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第一話:MOON LIGHT

 三日月と赤髪。

 今でも彼女の姿は鮮明に、記憶に残っている。言葉では言い表せないほど可憐でいて、なんというか儚げだった。触れば崩れ落ちてしまいそうなほど儚く、しかし確かな存在感がある。

 黒瀬嵩弥は、今夢を見ている。本人には夢だという認識はないが。

 歩道橋の上に佇む少女は、紅い髪で、美しく――だかひとつあの時とは違う。

 あの時はなかった、大きな漆黒の翼を今の彼女は有している。

 嵩弥はその瞬間思い至った。

「あぁ彼女は悪魔だったのだ」

 と。

 だが、あの子が何であったとしても、もう一度会いたいと切に願った。悪魔であろうと、人であろう、化け物であろうと、だ。

 彼の眠りはしだいに覚めはじめた。

 ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

 嵩弥が目を覚ましたとき、目の前にあったのは、見たこともない部屋の天井であった。

「あれ、ここどこだ…?」

 上体を起こしながら、洗い立ての石鹸の匂いがする毛布に記憶を刺激され、手を止めた。

 思い出したのだ。帰り道、歩道橋の上に佇む美しい女性を見たこと。今宵は三日月だったこと。彼女は美しい赤髪だったこと。そして彼女と口づけを交わしたことを。

 だけど、今はあの歩道橋でも、冷たい秋風に吹かれる細い路地でもない。どうやらここは、どこかの家の一室らしいのだが…。

 とりあえず家主を探すべく、横にならせてもらっていた柔らかいソファーの上からおり、あたりを見回した。薄暗く、あまり見えないが、なんとか扉を探し部屋の外に出た。ここはアパートのようだ。

 部屋を出ると廊下と各部屋の入り口があり、一ヶ所だけ光が漏れていた。倒れていた彼をここまで運んできてくれたお礼を言うべく、その方向へ向かう。光の灯る一番奥の部屋を覗いたとき、予期せぬことが起こった。

 歩道橋でみた、あの子がいたのだ。紅い髪の彼女が。

 しかも――一糸纏わぬ姿で。

「あ…」

 あまりにも唐突な再開に、嵩弥はパニックに陥った。それに加え彼女は全裸の状態だったので、更にわけがわからなくなり、硬直してしまったのだ。

 世間ではこういう場面での彼を「ラッキースケベ」と呼ぶのだと、思った。

「し、失礼しましたぁ!!!」

 身体を反転させ、急いでもといた部屋に戻ろうとする。その時背後で凛とした、しかし恥ずかしさを含んだ声が聞こえた。

「す、すぐに服を着るからそこで待ってて。私は平気だから」

 高鳴る心臓を、極力抑えながら嵩弥は、部屋の――多分お風呂であろう場所の入り口付近に立っていることにした。

 数分後、嵩弥の前に現れた彼女は、制服を着ており紅い髪をひとつにまとめていた。風呂上がりだから頬がほんのり赤らんでいた。目を合わせにくいが、きちんと顔を見据えながら嵩弥は口を開いた。

「ここまで俺を運んできてくれたのは、君なのか?」

「立ち話はなんですし、座りながらゆっくり話しましょう」

と、切り返されたのでこれは長くなりそうだな、と直感しながら、「あぁわかった」と承諾し誘導された部屋に入った。そこはさっきまで嵩弥が寝ていた部屋だった。

「お茶を用意するので、そこのソファーに腰掛けてください」

彼女は、微笑みながら促す。その笑顔に若干惚れつつ、嵩弥はソファーに座った。

暗がりだったこの部屋には、意外と物が置かれていないのだな、と室内を見渡しながら待っていると、ティーポットとカップをお盆にのせながら少女がお茶を持ってきてくれた。テーブルにそれらを置きながら、彼女は向かい側のソファーに座る。

暫くの沈黙の後、少女は、ゆっくりとつむんだ口を開いた。

「あなたは私の眷属になりました。」

緊張を乾いた口を潤そうと、紅茶を飲んだ嵩弥は、

「なるほど、眷属ねぇ」

と返事を返した。半分ほど飲みカップをテーブルに戻したとき、

「はぁ!!?眷属だとぉ!?」

自分でもビックリするくらいの声量で叫んだのだった。

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