6話 暗殺者
「天野君、ちょと離れて」
言われた通り離れる。
すると煙は突然消えた。
「えっ」
「テレポートさせただけだよ」
簡単に言ったけど、それは僕が出来なかったことだ。一体どんだけ強いんだよ……まあ僕が弱いのもあるけど。
[知与川、アンノウンの識別名は何なんだ]
[それが分からないんだよ]
[分からないってそんなことありえるのか?]
[今回が初めてだが現に分からないわけだし……]
「とりあえずアンノウンを探そう」
考え込んでると白金さんが声をかけてきた。
「それもそうだな」
あれからどれくらい経ったんだ。途中何回も罠にハマるしアンノウンの姿は見えないしで疲れがたまっている。
「あ~スキエンティアで疲れも全部消せればいいのに」
「でも全く消せないよりましだよ」
トボトボ歩きながら弱音を吐く僕カッコワリー。
「ん、どうしたの?」
不意に白金さんは立ち止まり、リーヴスラシルを抜き天井を斬る。
天井が崩れ落ちると同時に何かが僕たちの前に落ちてきた。
『よく気づいたな人間』
視線をやると忍者の様な格好をした男? が立っていた。
[雪ナイス! そいつの識別コードは【アサシン】多分カオスよりは弱いと思う]
それを聞くと同時にアサシン目がけて突っ込んでいく。
『相手を見てすぐに突撃する勇気は良いが……愚かだ』
アサシンの首めがけて振った剣は躱され僕は投げ飛ばされた。
「いてーなこの野郎」
「はぁっっっ!」
今度は白金さんがアサシンに斬りかかる。剣はかすった程度でダメージにはならないだろう。だがその後に放った蹴りは当たった。
『ぐっ……だが甘い!』
アサシンは一瞬よろめいたがすぐ体勢を立て直し小さいナイフを白金さんに突き立てる。
「甘いのはそっちもでしょ」
そのナイフをギリギリで避けて今度は拳を叩き込む――がそれは躱され僕と同じように投げ飛ばされる。
「このっ!」
僕がもう一度斬りかかろうとするとアサシンはすぐに消えた。
「天野君一回学校から出よう」
白金さんは僕の手を握り【ユグドラシル】の中にテレポートした。
「二人共大丈夫?」
「ああ」
「うん」
知与川の問いに答えると二人揃って地面に座り込む。
「さて、どうしたもんかね……」
知与川は考え事をしていて悪いのだが気になっていることを聞く。
「そういえばここは襲われたりしないのか?」
「ん? ああ、しばらくは大丈夫だよ。この前も言ったけどこの中は特殊でアンノウンも入ってこれないし」
「しばらく?」
「そうだよ、結界壊されたら終わりだし」
「結界?」
「あれ言ってなかったっけ? まあ今度説明するよ」
そういえば大事なこと何一つ説明されてない気がする……
まあ、今度問い詰めよう。
「よし二人共休憩は終わりにして作戦会議するぞ」
――作戦会議を始めてから五分ほどたったが具体的な案は出ない。
会議といえば普通何時間か掛かるものだろう。しかし今は時間がない。
「天野、雪二人とも戦ってみてどうだった?」
「まず、相手は名前の通り暗殺の様に隠れて戦っていて私達も最後に会っただけでそれ以外姿も見てないわ」
「あ~あと、近接も強かった」
「う~ん、あれは見たところ多分独自の格闘術できちんと型があるな」
モニター越しに見ていたのだろうがよくあれだけで独自の格闘技だとわかるな。
「あの格闘技は見たとこ相手を倒すというより相手から逃げることを前提しているように思う。そのことを頭に入れて格闘術には対処してくれ」
「具体的にはどうすればいい?」
「二人とも剣を使うからリーチがある。だから相手と一定の距離を保ちつつ逃げる素振りを見せたら近寄って逃げられない様にしてくれ。あとはそうだな僕がアサシンの行動を読んで伝えよう」
「分かっ……え?」
「もうさっきの戦いでデータは揃った。今度はこっちの番だ」
[二人共アサシンは隠れながら攻撃してきている。だから最も隠れやすく逃げやすい場所にいる例えば――二階の倉庫とかかな]
[了解]
倉庫の下にある教室に入り天井を崩壊させながらアサシンに迫る。
「よう、さっきはどうも」
「きたか小僧」
アサシンに斬りかかる。
[天野そのまましばらく耐えてくれ! その間に雪はその教室を結界で囲んでくれ!]
[[了解]]
この前は白金さんに助けてもらってばかりだった……。
だから今度はひとりでも戦えるよう努力した。
「ファースト・アクセル!」
この技は二倍速で動ける。更に何度もこの名前を使いながら発動したからイメージを省ける。
『なに!?』
アサシンの拳を避けその腕を切り落とす。更にゼロ距離からの火炎攻撃。
『オォォォォォっっ!』
悲痛な叫びが木霊する。しかし攻撃は止めない。
「チッ」
アサシンが離れて逃げようとする――が、結界は既に張られていた。
「無駄だよ!」
『これで終わりだと思うなよ!』
アサシンはそう言うと体を治し小さいナイフを取り出す。
『ッ――』
アサシンが無言の気合とともに斬りかかってくる。
ちょうどそこでファースト・アクセルが切れる。この技は三十秒が限界だ。
一撃、二撃と受け流すが三撃目で剣をはじかれ刺し貫か――れなかった。
そのナイフは白金さんによって砕かれていた。
その隙に距離をとる。しかし、ここはあくまで一つの部屋だ。とれた距離は約十メートル。
一瞬で詰められる距離だ。
「白金さん結界を解いて!」
「了解!」
こうなればイチかバチか試すしかない。
「セカンド・アクセル!!」
体と脳が焼けるように熱い。動悸も激しくなり汗が滲む。
しかし、この技はイメージも二倍で出来る。その代わり時間は十秒が限界。
つまり残された時間は後十秒。
「ッッッ――」
一気に距離を詰め剣に電流を走らせながら斬りつける。その一撃とほぼ同時に結界が解かれ、部屋は吹き飛び校舎も崩壊する。
残り九秒。
逃げようとするアサシンの進行方向に先回りして剣を突き立てる。その剣の周りの気温を一気に下げアサシンを氷結する。
残り八秒。
氷結したアサシンを粉々にするべく剣を叩きつける。が、氷結をアサシンは解き剣を躱す。
残り七秒。
だが逃がしたりするものか! アサシンが逃げていく方に全力で飛び再び剣を突き立てる。
残り六秒。
アサシンは消滅したがアサシンは自分自身に呪いをかけていたらしく剣が数千本出て来る。
残り五秒。
白金さんの迫り来る剣を破壊するべく走り出す。だがそんな心遣いは不要だった。白金さんはすべての剣を躱していた。僕も自分に迫り来る剣を避けることに専念することとしよう。
残りゼロ秒。
剣は消え意識が朦朧としてきて倒れる。ああ、少し力使いすぎたかな……。