43話 花
「とりあえず金下ろしてくる」
「分かった。欲しい物があったら言ってくれ、ネットで頼むから。多分明日には届くと思う」
「いってらしゃーい」
頷きを返し、ATMのある場所に向かうとしよう。
確か、広間にあったはずだ。
欲しいものを考えながらテクテクと歩く。ユグドラシルは広く、僕もまだ行ったことのない場所も多くあるはずだ。
「えっと、確かこっちだったはずなんですけど~」
鈴のようにきれいに響く声がして前を見てみる。
赤い瞳。真っ白なセミロングの髪。透き通るような白い肌。綺麗で可愛さもある。とても人間とは思えない。神秘的で夢をみているのかと疑ってしまう。
視線が自然と吸い寄せられていたせいでその人と目が合う。
するとパッと表情が明るくなり近づいてくる。
「あ、あの司令室ってどこですか?」
「えと、このまま真っ直ぐ行くと広間に出るので、そこで左に曲がってください」
「ありがとうございます」
その少女は来た方向と逆に走って行く。
本当は僕が付いていけばいいのだろうが、そんなことを言えるほど人慣れしていない。悪いな白髪の――ん、白髪?
そこでハッとする。さっきの姿はどう見てもインペリウムを使った時の姿だ。でも白髪の人なんてここで見たことがない。
直ぐに士希へ伝えようと頭の中で士希と電話をしているイメージをする。
[あ、士希か? 今、白い髪の女の子が司令室に向かってったんだけど大丈夫か!?]
[え? ああ、大丈夫だよ。その子に心当たりがあるから司令室に行くよ。わざわざありがとうな。]
そう言って会話が途切れた。
まあ、士希が大丈夫だというのなら大丈夫なんだろう。
とりあえず僕は金を速く下ろして、祭りに向かおう。雪が待ってる。
ザワザワと色々な音が混ざっている。遠くでは笛と太鼓の音がなっていて自然と心が盛り上がる。
「じゃあ、どこから行こうか!?」
黒い生地に花火が描かれた浴衣を着た雪はいつになくテンションが高い。
それぞれ用事を済ませ浴衣を着始めたのだが、なぜか着付けがわからないのは僕だけだった。だけど士希がやってくれたので日が落ちきる前に天条神社につくことができた。
「じゃあ、花火が始まるまで片っ端から回るか」
士希の目も輝いていた。多分こういうのあんまり来たことがないんだろう。
セミがジリジリと泣く音を遠くに聞きながら喧騒の中に歩き出す。
ここの祭りに来たのは何年ぶりだろうか。どこか懐かしく感じる。
「じゃあ、射的でもやるか」
まずは食べるよりも遊んだ方がいいだろう。こういう時に食べ物から先に買うと荷物が増えて遊びにくくなる。
三人で銃を構える。三発で五百円とそこそこな値段だが、今は痛くも痒くもない。
スパーンといい音を立ててそれぞれの弾がそれぞれの商品に当たるがびくともしない。
……これ絶対に落ないだろ。残りは二発。無駄に出来ない。
二人と目配せをし一番高いであろうゲーム機――と書いてある四角い箱を狙う。流石にゲーム機を落とせとは言わないらしい。
パンパンパンと弾が縦に並び箱の端へ当たる。それで箱が棚から少しはみ出る。
屋台のおじさんは少し険しい表情になり、椅子から立ち上がる。額には汗が浮かんでいた。当然だ、これが落とされたら目玉商品が消える事になる。こういう物は普通、落とされないようになっている。しかし三発同時に当たれば別だ。
もう一度一斉に発射する。
スパーンと音が響き箱が落ちる。
勝った! 項垂れるおじさんと三人で顔を見合わせハイタッチをする僕達。これ以上ないほど勝者と敗者がはっきりしていた。
「くそ、負けたよ兄ちゃんたち。持ってきな!」
おじさんが袋に入ったゲーム機を差し出す。おじさんの目には涙が浮いていた。
少し可哀想になってしまう。目玉商品がなくなれば人も減るだろう……。
まあ、それとこれは別だしもらうけどね!
もうすぐ花火が打ち上がる。
屋台がある場所から少し離れた場所のベンチに腰掛ける。
太鼓の音が遠くに聞こえ、蝉の音が大きく感じる。
ふー、と息を吐き伸びをする。
横をちらりと見るとなんだか知り合ったのがすごく昔のように感じた。
一人感慨にふけっていると、ヒューと音がした。
顔を前に向けると火の花が咲いた。少し立つと消えていく。そしてまた花が咲く。
子供の頃、花火を見てとても美しく感じた。だから僕は消えないで欲しかった。だけど花はすぐ枯れてしまった。だから綺麗な花ほどすぐ枯れてしまうのだと分かった。でも分かるのと納得するのは違う。どうしてもその美しさをずっと見ていたかった。
大人は花火は消えてしまうけど心に残るという。だからいつまでも自分の中にあるのだと……。
でも、それは記憶だ。もう、失ってしまったものだ。
だから僕は今手にしているこの楽しさもすぐ枯れてしまうのではないかと恐れた。でもずっと見ていたかった。やっと手にできた願いだ。
だから僕は自分で守ると決めた。――そして守ることができた。
これからも枯れそうになってしまうことはあるのだろう。――それでも僕は守る。
だって、枯れててしまうと思っていたものが、咲いていていてくれているんだ。
そんなの嬉しいに決まっている。
だから、僕は守る。消えないで欲しいから。今が楽しいから。




