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この世界で願いのために戦う僕の物語  作者: KOKOA
第六章 絶対者《ストゥルティ》
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41話 クロワッサン

 僕が聞くと雪はもじもじとしながら目を泳がせていた。

 そしてチラリと僕の目を見て少し小さい声で話し始めた。

「あ、あの……もし良かったらなんだけど明日、士希君も誘ってお祭り行かない? ほ、ほら気晴らしにもなると思うし!」

 祭りか……。正直、祭りは好きではない。あのウジャウジャとした人ごみの中、人とぶつかりながら歩くのも嫌だし。

 それに……なんだか祭りは悲しくなる。いや、普通の人はテンション上がるのは分かっている。僕も祭りには小さい頃、数回だが行ったことがある。でもいつも行動するのは一人だった。周りは賑わっており、笑い声が響いている。その中を一人で歩くと一人をなおさら感じてしまうのだ。行かなければいい話だが、親に無理矢理連れて行かれた。それでも断ることは出来た。ただあの頃は小学生の低学年だったから置いていかれて一人になるのが怖かった。

 そして祭りの会場に着くといつも僕に千円札を渡して、親はどこかに行ってしまうのだ。

 それにもう一つ理由がある。僕は祭りが終わった後のことを考えてしまうのだ。店は明かりが消え、人の気配もなくなる。そんな場所を想像するとなんだか無性に悲しくなる。

「祭りか……」

 意識もせず言葉が出る。

「あ、ごめん。もしかしてダメだった?」

 雪は少し悲しそうな顔をする。多分、僕のことを励まそうとしてくれていたのだろう。

「いや、大丈夫だよ。じゃあ、明日は楽しみにしているね」

 楽しみにしているというのは別に嘘とかではない。今度は一人じゃない。だから本当に楽しみなんだ。

「ホント!? じゃあ、また明日! おやすみ~!」

 雪は満面の笑みで部屋から出て行く。

「おう、おやすみー」

 雪が手をふりふりしてきたのでこっちも振り返す。ふと、自然と頬が緩んでいるのに気がついた。

 パタンと扉の締まる音を聞いてからベッドに再び寝転がる。

 最近、自然と笑うことが増えたなと思う。昔は笑うなんてことはほとんどなかった。笑ったとしても心の中では笑っていなかった。それが今では――。

 それを思うとまた頬が緩む。やっぱりあいつらには感謝しないとな。




「――きて~。あ――だよ~」 

 どこか遠くで声が聞こえる。なんて言っているのかはよく分からない。

 続いて肩が揺らされる。グラグラ。その振動から逃れるために反対側を向く。

 すると静かになった。

「おきて、朝だよ」

 耳にぽそっと優しい声が聞こえる。それで目が覚めて勢いよく起き上がる。

 だが、その途中ガツンと何かに当たる。

「いたぁ!」

 僕はまだ寝ぼけていてそこまで痛みを感じなかったが、声の主は後ろに倒れてしまう。

「うわっ、ごめん!」

 すぐにベッドから降りて駆け寄り、急いで額に触れ治癒魔法をかける。

「あ、大丈夫だよ。そこまでしなくても大丈夫」

 雪は座り込んだまま照れくさそうに笑って言う。だけど、額は少し赤くなっていた。

 治癒が完了したので手を離すと今度は雪が僕の額に手を置く。

「ありがとう。ごめんね、痛かったでしょ?」

 そう言って雪も僕に治癒魔法をかける。魔法ってこういう時に便利だよね。

「いや、悪いのは僕だよ。それよりこんな朝からどうしたの?」

 手を置かれている状況が恥ずかしくなり、とりあえず話を変えようと試みる。

 雪は治癒が終わったらしく、手を離すと「あっ」と声を上げる。

「そうそう、今日はお家に一旦帰るんでしょ? だったら早いほうがいいかなと思って。ごめん、早すぎたかな?」

 時計を見ると7時だった。昨日僕が眠ったのが1時だったからちょうどいい時間だ。

「いや、ちょうどいい時間だよ。ありがとう。でもよく僕の睡眠時間知ってたね」

「うん、和真君がここに泊まる時って大体、私と同じ時間に寝て起きてるから」

 雪は素晴らしく気の使える子だ。いつも助けられている気がする。

「あ、そうだ朝ごはんまだでしょ? 一応作ってあるんだけど良かったらどう?」

 ほんとにいい子すぎる。頼りっきりになってダメにならんよう気をつけてまいりましょう。

「ありがとう。仕度が終わったらいただきます」

「うん、じゃあ終わったら私の部屋に来てね。あ、それと――おはよう」

「おう、おはよう」

 



 仕度を済ませて雪の部屋に着く。

 コンコンと扉を叩く。そういえばこの扉をノックすると部屋全体に音が聞こえるのだ。まあ、どういう仕組みかは知らないけど、そんなこと気にしてたら魔法なんて使えないしね!

「はーい」

 扉が開く。雪はは白いパーカーとジーンズの短パン。そしてなぜかエプロンを着ていた。

「雪……。朝ごはん作ってあるって嘘だったろ」

 雪は自分の姿をみて小さく「あっ」と言った。

「う……。ごめん、嘘つきました」

「あ、いやこういう嘘は気にしないよ。そうじゃなくてわざわざやってくれたんだなと思って」

 雪は僕が嘘を気にしていると思ったのだろう。僕はあまり友達の間で隠し事をしたくないだけだ。だからこういう嘘とかは別に気にしない。それに僕のことを気遣ってやってくれたのだ。怒るはずがない。

「ありがとう。和真君はこれから作ると言ったら気を遣って断るかなと思ったから。たまには食べて欲しいしね」

 とりあえず雪に促されて、食卓につく。

「はい、お待たせ」

 出てきたのはコーンポタージュ、カプレーゼ、オムレツ、クロワッサン、アップルパイ、そしてココア。

「ありがとう。いただきます!」

「召し上がれ」

 お礼を言って食べ始める。

 まずはコーンポタージュ。一口飲むとコーンの甘さが口に広がる。さらにコーンが粒のまま入っているからシャキシャキと食感もいい。 

 次はカプレーゼ。トマトとモッツァレラチーズを同時に口へ入れる。これこれ、この独特の食感が好きなんだよ。オリーブオイルは油なのにすごくスッキリする。

 そしてオムレツ。中は熱過ぎず冷た過ぎず。肉の旨みが口いっぱいに広がる。

 今気がついたが雪はさっきから何も食べずこちらをニコニコしながら眺めているだけだ。

「ん? 食べないの?」

「へっ!? あ、うん食べるよ!?」

 僕が聞くと雪は慌てたように食べ始める。

 まあ、とりあえず食事に戻ろう。

 次はクロワッサン。やっぱり焼きたてのパンは旨い。なんでこんな短時間で焼けてるかは気にさない。魔法だからだ。

 もともとクロワッサンとはトルコ軍の包囲を打ち破りトルコの国旗の三日月になぞらえたパンなのだ。何が言いたいかというと勝利のパンなのでこれから家に戦いに行く僕にはぴったりなのだ。

「そういえば、クロワッサンにしたのってこれから僕が家で戦ってくるから?」

 冗談のつもりで聞いてみる。

 しかし雪はビクッと肩を揺らして、顔を赤く染める。

「よくわかったね」

 どうやらあたりらしい。思わず笑ってしまう。うん、これなら勝てそうだ。今日はこんだけしてもらったんだからちゃんと戦おう。

「ありがとな」

 雪は少し驚いたような顔をした後、優しく微笑んだ。

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