢いよく布団をはがすと――


「むにゃむにゃ…」


と。

心地良さそうに眠る少女の姿があった。身長から見るに中学生くらいだろうか。

見覚えのある紅の髪、ほんわり立ち上るいい香り。

「!?」

朝一番に、こんな珍現象が起こり、訳がわからなくなる嵩弥。

その状況を混乱に導く要因のひとつは――彼女が全裸であることだろう。

――これは非常にまずい。犯罪じみている。とりあえずピンチだろ俺!!

ひとまず彼女を起こすことにした嵩弥は、出来るだけ少女の身体を見ないようにして揺り起こす。

数十秒の格闘の後、彼女は、

「ふぇ…」

謎の声を発しながら目をあけ上体を起こした。慌てながら嵩弥はタオルケットを上半身にかけてあげる。

一度伸びをした少女は、眠気を残した顔のまま

「あれ…おはようございます嵩弥様、昨夜はどうでしたか…?」

と意味深な言葉を残し、再びベットに倒れたのだった。


「勘弁してくれ…」

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