30話 ゲーム
確か今の時間は緊急クエストが来ていたはずだ。
クエストを受注するべく受付のNPCに話しかけるとクエストの一覧が表示された。その中から緊急クエストを選び、内容を確認する。
エルフの大規模部隊が攻め込んできた。拠点を守りつつ相手部隊を壊滅せよ。
カーソールを合わせそのクエストを選択しゲートからクエストに向かう。
上限人数の一〇人が集まっていたらしく僕が入ると同時、一斉に他のプレイヤーが喋り始める。
『拠点防衛に俺のパーティーは専念するので皆さんは攻めてください!』
『じゃあ俺達は雑魚やるので皆さんはボスを狙ってください』
そしてクエスト開始の合図をNPCが喋りだす。
『敵部隊発見! 我が拠点を守りつつ敵部隊を壊滅させてください!』
僕は特にパーティーに入っていないのでボスの相手だ。できればラストアタックをとりたいな。
画面が切り替わり敵が大量にpopする。そこに雑魚担当の人達が突撃し道を開いてくれる。その道を進み一気にボスまで行くとボスが喋り始める。
『小人族ごときがこの私に逆らうな!』
ちなみにボスが喋っている間はカメラがボスに固定されてしまう。しかしキャラの操作は出来るので、僕を含めたボス担当の人達はカメラの下の方にチラチラ写りながらボスを滅多打ちにしている。
そして殴り続けること十分。ボスは『おのれ……おのれ~!』と喚き散らしながら倒れた。雑魚もちょうど終わったらしく、『クエストクリア』の文字がでかでかと表示される。
その後ドロップしたアイテムを拾い、小人族の領地に帰還し大きく息を吐く。
「和真君上手いんだね~」
「そんなことないよ」
褒められたことは嬉しかったが一応謙遜しとく。…………ん? 褒められた?
バッと横を見ると長袖のパーカーとデニムの短パンを着た雪が、眠いのか目をこすりながら画面を見ていた。
「あの……なんでいるんですかね~?」
「用事があるから部屋に行ってもいい? って聞いて、うん、って言われたから来たんだけど……覚えてない?」
どうやらゲームに集中しすぎて空返事していたらしい。。
「ごめん、空返事だった。で、用事って?」
「とりあえずユグドラシルまで来てもらってもいい? あとたまには歩いていかない?」
「テレポートじゃダメなの?」
「テレポートでもいいけど、なんとなく歩きたくて」
時計を見ると一〇時三〇分だった。まだ補導されるような時間ではないがこんな時間に男女二人が歩いていたら怪しいだろう。う~ん、まあ別にいいか。
「わかった。でも玄関から出たらバレるから、外まではテレポートでね」
「ありがと」
そう言って雪は嬉しそうに微笑み僕の腕にそっと触れたが一旦手で制止する。
「待って、ゲームの終了と着替えたいから後ろ向いてて」
僕がそういうと雪は少し顔を赤らめ素直に後ろを向いてくれた。
最初にログアウトし、電源を切る。次に洋服をしまってある場所の扉を開けしばし考える。
え~と、春だし薄手の長袖と、デニムの長ズボンでいいか。
「よし、じゃあ行こうか」
「う、うん」
着替え終わるり、振り向いて声をかけるとさっきより顔を赤くした雪が振り返りながら返事をした。
「どうかした?」
「な、なんでもない!」
心配して声をかけると、雪はビクッと体を強ばらせた後、僕の腕を掴み外にテレポートした。
歩き始めてからも暫く顔を赤くしたまま俯いていたが、ふと何かを思い出したように顔を上げる。
「そういえば和真君ってインペリウムを使う時、何を願いにしたの?」
「願い? 僕の願いはやっと出会えた楽しいと思えることを守ること」
「楽しいこと?」
「そう、楽しいこと。今まで僕は楽しいと思えることがなかったんだけど、雪たちと一緒にいると楽しいから、その楽しさを守れたらなって思ってね」
「そっか、私は願いがないから羨ましいな…………。なんてね! 私も今すごく楽しいよ!」
雪は寂しそうに呟いた後、誤魔化すように明るく笑うのだった。
僕は何かを言いたくて立ち止まり口を開いたが、何も出てこず、口を閉じるしかなかった。
仕方がないので再び歩き始めようとした次の瞬間。わけもなく不安になるような雰囲気を背中に感じ咄嗟に振り向く。
「あらあら、天野さんこんな時間に出歩くなんて感心しませんね。怖い怪物に食べられてしまうかも知れませんよ」
振り向いた先には吉良が立っておりクスクスと不気味に笑っていた。
「あれ、吉良さん?」
「あら、白金さんもご一緒でしたか」
吉良は雪に最初は気づいてなかったかのような素振りを見せる。
「吉良、なんのようだ?」
眠気はもう飛んでいた。僕は気を引き締めながら問う。吉良がたまたまこんなところに居るはずがない。
「そんな怖い顔をしないでください。ただゲームをしに来ただけですよ。……命懸けのね」
そう言ったあとに薄く微笑みながらボソリと聞き逃してしまいそうなほど小さな声で呟いた。
「タナトス……」
次の瞬間には僕の目の前まで一瞬で移動し二メートルはあるだろう巨大な黒い鎌を振り抜いた。
「サード・アクセル!」
雪を抱き抱えそれを後ろに飛び既の所で避ける。
「あら、避けられてしまいましたか。残念です」
吉良は肩を落として、わざとらしく残念がっていたが、すぐにやめもう一度、鎌を構え直す。
雪をちらりと見ると驚いているというより怖がっているかのようにガタガタと震えていた。しかし震える口で一言言葉を紡いだ。
「あなた……だったのね……」




