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この世界で願いのために戦う僕の物語  作者: KOKOA
第7章 閉幕《イ二ティウム》
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64話 この世界で願いのために戦う僕の物語

 ――――全ての神は倒した。

 だが、僕もこのまま死ぬ。

 このまま目を閉じればそれで全てが終わる。

 ――だけど、まだ僕には成すべきことがある。

「来たか……」

 最後の敵が目の前に立っていた。

「ああ……」

 どちらも死ぬことは決まっている。

 この世界は守られた、同時に滅ぼされる。

 最高神は新しく決められ、世界は新しく始まる。

 故に、僕と奴が戦うことに何も意味はない。

 だけど、戦わなければならない。


「僕はお前を倒す。仲間と約束したからな。――世界を守ると」

 僕は願いのために。――世界を憎んだ。人を憎んだ。それでも世界を守ると約束をしたから。


「私はお前を倒す。ロキと約束をしたからな。――世界を滅ぼすと」

 奴は願いのために。――世界を赦した。人を赦した。それでも世界を滅ぼすと約束したから。


 だから奴と僕は戦わなけければならない。

 互が同じ願いを持った。だが、正義が違う。

 互いに貫くは正義。ならば、戦うのは必然だ。


『さあ、これが最後だ。物語はこれで終わる――!』


 奴は思い切り地を蹴り上げ、真っ直ぐに突っ込んでくる。

 そこに僕も思い切り、翼で加速して突っ込む。

 黒い剣が奴を切り裂けば、爪が僕を切り裂く。白い剣で貫けば、爪で貫かれる。

 だが、すぐさま光が補填し、修復される。傷はすぐに癒える。痛みもない。

 決着がつくとしたらどちらかの魂が壊れ切った時だ。

 爪を弾き、斬りつければ剣が弾かれる。油断は一瞬たりとも出来ない。気を緩めればその時が最後だ。

 死にたくなかったら、相手を殺せ。どちらかが死ねばそれで終わる。

 相手の爪が僕を貫く。だが、それで相手は動けなくなる。その瞬間に二刀を突き立てる。

 全ての神経が研ぎ澄まされていく。

 避けるのは最低限。致命傷を避けられればそれでいい。

 そもそもこの体はとうに朽ちている。残るは魂のみ。魂が尽きる前に奴を殺す。それができなければ死ぬだけだ。

 だが、それは奴も同じ。

 僕もあいつも目の前の死をねじ伏せ、自らの敵を己の命が尽きる前に殺そうとしている。

 既に答えは得ている。ならば迷う必要はない。迷うこともない。

 僕はただ願いのために戦うだけだ。

 爪と剣が交差するたびに意識が途切れそうになる。だけどなんとか細い糸を手繰り寄せて次に繋ぐ。

 もうとうの昔に限界など超えた。それでもまだ先がある。まだ終わりが見えない。

 少しずつ残された命が摩耗していく。あとどれだけ戦えるのか。

 色彩が消えていく。音が消えていく。手足の感覚が消えていく。だが、体中に力を回し、すぐに修復する。

 今まで限界を超えて剣を振るっただがそれも限界だろう。

 目の前の敵が死を振り上げる。

 意識が遠のく。もう、これで――――。



 

 物語を読む。

 僕は何を願ったのか……。

 何もなかった。空っぽだった。普通の人が手に入れる幸せを羨んだ。だが理想を手放すことは出来なかった。だから幸せが手に入ることはないと自分で自分を嗤った。お前が幸せを手に入れるなど馬鹿なことがあるかと。

 だから泡沫の夢に溺れた。だからその夢が続くことを願った。だから願いを叶えるために戦った。

 これが僕の物語だ。

 でも、これで終幕だ。もう何も残されていない。

 最後ぐらいはハッピーエンドを見たかったけど、まあそんなに悪くはない結末だろう。

 世界も守った。約束も守った。

 あとは運命に、世界に任せよう。それに、目を閉じればまた夢の続きが見られるかも知れない。

 

 そういえば、皆は最後に何を思ったのかな……。たしか、最後に皆が見ていたものは――――。


 ああ……そっか、まだ僕は夢に溺れているんだ。

 僕は皆に託された。皆が信じてくれた。なら、僕は夢をまだ見ていられる。

 だったら僕は戦う。


 まだ、物語が終わっていないなら僕は戦う――――!

 

 

 

「ぁぐぅぁああああ―――!」

 叫ぶ、力を巡らせる。立てなくても飛べばいい。

 僕はバッドエンドなんて許さない。物語の最後はハッピーエンドだけでいい!

 

 死を真正面から斬り飛ばす。

 だが、剣はそれで消滅した。

 ならば――――。

 両手が槍を掴む。グングニル。その神の槍は全てを貫く。だが、やつを殺すにはまだ足りない。

 だから残る全てを――僕の全てを賭ける。

 槍は桜色に染まる。


 ――――ユグドラシル。


 僕の願いを力の限り握る。

「あああぁぁあああぁ――――!」

 ユグドラシルは敵の心臓を深く貫いた――――。



 

 満点の星空の下、桜吹雪が舞うここには僕と狼しかいない。

 奴は光となって消えいく。

 奴と僕との間に言葉はない。全てが終わった。ならば語ることもない。

 僕ももう少しで消える。だけど、物語が終わるまであと少しだけ時間が残っている。

 だから、僕は空を見る。

 綺麗な星空の中、舞い落ちる桜を眺める。

 この幸せな物語を終えるに相応しい最後だ――――――。

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